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18「約束を果たす」②

 キャロルさんの家を訪ねると顔色の悪い彼女が出てきたかと思ったら、僕の顔を見た途端もの凄い声を上げて驚かれた。そして彼女に引っ張られ家に入らされ、色々事情を聞かれた。僕は昨日の任務や夜の村のこと、さらには今日の昇級試験のことなども、かいつまんで話した。


 「そう………サーキスさんのことは残念だね。彼、素行は悪いけど協会の中では実力のある傭兵だったから……。

 でも彼を殺してみせた元傭兵の盗賊に、ラフィ君が立ち向かっただなんて……随分な無茶をしたのね、もう」


 キャロルさんは僕の無茶と言える行動を咎めつつも、二人分の飲み物コーヒーと軽食をテーブルに置いて、もてなしてくれた。


 「ま、まあ……村人たちの協力があったお陰で、盗賊の頭を討つことが出来たわけで、僕が特段無茶をしたわけじゃなくてですね………」


 それっぽい言い訳をして誤魔化そうとするが、キャロルさんは納得してくれず、今後はそのような無茶を……明らかな格上の相手と戦わないようにと釘を刺された。


 「とはいえ、ラフィ君にとって初めての魔物討伐になったね!しかも盗賊みたいな犯罪集団まで倒したなんて、凄いよ!今まで下級の魔物相手にも苦労していたラフィ君が、いつの間にかそんなに急成長していたなんて……。本当におめでとう!」

 「ありがとうございます。それはそうとキャロルさん、体調はもう良いんですか?さっきまでだいぶ具合悪そうでしたけど」

 「うん、もう大丈夫!死んだと聞かされてたラフィ君の元気な姿をまた見られたお陰でね。食欲も元通り!」


 そう言ってキャロルさんは自家製のパウンドケーキを美味しそうに食べてみせた。


 「それより昨日の約束……“絶対無事に帰って、元気な顔を見せに来ること” 守ってくれたね」


 キャロルさんは柔らかい笑みでそう言ってくれる。僕は彼女の笑顔を見てようやく「ああ、僕は帰って来られたんだな」と実感することが出来たのだった。



 「それじゃあ、長居するのも申し訳ないので、そろそろ失礼しますね」

 「えー、もう帰っちゃうの?もう少しゆっくりしても良いんだよ?妹ももうすぐ帰ってくると思うから、挨拶してったらどうかな?」


 キャロルさんの妹……確か王国騎士団の一等騎士さんなんだっけ。20才という若い年でその位に就いたのは、王国史上彼女が初めてだと世界中で話題になってたよな。どういう人なのか興味あるけど、会うとなると心の準備があるからな……。それにこの後やりたい事もあるし。


 「昇級試験に備えてちょっとでも鍛えておこうかと思って。なのでせっかくのお誘いですけど、僕はこれで」

 「そっか。いよいよE級からⅮ級に昇級する為の大事な試験だもんね。私応援してるからね!」

 「ありがとうございます!では、お邪魔しました」


 キャロルさんから激励の言葉をもらい、彼女の家を後にした。その道中、水色の綺麗な髪の女の人とぶつかりそうになった。


 「あ………ごめんなさい!どこかぶつけたりは……」

 「ん。平気。きみ程度の子とぶつかったくらいでケガするような、やわな鍛え方はしてないから」

 「そ、そうですか。じゃあ僕はこれで」


 何だかナチュラルにディスられた気がしなくもないけど、不思議と嫌味が感じられなかった。

 にしても今の女性の人、どことなくキャロルさんと似ていたような………。




***


 「ただいま、姉さん。体調は大丈夫?」

 「あ、リリベル、お帰りなさい。うん、もう平気だよ。心配かけちゃってごめんね、もう大丈夫だから」

 「そう。どうして体調悪くしてたの?」

 「あのね、今朝協会に行ったら上司から悲しい知らせを聞かされちゃって」

 「悲しい知らせ?」

 「うん……私が気にかけている傭兵……ラフィ君っていうんだけど。その子が殉職したって聞かされたの。そのせいで調子崩して仕事にも集中出来なくなっちゃったから、早退させてもらったの」

 「そうなんだ」

 「だけどね、リリベルが帰ってくるちょっと前まで、その子が元気な姿を見せに来てくれたの!お陰ですっかり治っちゃった!」

 「?そのラフィって子は殉職しちゃったんじゃないの?お化け?」

 「違うってばーもう!死んだと思われてたけど実は生きていたのよ。しかもラフィ君、初めて魔物や盗賊を討ったんだよ?その功績が認められたから、昇級試験を受けさせてもらえるんだって!」


 まるで自分のことのように、ラフィのことを嬉しそうに話すキャロルに対し、リリベルは終始表情の乏しい顔で「そうなんだ」「その子、生きてて良かった」などと相槌を打っていた。これでも元気そうなキャロルを見て安堵してはいるのだ。


 「そのラフィって子、試験に受かるといいね」

 「うん!それにしてもこんなに早く帰ってくるんだったら、やっぱりもうちょっとだけここに残ってもらったらよかったなー。そしたら二人とも挨拶出来たのに」


 少し残念そうにそう呟くキャロルを見て、リリベルはラフィってどういう顔をしているんだろうと思うのだった。


 ラフィとリリベルはその後再び出会うことになる。それも、お互い思いもよらないシチュエーションで。




***


アスタール王国辺境の地にある田舎町コヨチ(=僕の暮らす町)の近くにある草原で、僕は走り込みをしていた。かれこれ一時間弱といったところ。


 「―――ふう。すごいや、スキルを発動してからは疲れが感じにくくなってる」


 途中からアクティブスキル「心肺強化」を発動、体力を一定時間の間大きく向上させるものだ。お陰で疲労がいつもより半分かそれ以下まで減っている。

 僕が体得しているアクティブスキルは「身体強化」「魔力エンチャント」「身体修復」「心肺強化」の4つとなる。特に「身体修復」は発現しているどのパッシブスキルとも相性が良い。体が傷つき壊れたままだと反撃どころじゃないからね。


 そのパッシブスキルも今では3つものスキルガ発現している。「不死者」に「不撓不屈」、そして「報復精神」だ。

 パッシブスキルスキルは一つでも発現していれば儲けものと言われている。二つ発現している者はS級の傭兵かトップクラスの王国騎士ばかりとなる。

 そして三つのパッシブスキル持ちの人間は、今のところこの国では誰も確認されていない。僕のように公に申告していなければ、だけど。

 つまり僕の分かる範囲では、三つのパッシブスキル持ちの人間は僕だけということになる。


 このあまりにも大きなアドバンテージを有効に使い、伸ばすことで、僕はここからもっともっと成り上がってみせる。そう決めたんだ。





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