ニット帽がもぞもぞと動き出し、2匹が外に出た。白銀の狼が口を開いた。唸り声や遠吠えではなく人の言葉を喋り出した。
「魔法。最後まで維持していただかなければ、困る。セフィリウス殿下」
白い毛に黒い斑ら模様の豹もまた、人の言葉を話し始めた。
「はいはい。堅苦しい。アルバイダの小言は聞き飽きたよ。仕方ないだろ。この世界に来るのに、かなり力を使った。人型にすら戻れない。力を取り戻さないことには、どうしようもないだろ」
「そうだな」
2匹にも、この場所はもの珍しいものばかりだ。肌触りの良い暖かい袋も初めてで、口には出さないが、しばらくこの中にいても良いとさえ思っていた。ぴくっ。2匹の獣の耳が同時に動く。微かな音にでも獣人は敏感だ。
「眠れねぇ。当たり前か」
立ち上がった春樹は、ニット帽から出ている2匹に少し驚いた。しゃがみ込み2匹と目線を合わせる。
「起きてたのか。子どもの豹と子どもの狼か。一緒にいや、水いやお湯は苦手か。待ってな。良い子にして」
春樹は2匹の頭を撫でて2階へ上がっていく。2匹はいやセフィリウスは動けなかった。美しく怖い男を生まれて初めて見たのだ。
「なんだ。あれは。目付き悪いな」
「突っ込むとこが違うだろ。オレも初めて見たけど。ここの人間は全員があんなに美しいのかよ。つうか、なに。あの匂い。気が狂いそうになる」
「匂い。俺には分からない。今はまだ、見守るしかない。人型になれないなら説明する手間が増える」
「そうだなぁ。おいおい、匂いについて探れば良いか。あの男の手は温かかった」
2階から彼が戻るまでおとなしく丸くなっていた。