葬儀場の前で長い黒髪を、風に靡かせて喪服姿で、涙を流している身長165しかない男がいた。
「ちっ、勝手に死ぬんじゃねぇよ。悪ぃな。葬式出られなくて」
今日は男。神山春樹の祖父の葬式だった。髪は切るな。腰まできたら肩ぐらいまで切っていい。よく分からないこだわりを持つ祖父だった。実の両親が死んでから父の兄夫婦に引き取られたが、疎まれ、暴力を振るわれ、怪我で病院に入院したことをきに祖父の家に行く事になった。結果的にそれが良かった。
「朝から晩まで家の事をやらされて、学校は休むな、勉強もかかすな。留年は許さん。口煩いじじいだった。大好きだったよ。わたしの小説。読ませてやりたかった。安らかに眠れよ。せめて、本を棺桶にいれたかった」
行ったら義理の家族に金をせびられる。真っ平ごめんだ。さて行くか。ここには用はない。
春樹は葬儀場に背を向け、立ち去ろうとした。背後から走ってくる足音が聞こえて足を止めた。
「誰だ」
「神山貞治様にお世話になっていた者です。
こちらの鍵を渡すように。生前頼まれていました」
「知らないな。どうしてお前はわたしを知っている。わたしが鍵を渡す人物かは分からないだろ」
「分かりますよ。髪。長い黒髪で目つきの悪い不良。見た目が怖いだけで、実は「結構だ。さっさと鍵を渡せ」
「分かりました。本。サインをしてくださいますか。貞治の棺桶に入れてくる」
「はぁ。頼んだ」
春樹は鍵と本を交換した。鍵を見てすぐに分かった。じじいがやっていたさして繁盛していない。カフェ異世界なんて変な名前の店。あんな店さっさと売ってしまえば良かったのに。
「行ってみるか。久しぶりに」
作家デビューしてからは行く事はなかった。胸を張ってじじいに会いたかった。オメガの俺を育ててくれたから。