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第20話 覇王の戦い 前編

 ミスリル王国への最終通告から一週間が経過し、ついにロルバンディア軍は宣戦を布告した。


 ロルバンディア軍は大公アウルス自ら十個艦隊、一万五千隻もの艦艇を率いてミスリル王国に向けて出撃する


 逆賊であるエルネストの引き渡しを拒絶した以上、ミスリル王国はロルバンディアに敵対行為を取ったと判断したからであった


 ロルバンディアの大義名分は明らかであるために、ブリックス王国もアヴァール大公国もロルバンディアの支持を表明していた。


「エルネストの奴、どこまでも嫌われているようだな」


 アウルスは自らの旗艦、インドラの自室にてアイリスに向けてそう言った。


「ブリックス王国が支持をしてくれるのは、やはり殿下の外交手腕が優れているからですわ」


「それは違うな」


 自ら茶器を用意しながら、アイリスと自分のためにアウルスは茶を入れる。


「クラックスはもともと、アレックス王のことが嫌いだった。そこに来て、逆賊のエルネストまで匿っている。そんな国を支援するわけがないだろう」


「それはそうですが、クラックス王からすれば中立という選択肢を取ることもできたはずです。支持をされたのはやはり、殿下の大義を認めた為。そして、殿下がしっかりとその意をお伝えしたからですわ」


 アイリスに褒められると、アウルスは戸惑いながらまだ熱いままのお茶を口にし、やけどしかけてしまった。


「熱い!」


「大丈夫ですか?」


「あ、ああ、別に平気だ。だがアイリス、君は私を高く評価しすぎているぞ」


「そんなことはありませんわ。殿下こそ、私を高く評価しすぎです」


 笑顔で答えるアイリスに、アウルスは恥ずかしくなり思わず目を伏せてしまった。


「と、とにかくだ。ミスリル王国へと我々は攻め入る。覚悟はできているか?」


 アウルスからの問いにアイリスはティーカップをテーブルに置いた。


「もちろんです。決して殿下にご迷惑はおかけしません。わがままを言い出したら追い出してくれてかまいませんので」


 覚悟はとうに決めている。


 父も兄たちもすでに覚悟を決めて反乱を起こしている。


 かつての仲間たちと戦う覚悟は当の昔に出来ていた。


「そうか、ならこの話はここまでだ。最終打ち合わせに向かうとしよう」


 アウルスは颯爽と立ち上がり、会議室へと向かう。


 決して偉ぶることもなく、自然体でありながらもその姿は誰よりも覇気に満ち、威風が漂っていた。


 生まれながらの王者であり覇者、それがアウルスであることをアイリスは婚約者として少々誇らしく思ったのであった。


****


 会議室には宇宙艦隊司令長官であるサヴォイア・アルス・マルケルス大将を筆頭に、綺羅星の如き提督陣が集まっていた。


(やはり、ロルバンディア軍は違うわ)


 心の中でアイリスはそうつぶやく。


 ロルバンディア軍の提督たちは若く、そして全員が凛々しく強者の雰囲気を醸し出している。


 ミスリル王国軍がエフタル公とザーブル元帥に鍛えられた、歴戦の将兵たちだとすれば、ロルバンディア軍は少壮にして精鋭ぞろいの提督たちだ。


「それではこれが最後の会議となる。心しておくように」


 座席についたアウルスがそう言うと、全員が険しい表情となった。


「では、始めましょう。今我々はヴァレリランド星域に向かっております」


 ヴァレリランド星域はロルバンディアとの国境となるミスリル王国の領土だ。


「ヴァレリランドはロルバンディアとの交易の拠点であり、ここにはロルバンディアに通じる回廊が存在します」


 マルケルスが言うように、ヴァレリランドにはルーエルラインの回廊が存在していた。


 ここを通れば、航行不可能領域を安全に超えることができる。


「手始めに、ここを通過して我々はトールキンへと攻め入る。だらだらと長引かせるつもりはない」


「お待ちください」


 自分がいることが場違いであることを知りながらも、連合風のスーツに身を包んだアイリスはあえて手を上げた。


「ヴァレリランドは確かにトールキンから一番近い位置にありますが、難攻不落です」


 ヴァレリランドは交易の拠点であるが、同時にいくつかの防衛衛星と艦隊に囲まれた難攻不落の防衛線でもあった。


「それにここを突破するのは通常のやり方では不可能です。守備しているタルカス侯爵はお世辞にも有能とは言えませんが、それでも突破は困難です」


 タルカス侯爵は無能であるが、そんな無能でも守れるほどヴァレリランドの守り自体は鉄壁なのだ。


「いやあ、真にアイリス様の言う通りですが、安心ください。それを覆す策がございます故」


 堂々と答えるのは、第一遊撃艦隊司令官に任じられたウイリス・ケルトーであった。


「ケルトー、いちいち出しゃばるな」


「殿下がアイリス様をお助けしないから、私が助太刀しているのですぞ。時系列は正確に、お願い致します」


 あのアウルス相手にここまで言えるのは、ケルトーぐらいなものだろう。


 その堂々とした態度に、アイリスは一目置いていたが、周囲の提督たちが苦笑していた。


「まあいい、確かに真正面から戦えば突破は困難、いや、不可能だな。ヴァレリランドには防衛衛星だらけだ。回廊の出入口に多数設置し、侵入してくる艦隊を撃破し続ける」


 ヴァレリランドの防衛線は、アイリスの父であるエフタル公が構想し、長兄であるレスタルが完成させた代物だ。


 防衛衛星が自動的に機能してくれるだけに、誰が指揮を取っても守れるようにしている。


 ルーエルラインという地の利も生かしているだけに、十万隻の艦隊が攻めてきたとしても突破は無理なのをアイリスは知っていた。


「エフタル公が構築した防衛網だ。通常のやり方では不可能だろうな」


 通常のやり方というアウルスの言い回しに、アイリスは首を傾げた。


 一体、どういうやり方があるのだろう?


「それについては、私にお任せください。ようは、ルーエルラインを越えればいいのですよ」


「どのようにしてですか?」


 自信たっぷりのケルトーにアイリスは質問を重ねるが、ケルトーは不適な笑みを浮かべた。


「ルーエルラインは難攻不落ですからなあ、森羅万象を相手にするようなものです。ですが、それを相手にさえしなければ何の問題もございません」


 全員が頷く中で、アイリスだけが困惑していた。


 ルーエルラインは、現在のワープ航法では越えられないほどに広大に広がっているからだ。


「アイリス、君の心配は分かる。まあ、見ていてくれ。私の戦争のやり方をな」


 ほくそ笑むアウルスはいつにも増して、覇気を高ぶらせていた。


 その姿にアイリスは頼もしくなるも、今だ突破したことのないルーエルラインをどうやって攻略するのか、不思議で仕方が無かったのであった。 













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