「これで僕を縛って」
差し出される赤いロープ。
赤い糸なんかよりももっと強固に縁を結ぼうと。
「生まれ変わっても私たちは必ず出会うわ」
ヒロインは儚げな微笑みで応える。
未来永劫、結ばれる二人。
手に手をとった主人公たちはとても幸せそうだったけれど。
お互いの一族郎党を滅ぼしたのち、心中するラストに観客は震えてしまう。
文化祭なのにひたすら救いのないバッドエンド。
幕が下りたのに拍手をする人も申し訳程度で、明らかなため息がいくつも聞こえてくる。
誰?! こんな台本書いたのは!!
恋愛物を上演すると聞いていたから思い切って憧れている先輩を誘ったのに、悲恋すぎてひとかけらの幸福感も残っていなかった。
恋をしているあなたに贈る物語とか、恋人のいるあなたはぜひご覧下さいとか、そういった前振りであおっていたので、これはひどいとしか言いようがない。
終幕の合図に立ちあがり、先輩と並んで歩いても空気が重い。
だから、チケットと引き換えに渡されたパンフレットの裏に書かれた文字に気づいたのは、言葉少なに会場を出た後だった。
『滅べ、リア充!』
思わず先輩と一緒に覗き込み、同時に吹き出してしまった。
手書きの文字があまりに力強いから、笑いが止まらない。
公演者たちの思惑はわからないけれど、パンフレットに書かれた言葉とセットで、本当の終幕の気がした。
お腹が痛くなるぐらい笑って見つめ合う私と先輩の未来は、演劇とは関係なくハッピーエンドに決まっている。
【 おわり 】