現在発現しているどのパッシブスキルと相性が良い武器は、これと言って無い。パッシブスキルもアクティブスキルと似たところがあり、人によって発現するスキルに偏りがある。
例えば剣の扱いに長けた剣士であるならば、剣術に特化したパッシブスキルが発現しやすく、射撃・狙撃系の武器に長けたスナイパーであるならば、射撃・狙撃に特化したパッシブスキルが発現しやすいと言われている。
戦闘スタイルとパッシブスキルはけっこう似て比例するとされている。
で、僕の場合、これと言って戦闘スタイルに偏りが無いため、剣術に特化とか魔術に特化とかのはっきりしたパッシブスキルが発現しなかった。
基礎的な身体能力の向上や魔力の付与くらいしか体得出来ていない。パッシブスキルに至ってはどの傾向にも属さない特殊なものばかりだ。
こうなってしまったのは、あの夜の森で遭遇した謎の魔獣に何かされたせいなのだろうか。その答えは僕だけが考えても導き出せないので、今は放置しておく。
だから今のところはとりあえず、魔力を纏った肉弾戦で行こうと思う。
幸いにもと言っていいのか微妙だけど、僕は数度にわたって殺され、死の淵を体験している。それによりパッシブスキル「不撓不屈」が発動し、昨日の夜サーキスたちに殺される前よりずっと強くなれている。
この効果は永遠に継続され消えない。何だかズルして強くなった気もしなくはないけど、代わりに死ぬような苦痛を味わってきたのだから、おあいこってことで。
「不撓不屈」による強化内容ついては単純で、肉体を用いた攻撃力や防御力、体力、そして保有魔力の質と量が倍近く向上するというもの。
この特性を利用して今はひとまず素手を用いた近接戦と、魔力だけをぶっ放す遠距離攻撃など、全体的にシンプルな戦闘スタイルにとどめておく。
魔力を纏えば攻撃力が大きく向上し、相手の身体はもちろん武器も破壊出来るし、魔術を弾くことも可能となる。さらに剣などの武器に魔力を纏わせれば、遠近の攻撃両方が可能となる。
せっかくこれだけの
あの後、拳や蹴りを振るったり訓練用の木刀の素振りなどをして、近接戦の訓練も行った。夕暮れ刻に差し掛かる前に訓練を切り上げて、草原から町に戻り、道を歩いていると僕と同年代の町の人たちに絡まれた。
「あれ、ラフィじゃん?お前この前から傭兵の仕事で都会街に行ってるんじゃなかったのか?」
「うん。まあ色々あってね。今日は町に戻って近くの草原で訓練していたんだ」
「はっ、色々あったとか言って誤魔化すなよな!どうせ今回も、自分でもこなせるレベルの仕事が全然見つからず、おめおめと帰ってきたんだろ!」
「ぎゃははは、この町ですら一番の力持ちでもないくせに、立派な傭兵になってみせるんだって息巻いて出て行って、すぐ帰ってきた時の話またしようぜ!何度思い出しても笑える!」
「くくっ、そう言ってやるなよ。ラフィだって頑張ってるんだろうしさ。町でひとりぼっちで居場所が無いこいつにとって、傭兵業は生活の貴重な収入源で拠り所なんだもんなー?と言っても、今のところ全く大した活躍出来てないようだけど……ぷっ」
男たちはそれぞれ僕のことを好きに言っては笑ってみせた。以前の僕であれば何も言い返せず俯くばかりだったけど、今は違う。スキルをたくさん手に入れて強くなる目途が立ったうえ、今度昇級試験を受けることも約束されている。
心に圧倒的余裕がある僕は、何も知らないこいつらを鼻で笑ってやった。
「あ?何だよその反応。その目も気に入らねーな?傭兵になったからって調子に乗ってんじゃねーぞ!」
「お前みたいな雑魚が訓練したって、どうせ魔物に返り討ちに遭うだけだろうが!」
「やっちめえ!!」
僕の態度にキレた町の若者たちが一斉に僕に殴りかかってきた。
「ぼがっ!?」「ぐはぁ!」「げひぃん!」
結果は僕の圧勝に終わった。殺すのはもちろん重傷も負わさないよう加減するのが難しかったが、1~2カ所の骨折を負わせる程度で済ませてやった。
「この程度で済んで良かったな。もし僕を殺すつもりで襲ってたら、今頃みんな死体になっていただろうね」
冗談でも何でもない、本音だ。殺気が無かったら僕も加減出来た。
「次僕をまた馬鹿にするようなこと言ってきたら、手足の一本は無くなると思え」
若者たちはその場ではしっかり頷いて分かったようにしていたけど、それは甘い認識だった。
その1~2時間後、僕の家に町の荒くれ者たちが押しかけて、若者たちにしたことの報復に来たのだ。町いちばんの力持ちで将来はこの町を治めている領主の私兵になると豪語しているガタイの良い男たちが複数人、僕を締めにきたわけだけど―――
「ぎゃああ!」「ぎゃふぁ!」「へぶらっ」
彼らも問題無くぶっ飛ばして返り討ちすることに成功。この瞬間僕が町いちばんの怪力であることを、若者や荒くれ者たちに知らしめることが出来た。
念の為かなり溜め込んだ魔力を空に向かって撃ち放って脅してやったら、もう誰も僕に嫌がらせのちょっかいを出さなくなった。
翌日、都会街フィナーシェを訪れ協会に顔を出すと(町から都会街まで走って移動したところ、30分以内で到着出来た)、ヤーナ幹部から呼び出しをくらった。
また上の階の応接室に呼び出されそこで待たされていると、Ⅽ級傭兵のフリューゲン・アンジェリーナも入ってきた。
この奇妙な組み合わせの理由は何てことない。昇級試験の担当が彼女となったのだ。ヤーナ本人からそう聞かされた。
試験内容は簡単で、アンジェリーナと一対一の勝負をして、彼女に勝ってみせることだった。負ければ昇級の件は白紙、E級のままとなる。
普通に考えれば、E級がⅭ級とのシンプル勝負で勝てる道理が無い。そのことをヤーナに言ったところ、奴は「貴様には将来性があると見込んでいる。俺の期待に応えてくれるよな」などと言って、下手くそな煽て言葉を吐いたのだった。
まあ、僕としては別にそれでも良いんだけど。今の僕はB級の傭兵にも勝てるくらいの力があるわけだし。Ⅽ級のそれも同じ年頃の女性傭兵が相手なら、普通に戦っても勝機は十分にあるとみてる。
もっとも、ヤーナは僕の昇級を阻止すべくこんな試験内容を用意したんだろうけど。今だって下品な笑みを浮かべてこっちを見ているもの。
だったらこっちは真正面からこいつの下らない目論見をうち破ってやるまでだ!
「気に入らないわね。Ⅾ級の昇級試験をやるのなら、同じⅮ級の傭兵を試験担当にするのが道理でしょうに。どうして私がわざわざ、協会最弱と蔑まれているあなたの為に時間を割いてあげなければならないのかしら」
話が終わり、ヤーナが先に退室した後、応接室のソファでまだくつろいでいるアンジェリーナが不満を露わにそうこぼした。
「そんなに僕の試験担当するのが嫌なら、断ったら良かったのに」
「うるさいわね。ヤーナ幹部がどうしてもとしつこく頼まれて、強引に話を進められたのだから仕方ないでしょ。
それにしてもあなた、ヤーナ幹部に相当嫌われてるそうね。こんな試験、あなたの昇級を無きにする為の茶番に過ぎないわ」
「どうしてそう思うんですか?」
「はあ?ちゃんと言わないと分からないのかしら。F級傭兵は頭の方も最弱のようね。
ちょっと考えれば分かることでしょ。F級とまで呼ばれている最弱のE級傭兵のあなたが、Ⅽ級上位の私に勝てるわけがないって」
「だから、どうしてそう決めつけるんですか?まだ何も始まってないのに」
「………はあ?」
剣呑な空気を纏いだしたアンジェリーナ。
「あなた、本気で言ってるの?まさかそこまで頭が弱い低脳だったとはね!いいわ……試験当日、他の傭兵や試験官の前で徹底的に分からせてあげるわ。現実を…どう足掻いても超えられない壁があるってことを。
明日の試験で、自身の無力感に打ちひしがれて、その謎の余裕の表情が絶望に沈むといいわ。皆の前で嫌と言う程恥を晒すといいわ」
蔑んだ目で見下しながらそうのたまうアンジェリーナに、さすがの僕もイラっとした。
よし、明日の試験、