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17「約束を果たす」

 「や、ヤーナ幹部、ここでいったい何を―――」

 「黙れ!あのクソガキが言った通り、俺の銃が弾詰まりしたうえ暴発しただけだ!それよりさっき聞いた通りだ!クソガキ………ラフィの昇級試験についてだが―――」


 ヤーナは事情を知らない職員たちに、ラフィがⅮ級の昇級試験を受けることとその試験内容について、提案を述べるのだった。


 「――いいな。今すぐでも後でも構わんから、必ず伝えに行ってこい!分かったら貴様らもとっとと仕事に戻れ!!」


 職員たちはヤーナの癇癪から逃げるように部屋から出て行った。


 「く、そ………!あのF級め!奴のどこにあんな力が……!殺気まで放ちやがって……っ」


 銃のグリップでテーブルをガンと忌々しげに叩きながら、ヤーナは怒りと屈辱に呻いていた。


 「こうなりゃあ何が何でも奴の昇級を邪魔してやるぞ!あの女を担当にすれば、あのF級野郎が成り上がることなど、万が一にも訪れまい。上手く蹴落としてくれるだろうよ………」


 くつくつと笑うヤーナだったが、その表情は再び怒りに歪む。


 「だが俺はこの件を、このまま終わらせる気は無いぞ、F級め!この俺を虚仮にしやがったことを死ぬほど後悔させてやるからな……!」


 怒りを紛らわすべく葉巻の煙を一気に吸い込んで、盛大にむせるヤーナだった。




***


 一階に降りると僕を待ち構えていた傭兵たちに質問責めされた。サーキスたちが死んだのは本当か、どうして僕だけが無事に帰ってこられたのか、さっきの銃声は何だったのか、など…。

 さらにさっきの職員が降りてきて、僕のⅮ級昇級試験の詳細をみんなの前で告げるものだから、館内はより一層騒然とする。特にゴッチからは「どんなインチキを用いたんだ!?と疑いから入って、糾弾の嵐にあって、うんざりした。


 「――騒ぎ過ぎよ、あなたたち。E級がⅮ級に昇格することの何がそんなに珍しいことなのかしら」


 そんなゴッチたちの喧噪を、一人の女性の声が静めた。


 「もっとも、それはただのE級傭兵ではないのでしょうけど。弱過ぎてヤーナ幹部から特別にF級の称号を付けられている………名前は何だったかしら?」


 蜂蜜色の長いツインテールヘアでつり目が特徴の、僕と同じ年頃の少女傭兵が、こちらを見下した目で尋ねてくる。これは知っているくせにわざと名前を知らない体を装って訪ねてるパターンだろうな。嫌な感じがけっこう出てるし



 「………E級傭兵のラフィです。Ⅽ級上位傭兵の、フリューゲン・アンジェリーナ……様」


 僕は手を胸に当てて頭を下げながら、彼女……フリューゲン公爵の令嬢、アンジェリーナに挨拶を述べた。


 「あら、田舎町の平民だと聞いていたけど、存外この程度の礼儀は弁えているようね………って何よ、そのギラついた目付きは?」


 アンジェリーナは僕の目を見て戸惑った反応をみせる。えぇ、僕の目ってそんなにギラついてんの?


 「いえ、すみません。昨日の任務で色々あったせいで、こんな顔つきになってしまったみたいで」

 「ふうん?そういえばあなた、サーキス・マーキスさんのパーティと同行していたそうね。彼らは盗賊に殺され、傭兵はあなただけが生きて帰ってきたと」

 「それが何か?」

 「別に?非常に運が良い方だと思ったまでよ。下級の魔物も満足に倒せないこの国最弱の傭兵のあなたが生きて、サーキスさんたちが死ぬなんて、大した運命のいたずらね。

 まあ、運も実力のうちとも言うし、良かったじゃない」


 おめでとう的なことを言ってはいるが、相変わらず見下した感じなのは変わらず。まあヤーナやゴッチ程の嫌な感じではないから、テキトーに流すとするか。


 「はいそうですね。運もステータスのうちに入るので、どうやら僕にはよほどの幸運を持っているみたいです。お陰で昇級試験を受けるところまでこぎつけることが出来ましたし」

 「……っ。せいぜい試験で恥を晒さないよう、十分な準備をしておくことね」


 キッとつり上がった目で睨んでくるアンジェリーナに軽く会釈をして、僕は協会の館を出て行った。


 昇級試験の内容と試験官が彼女であることを知ったのは、その翌日のことだった。




***


 「はあ………………」


 ミラ・キャロルは自室のベッドで横になり、失意に沈んでいた。今朝出勤して早々、協会の幹部のヤーナ・カンディルから、彼が依頼したミグ村の森の魔物討伐の任務にて、ラフィが殉職したと聞かされ、彼女はひどく悲しんだ。

 ショックのあまり業務に身が入らなくなり、しばらくの間休暇をもらった次第である。


 「ラフィ君………」


 弟のように想っていた思春期の年頃の少年傭兵の殉職は、キャロルに深い悲しみと後悔をもたらした。

 昨日、ラフィが森の魔物の討伐任務でサーキスのパーティに同行することを強く反対していれば。自分がヤーナ幹部に強く出られていれば、ラフィは死なずに済んだろうに。

 平民で協会のいち受付嬢に過ぎない自分では、貴族で協会の幹部であるヤーナに強く出ることが出来ない、逆らえばクビになるかもしれない。そう恐れるがあまり、自分は救えたかもしれない少年の命を取りこぼしてしまった。

 ラフィの殉職を聞かされ家に帰ってからずっと、キャロルは昨日の自分を咎めてばかりいたのだった。


 ピンポーン。 玄関のインターホンが鳴った。妹のリリベルが帰ってきたのだろうか。彼女には自分が早退したことを伝えてある。

 今は外に出るのも億劫だが、妹が帰ってきたのだとしたら迎えてあげなければならない。重い腰を上げてゆらりゆらりと玄関まで移動し、扉を開けてあげる。


 「………え?ラフィ、君……………?」

 「あ、どうもですキャロルさん。あの、早退されたと聞いたのでお見舞いに来たんですけど。今、大丈夫ですか?」


 数秒後、キャロルの口から甲高い驚きの声が上がった。







*****

(キャラクター紹介)


フリューゲン・アンジェリーナ

女 17才 蜂色の長いツインテールヘアのつり目顔、身長172㎝

メイン武器は二台のボウガン、どちらも軽量サイズ

体得しているアクティブスキル:身体強化、精密射撃(狙撃の命中精度アップ、対象の弱点を射貫く)など

パッシブスキル:???

*フリューゲン公爵の第二子(長女)で、C級として傭兵協会に籍を入れている。高飛車で一言多くプライドも高い性格だが、家族想いでもある。兄を尊敬し、弟を溺愛している。


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