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第13話

 店の冷蔵庫を開けて、春樹はまた泣きそうになるのを堪えた。冷蔵庫。空っぽだと思っていたのに、自分が死ぬなんてまったく考えていなかったような。食材で埋まっていた。冷凍庫に食パンを見つけた。冷蔵庫には卵とチーズ。牛乳まであった。


「くそじじい」


 食パンをトースターで焼き、卵と牛乳、チーズでスクランブルエッグを作る。食パンで挟めばサンドウィッチ。味付けは塩だ。ケチャップ、マヨネーズはありえない。春樹のこだわりだ。


「食え。わたしは仕事がある」


 ソファーに座る子どもの前に、一応食べやすいように切ってある。こだわってはいるが、春樹自身は食べない。朝は基本的に食べない。昨日の続きを書かなければ、殺されたまま、まだ発見されていない死体に申し訳ない。第1発見者に登場してもらって。


「ねぇ。あんたは食べないの」


「ああ。いらねぇ。勝手に、口に合わねぇか。

 わたしは春樹だ。呼び捨てでいい」


 せっかく作ったサンドウィッチにフリーズするぐらいだ。もっと豪勢な食べ物でなければ口に合わないのか。そうだったら、春樹は自分で作れと言うつもりだった。


「春樹。オレはセフィリウス。口に合わないわけじゃない。えっと、つまりだな」


「面倒くせぇ。なんだ」


 狼が2人の会話に埒があかないと思ったのか、口を挟んだ。


「俺はアルバイダ。これは何だ。食べ物か」


 今度は春樹がフリーズする番だった。サンドウィッチを知らない。知らないなんて考えてもみなかった。外国人ならご飯よりパン。安直な考えで作ったのが、あだになった。


「ちょっと、アルバイダ。オレの台詞取らないでくれる。せっかく作って貰ったんだ。言い方ってもんがあるだろ」


「無意味な会話をしたら、時間が勿体無い。

 春樹が忙しそうだった。でも軽率だった。すまない」


「謝られることじゃねぇ。食い物だから、かぶりつけ」


「「かぶりつく?」」


「たく。面倒くせぇな」


 頭をガシガシかきながら、立ち上がり、2人の前のサンドウィッチの皿を回収。アフタヌーンティーに出てくるサンドウィッチのように、一口で食べられるようにして、弁当用のピックなんていう洒落たものはないから、楊枝をさして2人の前に置いた。


「これでいいだろ」


 1つを自分が食べてみせた。わたしがこんな事をしなければならないんだ。世の中のお母さんは本当に凄い。2人がようやく楊枝にささったサンドウィッチを恐る恐る口に入れた。感想も言わず黙々と食べる2人に、春樹は安堵した。味の感想は聞くまでもない、2人の尻尾が勢いよく振られているから美味しかったのは、間違いない。



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