「どうしました?」
「どうしましたかって、貴様………っ」
ヤーナは葉巻を灰皿にぐりぐりと押しつけながら、四人の遺留品を凝視していた。その瞳は動揺に揺れているように見える。というか明らかに動揺している。
「これは………どういうことだ!?」
「えーと、見たまんまですとしか言えないんですけど。サーキス先輩たちは殉職しました」
「殉職しただと!?奴らは森から無事に脱出したと、本人から報告があったのだぞ!」
「確かに彼らは森からは無事逃げ延びてました。ですが昨夜、僕たちが泊まっていた村に盗賊が襲ってきて、彼らはそいつらに殺されてしまったんです」
「それこそ有り得ん話だろ!奴らが……特にサーキスの奴が盗賊如きに不覚を取られるはずがない!その実力は俺が保証しているんだぞ!?」
いや、知らねーし。お前の保証とか知らないし信用も出来ないから。それよりこのまま話しても信じてもらえないだろうから、次の証拠品を出すとしようか。
「僕は今回、先輩たちの遺留品の他に、彼らを殺した盗賊のお頭の首も取ってきました。奴はここの協会に所属していた元B級傭兵だと名乗ってました。名前は確か、ドルゴンとか言ってたような………」
そう言って僕はテーブルにお頭の切り取った頭部をドンと置いてみせた。ヤーナは顔を真っ青にさせつつその顔を見て驚きの声を上げた。
「こ、こいつは…!?ノキン・ドルゴンじゃねーか!?数年前に問題を起こして協会からもこの街からも追放を命じられた、B級上位の傭兵だった奴だ!
まさかこいつが盗賊の頭だったのか!?」
「はい。サーキス先輩は奴と一騎打ちした末、敗れて殺されました。他のパーティも盗賊に殺されて、絶体絶命となりました。しかし村人たちと協力し機転を利かせたことで、こうしてお頭の首をとり、盗賊を撃退することが出来ました!」
「し、信じられるか!!サーキスが敗れてしまったほどの奴を、貴様如きがやれるはずがないだろ!?大体、盗賊に殺されたってのも信憑性に欠けるってものだろが!」
うん。盗賊に殺されたってのは実際嘘だからね。真実は僕に殺された、だ。まあそう話したところでもっと信じないだろうけど。
「僕の報告は全て真実です(嘘)。これ以上の証拠品は無いので、あとは信じて下さいとしか言えませんが。
報告は以上です。次に、ヤーナ幹部に確かめたいことがあるんですけど―――」
「待てまてっ!勝手に話を進めてんじゃねー!F級の分際で!
まず………貴様、何故生きてやがる?」
「はい?」
「はい?じゃねーだろ!癇に障る口を利いてんじゃねえ、殺すぞ!」
やってみろよ。僕を殺したら、お前も殺されることになるけどな。そしてお前だけが死ぬ……。
「どうして生きてんのかって聞いてんだよ!昨晩、貴様の言ったことが本当なら盗賊が襲う前か?俺はサーキスから報告を受けていたんだ。貴様が森の深部で死んだ、とな。何やら特級以上の魔獣と遭遇したそうじゃねーか」
「はい。森の深部で出くわしてしまいましたね」
「やはりそうか。それでサーキスが言うには、貴様が体を張って奴らを逃がしたと、聞いたぞ?貴様がその身を捨てて自分たちを逃がしてくれたお陰で、自分たちは救われたと、そう聞いた。貴様という尊い犠牲のお陰で一度は命を拾ったというわけだ」
尊い犠牲ねえ?そんなこと一ミリも思ってなかったくせに。
「サーキスたちが最後に見た貴様は、魔獣に両足を切り飛ばされて、身動きとれない状態だったと聞いたぞ?だったら貴様はどうやって、その窮地から生還したというんだ!?切り飛ばされた足はどうして元通りになっている?たった一晩で足がくっついたとでも言うのか!?どういうことなんだ、ええ!?」
ガン!とテーブルを強く叩いて問い詰めるヤーナ。この男はどうしてこんなに不機嫌で苛立ちながら質問してるのだろう。
さて……どういう嘘でこの場を切り抜けてやろうかなー。
「えーと………正直僕にもよく分からないんですけど、あの魔獣から奇跡的に見逃してもらえた……としか」
「はあ!?寝ぼけたこと言ってんじゃねーぞ!」
「ほ、本当ですって(ガチで本当である)。理由は分からないけど、とにかく見逃してもらったんです!
その後、身体の傷があっという間に治る薬草みたいなのを食いつないでたら、足が元通りになったんです。深部には凄いものが生えてたんですよね~~」
ガン!もう一度ヤーナがテーブルを強く叩きつけた。
「貴様ぁ、さっきからふざけてんのか……?食べたら重傷をもすぐに治る薬草?聞いたことねーんだよそんなの!さっきからテキトーな話ばかりじゃねーか!貴様、何を隠してやがる!?」
再び銃を突き付けられ、ヤーナから尋問される。うーん、さすがに信じてもらうのには無理があったか。特に僕があの森で遭遇したヤバい魔獣から生き延びたって話は、どう話したって信じてくれそうにない。それに、僕が不死身になったことを話すのも今は避けたい。切り札はここで使うべきじゃない。
とりあえず、このめんどくさい場面を誤魔化すには、強引に話を変えるしかない!
「それよりヤーナ幹部。さっき僕がサーキスたちを魔獣から逃がしたって話が出てたんですけど、それについて訂正した事があるんですよね。
昨夜、何とか生き延びて合流した彼らから非常に興味深いお話を聞かされたので、ヤーナ幹部にも是非聞いてほしいんです」
あからさまに話をすり替えた僕を咎めるヤーナを無視して、僕は自分の携帯タブレットに保存してある録音ボイス……僕のいないところでサーキスたちが話していた内容、その後奴らが僕の前でまんまと「真実」を放してくれた内容を再生してやった。
「――そういうわけで、僕はサーキスたちを逃がしたんじゃない。あいつらに嵌められたんです。魔獣の撒き餌としてね」
「ぐ……!?あいつら、そんなことをやってやがったのか……」
「僕だって逃げようとしたんだ!それをあいつらは、自分たちが助かる為に僕を足切りにして、生贄にしたんです!しかもこの録音の内容からして、あいつらはそういう行為の常習犯だったみたいですね!
くそ、罪を償ってもらおうにも、あいつらは盗賊に殺されてしまってるし!これじゃあ誰に罪を償ってもらえば良いんだ!」
わざと声を荒げて、被害者ぶってみせる。ヤーナは戸惑いの目で僕を見ていた。
「く………うるせぇぞ!?大体、こういう事は傭兵の業界ではよくあることだ!弱い奴は強い奴の足を引っ張る。ならば足を切られるのは道理とも言えるだろ」
「そんな、無茶苦茶な……っ」
「無茶苦茶だろうが、この業界では黙認されてるんだよ!まあ、サーキスらの誰かが生きていたら、そいつを証拠に警務に突き出してやれば、いくらか美味い思いが出来たろうなー?
残念だったな?こういうのは遺族に責任は被せられねーからなぁ」
ヤーナはニチャッとした笑みを浮かべて僕を見る。何か勝った気になってるけど、僕に話を逸らされたままなの気付いてないのだろうか、この薄毛男は。
よし、もう一声いっとくか!
「ヤーナ幹部、サーキスのパーティに今回の仕事を依頼したのは、あなただったんですよね?この録音にもそういう話が出ていましたし」
「あ、ああ?それがどうしたよ?」
「いやね、僕はあなたに無理やりこの仕事に参加させられたと言っていいと思うんですよね。サーキスの任務に同行しないと傭兵の資格をはく奪すると脅されもしましたし。それで仕方なく任務に同行したんですけど。いちおう、これも法にもとった命令やら脅迫やらとして、監査とか然るべき機関に報告して良いんですけど………」
「ま、待て!?それは―――」
「とまあ、それはまた別の機会にするとしてー」
そう言ってヤーナをおちょくってみせる。さっきから顔真っ赤でウケる。
「あなたは今回、僕はもちろんサーキスたちでも太刀打ち出来なかった任務を受けさせたことになる。挙句別件とはいえサーキスたちを死なせてしまった。これも証人である僕が然るべきところに報告すれば……マズイことになりそうですねー?」
ヤーナの顔色が赤からまた青白へ変わっていく。
「き、貴様………俺を脅してるつもりか!?」
*****
(キャラクター紹介)
ヤーナ・カンディル
男 38才 身長169cmのちょいデブ、薄毛頭で悪そうな人相
アクティブスキル:魔力充填(銃器に魔力の弾を装填することが出来る)
パッシブスキル:???
*傭兵協会の幹部。ラフィにF級傭兵という不名誉な称号を与えた元凶。親が国の上位職(財務官)でそこそこの階級の貴族であることから、ラフィのような平民や家柄が下の者を見下す。元傭兵で、特別製の拳銃を武器としていた。