カウンター席に座り、手紙を春樹は読むことにした。懐かしいじじいの字を見て、また涙が出そうになるのを堪えながら、読んだ。
春樹
おまえが、この手紙を読んでいる頃には、わしは死んじまっているだろう。頑固なやつじゃから、意地を張って帰って来んだろうと思ったら、死ぬまで帰って来ぬとはな。おまえは熱中したら寝るのも食べることも忘れる。じゃから、ここにいた頃は全部お前にやらせた。掃除、洗濯、食事の用意。大学まで行かせたのは意味があったじゃろ。
笑っていてくれればそれが1番じゃ。通帳はわしがために貯めた金じゃ。おまえの名義にしてある。何かあったら使うんじゃ。それからもし、この店に行き場のない者が来たら、住まわせてあげなさい。わしからの願いはそれだけじゃ。
幸せになるんじゃぞ。
手紙はそれで終わっていた。お金なんて春樹はこれっぽっちも要らなかった。お金を残すぐらいなら長生きして欲しかった。
「金なんていらねぇ。くそじじい。これじゃあ、誰からの手紙か分からねぇじゃねぇか。行き場のない者。わたしがここに住め。そうゆうことですか。まったく昔から勝手なじじいだ」
悪態と涙が止まらない春樹は、通帳は開かずに手紙の封筒の中にしまい、カバンに入れた。スマホを取り出し、担当編集に電話をかけた。住む場所をここに移すからマンションから引っ越す。短い電話をしたのだが、ものすごい勢いで怒鳴られ居場所を聞かれて、住所を送ると直ぐに行くと言われて電話が切られた。