「そろそろ、髪、切ろうかな…。」
黒髪の、もうずいぶん美容院にも行っていない、伸ばしっぱなしのロングヘアーを触りながら呟いた。大学進学のため、一人暮らしを始めてからは、全く美容院に行っていなかった。服もおしゃれとは程遠い、地味な女の子だ。
「この辺の美容院なんて、なんにも知らないや…。どこかいいところないかなぁ?」
携帯サイトで、美容院の口コミを見ながら探しだした。
「…どこもおしゃれだなぁ。迷うなぁ…。」
そう呟き、このままで大丈夫なんだろうか?と知佳は思った。眼鏡を外し、後ろ髪を
「切るなら、どのくらいの長さにしよう?…困ったなぁ。」
独り言を言いながら、また、鏡を見る。
そんなある日の大学からの帰宅途中、知佳が道を歩いていると、ビラ配りのお兄さん、
「お姉さん、良かったら、カットモデルになってもらえませんか?」
「…カットモデル?」
「僕は、美容師免許取り立てで、今はまだ見習いなんです。…良かったら、でいいので。」
「考えておきます。」
知佳はもらったチラシを鞄の中に入れて、真っ直ぐにアパートに帰った。
「カットモデルかぁ。美容院て高いし、お得かも!!うん、決めた!今度行ってみよう!」
知佳は小さくガッツポーズを決めた。
数日後、知佳は、慎二の美容室「Hair Salon Shine」を訪れた。緊張しながら店内に入ると、明るく清潔感のある空間が広がっていた。慎二は、知佳を笑顔で迎えてくれた。
「ようこそ、早坂さん!カットモデル、ありがとうございます!」
「いえ、こちらこそよろしくお願いします。」
慎二は、知佳の髪を丁寧に触りながら、イメージを聞いてくれた。知佳は、普段とは違う自分になりたいと思い、思い切って「思い切って、ショートボブにしてください!」とお願いした。慎二は、知佳の希望を丁寧に聞き取り、イメージ通りのヘアスタイルに仕上げてくれた。眼鏡を掛けて、鏡に映る自分を見て、知佳は目を丸くした。
「わぁ…、別人みたい!」
ショートボブにしたことで、知佳の顔はパッと明るくなり、今まで隠れていた可愛らしさが際立っていた。慎二も、知佳の変身に驚いた。
「早坂さん、すごく似合ってます!ショートボブ、いいですね!」
「ありがとうございます!嬉しいです!」
知佳は、慎二の言葉に、今まで感じたことのない喜びを感じた。
それから、知佳は定期的に「Hair Salon Shine」に通うようになった。慎二との会話は、美容のことだけでなく、色々な話題に広がり、二人の距離は縮まっていった。
「早坂さん、いつもありがとうございます。僕、早坂さんと話すのが、本当に楽しいんです。」
「私もです。高嶺さんと話していると、時間が過ぎるのがあっという間です。」
慎二は、知佳の笑顔に、自分の気持ちに気づき始めた。そして、ある日、勇気を出して、知佳に告白した。
「早坂さん、僕、早坂さんのことが好きです。付き合ってください。」
知佳は、慎二の真剣な眼差しに、自分の気持ちに気づいた。
「高嶺さん、私も、高嶺さんのことが好きです。」
二人は、笑顔で抱き合った。
それから、知佳は、慎二と幸せな日々を過ごした。慎二は、知佳の笑顔を見るたびに、自分の仕事に誇りを感じ、知佳は、慎二の優しさに包まれ、毎日が輝いて見えた。
地味な服ばかり選んでいた知佳だが、慎二のアドバイスや、アパレルショップの店員のアドバイスを受け、おしゃれに大変身を遂げた。眼鏡も思い切って、コンタクトレンズに変えた。
「私に、きっかけをくれたのは、高嶺さんです。」
「きっかけにすぎないよ。早坂さんは、自分の美しさに気付いていなかっただけだよ。」
「本当にありがとう!私、気付かなかった。世界がこんなに明るいなんて!!」
「どうしたんだい?急に…。」
「ほら、私、ずっと地味だったでしょ?まるで色がないみたいな世界にいたから…。」
「そうか…。初めて会った頃とずいぶん変わったからね。」
「今はとっても幸せ。メイクするのも、おしゃれするのも楽しくて…!」
「それは良かった!」
「…高嶺さん、今度、大学の文化祭があるんですが…。」
「もうそんな時期かぁ…。」
「私、大学のミスコンに出ることになって…!」
「…それは驚いたなぁ。」
「私が一番びっくりしてる…!もし、良かったら、高嶺さんにも来てほしいです。」
「仕事休み取ってでも行くよ!」
「ありがとうございます…!」
知佳は嬉しい気持ちでいっぱいになりながら、美容室を出た。
帰宅して鏡を見ながら、知佳は
「私が、ミスコンなんて…。」
と呟く。段ボール箱に詰めた、地味な服をそっと見つめ、まさかこんなことになるなんて、と夢のような日々だった。
そしていよいよ文化祭当日、知佳は慎二と大学キャンパスの正門で待ち合わせをしていた。
「ごめん、待った?」
「大丈夫です。来てくれてありがとうございます!」
「早坂さんがミスコンに選ばれる瞬間を、この目に納めておきたいからね。」
「それはないですよー!!」
知佳は笑いながら否定した。
「時間までまだ余裕ありますし、いろいろ回って行きましょうか?」
「そうだね。」
二人は手をつないで、賑わう大学祭の会場を歩いた。屋台やパフォーマンス、学生たちの熱気に包まれたキャンパスは、活気に満ち溢れていた。
ミスコンのステージは、午後から、文化祭の終わり頃に始まった。知佳は、緊張しながらも、慎二の温かい視線を感じ、落ち着いてステージに立てることができた。
結果は、惜しくも2位。しかし、知佳は悔しがるどころか、達成感でいっぱいだった。
「2位だってすごいよ!早坂さん、本当に綺麗だった。」
慎二は、知佳の肩に手を置いて、そう言ってくれた。
「ありがとう。でも、やっぱりちょっと悔しいな。」
知佳は、少しだけふてくされた表情を見せた。
「でも、これで自信がついたよ。もっと頑張ろうって思った。」
「そうか。早坂さんが頑張る姿は、本当に素敵だよ。」
慎二は、知佳の言葉を聞いて、嬉しそうに笑った。
二人は、ステージ裏で少しの時間だけ、二人きりになった。
「慎二さん、実は…。」
知佳は、慎二の真剣な眼差しを見つめながら、ゆっくりと話し始めた。
「私は、教育学部なんです。将来は、先生になりたいと思ってて。」
「先生?」
慎二は、少し驚いた表情を見せた。
「うん。小さい頃から、子供と触れ合うのが大好きで。将来は、子供たちに夢を与えられるような、素敵な先生になりたいと思ってるの。」
知佳は、慎二に自分の夢を打ち明けた。
「それは素晴らしい夢だね。早坂さんなら、きっと素敵な先生になれるよ。」
慎二は、知佳の夢を応援するように、力強く言った。
「慎二さんは、将来どうするつもりなの?」
知佳は、慎二の夢についても聞いてみた。
「僕は、いつか自分の美容室を開きたいと思ってるんだ。」
慎二は、少し照れながら、そう答えた。
「自分の手で、お客様を笑顔にしたい。早坂さんのように、自信と輝きを与えたいんだ。」
慎二は、自分の夢を語るときに、いつも以上に真剣な表情を見せた。
「お互い、夢に向かって頑張ってるんだね。」
知佳は、慎二の言葉に、心から感動した。
「うん。お互いに夢を叶えようね。」
慎二は、知佳の手を握りしめ、そう言った。
「そして、夢が叶ったら…。」
慎二は、少しだけ顔を赤らめながら、続けた。
「結婚しよう。」
「…え?」
知佳は、慎二の突然の言葉に、驚きを隠せない。
「結婚…?」
「うん。早坂さんと一緒に、人生を歩みたい。だから、結婚したいんだ。」
慎二は、知佳の目をまっすぐに見つめながら、そう言った。知佳は、慎二の真剣な眼差しに、自分の気持ちに気づいた。
「…私も、慎二さんと結婚したい。」
知佳は、慎二の言葉に、心から嬉しくなり、そう答えた。二人は、お互いの夢を叶えるために、そして、共に人生を歩むために、固く手を握り合った。
「これからも、ずっと一緒にいようね。」
「うん。ずっと一緒だよ。」
二人は、互いの夢を叶えるために、そして、共に人生を歩むために、力を合わせ、前向きに進んでいくことを誓い合った。
数年後、知佳は小学校教師として、地元の小学校に赴任が決まり、慎二も美容師としての腕を磨き、「Hair Salon Shine」2号店の店長に任命された。夢を実現した二人は約束通り結婚し、幸せを噛み締めていた。