遠くから見ているだけでよかった。
近づくとうまく話せないから。
朝は少しだけ早く教室に入り、窓から校門を見る。
登校してくるたくさんの生徒の中から、あなたを探しだす時間が好き。
いた。
あいかわらず眠たそうな顔をして、ちょっとだけ右側の髪の毛が跳ねている。
後ろからポンと肩を叩かれて振り返り、級友だと気がつくとはじけるように笑った。
パッと輝く太陽みたいだ。
友人と楽しげに、何か話をしている。
まぶしいぐらいにキラキラしているけど、屈託がないうえにどこか愛嬌がある表情なので、思わず微笑んでしまう。
自分に向けられた笑顔ではないけれど、それで充分だった。
胸の奥がほっこりと暖かくなる。
瞳を閉じて、耳を澄ます。
あなたの声が聞こえてくる気がした。
宿題や昨日のテレビ番組のことを、何気ない調子で話しているはず。
だけど、どこか気真面目だから、一番最初は朝の挨拶に決まっている。
もう少ししたら、教室の中に入ってくるよね。
そうしたら、見つめることもできなくなるのが少し悔しい。
同じクラスだから、小さな幸運と小さな不幸は隣り合わせ。
私は胸の奥でそっとつぶやいた。
ひっそりと、こっそりと。
「おはよう」から今日も始まる。
【 おわり 】