「今日は入院多いから、準備お願いね。」
夜勤看護師から、そう引継を受けた。交通事故に遭い、救急搬送された若い患者、自宅でお風呂上がりに倒れて骨折した年配の患者、自宅のベッドから転落し、
「…。今日は大変そうだなぁ…。」
引継が終わり、日勤帯の仕事を開始する由紀。
「松田さん、受持ちは
「はい。分かりました。」
由紀はバイタルチェックのため、ノートパソコンと血圧計、体温計、パルスオキシメーターをワゴンに乗せ、それぞれの病室を訪れる。
「大岩さん、おはようございます。では、バイタル測っていきますね。」
「はい。お願いします。」
「交通事故、大変でしたね。」
「通勤途中に、信号無視の車が突っ込んできて…。本当に災難でした。」
「血圧112/68、脈拍72、SpO2《サーチレーション》98、はい。いいですね。痛いところはないですか?」
「骨折したところはやはり痛いです。」
「痛みが強いようでしたら、痛み止お出ししますので、遠慮なくおっしゃってくださいね。」
「ありがとうございます。」
重成は左腕と右足を骨折していた。頭はそれほど強く打っていなかったのが幸いだったが、顔は傷だらけで、処置の時にガーゼを交換しなければならない。
電子カルテにバイタルを入力し、
「次は山田さん、っと。」
と電子カルテをみる。
「ああ、この方がお風呂上がりに倒れて骨折した患者さんね…。ヒートショックかしら?それとも…。」
由紀は考え込んでた。
「山田さん、おはようございます!具合はいかがですか?」
「おはようございます。動けないからつらいですね…。」
「そうですね。まもなくリハビリが始まるかとおもいますので、身体を少しずつ動かしていきましょうね。では、バイタル測っていきますね。」
由紀は患者ひとりひとりに、
由紀は、重成のバイタルチェックを終え、処置室へ向かう途中、重成の表情が気になった。
「あの… 大岩さん、何かお困りですか?」
重成は、少し戸惑った様子で、
「いえ、別に… ただ、この怪我で、仕事も休まなきゃいけなくて…」
「そうですか… でも、今は治療に専念することが大切ですよ。焦らず、ゆっくり治してください。」
由紀の言葉に、重成は少し安心した表情を見せた。
「松田さん、優しいですね。ありがとうございます。」
「いえ、とんでもないです。私も、早く良くなってほしいと思っています。」
その日から、由紀は重成の担当看護師として、頻繁に彼の病室を訪れるようになった。
重成は、由紀の丁寧で優しい対応に、少しずつ心を開いていくように。
「松田さん、あの… 聞いてもいいですか?」
「はい、どうぞ。」
「あの… 僕、松田さんの笑顔が、すごく好きです。」
重成の突然の告白に、由紀は驚き、顔を赤らめた。
「え… あの… 」
「あの… 僕、松田さんと、もっとお話したいです…!」
重成のまっすぐな瞳に、由紀は自分の気持ちに気づき始めた。
「… はい、いいですよ。」
「松田さん、僕は松田さんのことがもっと知りたいです。…こんな気持ち、初めてです。……なんか、すみません。」
「いえ、謝らないでください。…私も、大岩さんと同じ気持ちです。」
由紀は自分の気持ちを正直に話した。
「…!」
重成は驚きを隠せなかった。
「では、また来ますね。」
「ありがとうございます!」
重成の退院の日が近づき、由紀は複雑な気持ちを抱えていた。彼の笑顔が眩しい反面、別れが迫っている寂しさも募っていた。
「松田さん、明日退院なんですけど… 」
重成は少し
「ええ、おめでとうございます。」
由紀は重成の言葉に、笑顔を見せながらも、心は沈んでいた。
「…松田さんと、もう少しだけ一緒にいたいんです。」
重成は、まっすぐな瞳で由紀を見つめた。
「… 」
由紀は、彼の言葉に言葉を失った。
「…でも、病院の規則で…。」
「…そうですか。」
重成は少し肩を落とす。
「でも… 」
由紀は、少しだけ顔を赤らめながら、重成に提案した。
「私、明日は休みなので、一緒にランチでもどうですか?」
「…いいんですか?」
重成は、驚きと喜びを同時に見せた。
「…はい。退院のお時間と合わせますので。」
「ありがとうございます!松田さん、優しい!」
重成の笑顔に、由紀も心が安らぎ、少しだけ希望が持てた。
翌日、由紀は、カフェレストランで、重成と待ち合わせをした。
「大岩さん、待ってました!」
重成は、由紀を見つけると、満面の笑みを浮かべて松葉杖を使って由紀が座っているテーブルの席に着いた。
「… 大岩さん、こんにちは。」
由紀は、重成の笑顔に、少し緊張がほぐれた。
二人は、ランチメニューを選んだ。
「松田さん、あの… 」
重成は、少し躊躇い《ためらい》ながら、由紀に問いかけた。
「僕、松田さんのことが… 本当に好きです。 」
「… 」
由紀は、重成の言葉に、心臓が高鳴った。
「松田さんの笑顔を見ていると、心が安らぐんです。 」
「… 」
由紀は、何も言えず、ただ重成を見つめていた。
「松田さん、僕と付き合ってください。」
重成の真剣な表情に、由紀は自分の気持ちを正直に告げた。
「…私も、大岩さんのことが好きです。」
重成は、驚きと喜びを同時に表現した。
「…本当に?… 嬉しいです!」
二人は、お互いの気持ちを確かめ合い、幸せな気持ちでランチを楽しんだ。
カフェレストランを出ると、重成は由紀に、
「松田さん、これからも僕と会ってくれますか? 」
「…私も、会いたいです。」
二人は、お互いの手を握りしめ、未来への希望を感じた。
退院後も、二人は頻繁に会い、デートを重ねるようになった。重成は、由紀に、優しい言葉をかけ、いつも笑顔を見せた。由紀も、重成の優しさに包まれ、幸せを感じていた。
病院という、特別な場所、しかも看護師と患者という立場での恋。それは、二人の人生を大きく変える、忘れられない出会いだった。
重成の怪我が完全に治り、重成は仕事に復帰した。由紀も看護師を続けながら、休みの日にはデートをしたり、お互いの家を行き来したりして、お互い結婚を意識するようになった。
「由紀さん、僕と結婚してください!」
「重成さん…。私で良ければ…。」
由紀は嬉しさのあまり、涙を流していた。そんな由紀を重成は優しく抱き締めた。
「幸せになろう。きっと、幸せにするから。」
「…はい。」
2人の結婚式は印象的だった。披露宴で最初は純白のウェディングドレス、新郎も白のタキシード姿だったが、お色直しで2人はなんと、初めて会った時の服装で、とナース服とパジャマにスリッパの姿で登場したのだ。これには披露宴に出席した皆が意表を突かれた。
しかしながら、2人の幸せいっぱいの表情に、ほっこりとした気持ちになった。