「ご、、、、ふぁ!」
お頭の口から血の塊が吐き出される。急所は外した。内臓もどこもやられてない。しかし傷は深く大きい。数々の村から略奪の限りを尽くしてきたこの盗賊の頭である自分がこんな深手を負ったのは、傭兵時代でやからした失敗の時以来だ。
ズボッ 「ごぉあ……あ゛」
どうしてこうなった……。まったく理解できない。傭兵を辞めて盗賊になってからの自分は常に、奪い・踏みにじる側の捕食者でいられた。襲いかかった相手は常に弱者――自分たちの逆、弱く奪われる者を選んでいた。だから相手も常に、被捕食者でいた。
この構図は一生続く………そのはずだった。
それなのに、今回はその真逆。いつの間にか自分が、弱者だと思っていた奴に喰われそうになっているではないか……っ
「こ、こんなことが――起きていいはずが、ねぇんだ!!」
アクティブスキル「身体強化」、「痛覚麻痺」、パッシブスキル「脳筋」発動―――普段の10倍の力を発揮。さらに痛みに対する恐怖の軽減。
「おおおおおああああああああ!!」
雄叫びを上げながらお頭はラフィ目がけて金棒を振り回した。
***
パッシブスキル「不撓不屈」が二度発動された。一度目は盗賊のお頭の金棒で頭を潰された時。二度目は同じく銃で胸を撃ち抜かれた時。どちらも致死レベルの傷を負わされたため、スキルが発動された。
お陰で僕の戦闘能力はサーキスたちに殺された時よりもさらに強くなった!
その状態で僕はお頭に反撃の一撃を……「魔力エンチャント」で魔力を纏った拳の一撃をくらわせてやった!
この時パッシブスキル「報復精神」――相手の攻撃を受けた後に繰り出した自分の攻撃の威力が倍になる――が適用されるため、その威力は今までの僕が放った技で一番強大なものとなった。相手の分厚い装甲と頑丈そうな体躯に、拳で風穴を空けるくらいに!!
「ご、、、、ふぁ!」
お頭は血反吐を吐いて、苦悶の表情を浮かべている。手をズボッと引っこ抜くと体をよろめかせて倒れそうだ。
「こ、こんなことが――起きていいはずが、ねぇんだ!!」
がしかし、踏みとどまり、雰囲気もガラッと変えて、戦闘態勢に入った。
「おおおおおああああああああ!!」
雄叫びとともに金棒を振り回してきた!
「内臓を外したとはいえ、風穴空けた状態でよくそこまで動けるな!さすが腐ってもB級上位の傭兵ってところか!」
少しだけ感心する……が、悪党は悪党だ。情けをかける価値は皆無。それに二度も僕を殺した、もう絶対に許さない。
「僕を殺した奴には、同じ殺された時の気持ちや感触を味わってもらうからな!!」
眼前に振り下ろされる金棒を、僕は魔力を纏った両手でガッと掴んだ!ただ掴んだだけじゃない。指は全て鉤爪みたいに突き立てて、食い込むように金棒を掴み止めてる。
「―――っづらあ!!」
バギャアアア!! 金棒を粉々に粉砕してやった!お頭の手にはもう何も残されてない。
「あ、あああ………っ」
驚愕と絶望に歪んだ顔のお頭の懐に入り、胸元に手を触れると、そこから凝縮された魔力を撃ち放った!
「殺されることがどういうものか、しっかりと味わいな!!」
ズドォオ―――ン 「か―――ばけ、もの………っ」
心臓を撃ち抜いた。これにはさすがのお頭も血反吐を吐いて白目を剥き、力無くばたりと倒れて、そのまま息絶えた。
「お、お頭……!?」
とここで盗賊の一味が、食料やら金目のものやらを詰め込んだ袋と攫ってきた女を連れて戻って来た。全員胸と腹にぽっかり風穴が空いたお頭の屍を凝視し、唖然としている。
「ああ、見ての通り、お前たちのお頭は僕がぶっ殺してやったから。どうする、烏合の衆と化した盗賊さん?」
シンと静まり返る盗賊だったが、一番早く戻ってきた色付きターバンの男が突然声を荒げた。
「じょ、上等だよボケがあああああ!何を突っ立ってやがる!相手はたった一人!こっちには数があるんだ!囲んでやっちまえばすぐに片が付く!!行くぞ!!」
すると賊は皆「おおおおお」と盛り返して、僕を殺しにかかってきた。刃物が、銃弾が、鈍器が、魔術までも飛んできて、僕はその荒波に揉まれ蹂躙され、そして何度か殺された。
しかし致命傷を何度負おうとも僕が死ぬことはない。傷を修復して復活し、より強くなった力を振るって、自分を殺した賊を優先に殺して回った。
「な、何で………何で死なねーんだよ!?お前はいったい、何なんだーーーあ!?」
指示を出していた色付きターバンの男が発狂しながら、こちらに土の魔術…岩石を飛ばしてきた。対する僕は魔力を纏った拳を振るって、岩石を弾き飛ばしてやった。離れに立っていた賊に落ちて、そいつは下敷きになって死んだ。
「僕は―――不死者だ」
ズバン!魔力を纏った剣(賊から奪った)で、色付きターバンの男の体を両断した!
それを見た残りの賊は見るからに浮き足立ち、バラバラになって逃走を図り始めた。僕はその場から動くことなく、剣の刃に魔力を集中させる。十分に纏わせた魔力の刃を、散り散りに逃げる盗賊目がけてブン!と振るった。すると刃状の魔力が猛スピードで飛行し、逃げる賊の何人かを切り飛ばしてみせた。たぶん、今ので五人は殺せたかな。
盗賊はみな涙や嗚咽、悲鳴を漏らしながらバイクに乗り、ミグ村から去って行った。
「おととい来やがれー、なんつって」
大慌てで逃げ出した割には盗んだ食料や金品けっこう持って行かれたな。攫おうとした女の村人たちは放置されてるが。
サーキスたちの死体は盗賊のと混ざり、乱雑になっていた。奴らの遺留品をある程度回収したところで死体に火をつけて、証拠隠滅を図るのだった。
「あ、あの。盗賊から村を救っていただき、ありがとうございました……。その、
お仲間のことはご愁傷様で………」
「ああ、気にしないで下さい。彼らは傭兵だから、戦いで命を落とすことくらい覚悟していたはずでしょうし。あんなに強い盗賊と遭遇したのが運の尽きと言いますか、とにかく気にしないで下さい」
村長っぽい老人に僕は爽やかな笑顔でそう答えた。よし、サーキスたちを殺したのは僕ではなく、盗賊だってことになってるようだ。上手く誤魔化せそうで良かった。
村人たちには不謹慎で申し訳ないが、盗賊が偶然この村を襲ってくれて良かったよ。お陰で色々有耶無耶に出来そうだ。
「盗賊に何度か殺されたことで、
盗賊のお頭も元B級傭兵って名乗ってたし。今日はサーキスと盗賊、二人のB級を討ったんだ、これはもう僕がA級の昇級試験を受けて良いんじゃないかな!
「はあ、とにかく疲れた。もう夜も更けたし、予定通りこの村に泊まらせてもらおう。
それと今日、一つ決まったことが出来た……!」
森で遭遇した恐ろしい魔獣が何なのか分からないし、この不死身スキルがどこまで続くのか、それとも一生このままなのかも分からない、何故あの魔獣が僕にスキルがたくさん発現する機会をくれたのかも分からない。とにかく分からないことばかりだ。
だけど、その中で一つだけ、決心がついたことがある。それは―――
「『殺されたら殺し返す』、それが僕のモットー!」
自分を殺す者には、同じ殺される目に遭ってもらう。僕は死なない、でもそっちはちゃんと死ぬ、ってね!