「そ、そんな……!?彼らはB級の傭兵パーティだって聞いてたのに。この盗賊は彼らを殺せるくらい強いのか………」
村の男たちはサーキスたちの死……僕がついた嘘を真に受けてしまったことで急に萎れてしまった。
「――ってちょっと待てい!てめ、何言ってやがる!?俺たちは村に着いたばかりで、まだ何も殺っちゃいねーよ!俺たちがここに来た時には、そいつらは既に死体だったぞ!」
お頭がそう主張すると部下たちもそうだそうだと同調する。
「何言ってんだ!悪党はそうやって嘘を吐くよな?村のみんな、騙されるな!僕は見たんだ、サーキスたちが目の前でこいつらに無惨に殺されてしまったのを……!サーキスに至っては、僕を庇って、頭を砕かれて………うぅ」
「いやてめえが何言ってんだ、黙れよクソガキ!?ウソついてんのはてめえだろうが!状況的にてめえがそいつらをぶっ殺したんだろ?」
「な、何を言ってんだ!僕が仲間を手にかけるわけがないだろ!それに僕はみんなよりもはるかに弱いから、仮に殺ろうとしても返り討ちに遭ってただろうさ!」
「………へえ?兄ちゃん弱い傭兵なのか。階級は?」
お頭がニヤリと笑い、僕の傭兵階級を尋ねてくる。
「F……いや、E級だ」
すると盗賊たちは大笑いし、村の男たちは絶望の目で僕を見るのだった。
「ぐはははははっ!E級っていやあ、王国の傭兵協会だと最弱の階級じゃなかったか?最後の傭兵がそんな奴なら何の脅威にもならねぇよな。
おい兄ちゃん、今までの生意気な口を叩いたことは聞かなかったことにしてやるから、仕事なんか放ってとっととこの村から失せな。
何なら今からてめえも俺らの仲間になるか?同じ傭兵を手にかけるたぁ、悪党としての見どころはあるだろうしな。で、どうよ?」
村の男たちが「嘘だよな、寝返ったりしないよな」と言いたげに僕を見てくる。心配しなくとも、盗賊なんかに寝返る気なんて毛頭無いっての!
「黙れ!仲間を殺したお前らの仲間になんてなるもんか!とっととこの村から出ていけ!!」
ビシッと人差し指を突き付けながらそう啖呵を切ってやった!我ながら中々の芝居をやれているのではないだろうか。
「だから!その傭兵どもをぶっ殺したのはてめえなんだろうが………」
「お頭ぁ、そんなクソガキに構ってねーで、とっとと村を襲いましょうぜ!野郎どもも痺れ切らしてますぜ」
「………それもそうだな。おい兄ちゃん、村の連中も!大人しく寄越すモン寄越さねぇなら、ぶち殺されろやあああああ!!」
そう言って盗賊が一斉に村の中へなだれ込んできた。賊の一人が僕に刃物を向けて、突進してきた。アクティブスキル「身体強化」を発動して、相手の攻撃を躱し、カウンターの肘を延髄に思い切り振り落としてやる。賊は白目を剥いて倒れた。
サーキスが使っていた短剣を武器に、襲ってくる賊たちを処理していく。以前の僕だったらとっくに殺されていたかもしれない。スキルのお陰で身体能力が大きく向上しているから、スキルを持たない賊であれば難無く返り討ちに出来る。
もっとも、僕が強くなったのはアクティブスキルのお陰だけじゃないけど―――
「ほお?E級にしては中々良い動きをするじゃねーか、兄ちゃん」
ドッッ 「――う………!?」
咄嗟に短剣で防ぐ。金棒の、重い一撃だ。両腕が震えてる……っ
「だが、ちと調子に乗り過ぎたな。俺はこう見えても元傭兵で、よその国じゃあB級の上位までいってたんだぜ?」
お頭の両腕で振り下ろされた金棒の一撃で、僕の体は徐々にのけ反り、膝が曲がってしまう。短剣にも、ヒビが………っ
パキィン!短剣が折れてしまった。同時に頭に、強烈な痛みが襲った。
ガン!! 「あ………っ」
額を金棒で思いきり殴られた。棘が刺さって頭から血がたくさん出てきた………。
「はっ!E級の雑魚が、俺ら盗賊に歯向かってんじゃねーぞ!てめえもとっとと、さっきの傭兵どものところへ逝っちまいなぁ!!」
ガンガンゴン!ガァン!! 頭にトゲトゲの硬いものを何度も叩きつけられる。頭蓋が割れる音、ぐちゅりと柔らかいものが潰れるおとまでした。
あ………これ、死ぬレベルまでいってるな………。
「へっ、馬鹿かが!傭兵同士で仲間割れなんざしなけりゃあ、こんな最期を迎えずに済んだろうによぉ。しかも俺らに殺人の罪を着せようとするたぁ、良い根性してやがるぜ!」
お頭と部下たちの笑い声が響いてくる。みんな、死んだと思ってる僕を嘲笑ってやがる………。僕はこのまま意識を――――――手放さない。
こいつらに気付かれないよう、アクティブスキル――「身体修復」を、少しずつ発動………。
そしてこいつらの関心が僕から、村の方に移ったところで、一気に―――
***
「さぁて、村の連中がまだ反抗的だなー?だったらここはお約束通り、力づくで奪って、犯して!楽しむとするかーーーっ!!」
お頭の雄叫びに部下たちがひゃっはーーーと叫んで応えて、武装した村の男たちに襲い掛かった。彼らははじめはどうにか抗戦していたが、お頭が力を振るった瞬間、集団はあっという間にばらけてしまい、為す術なく蹂躙されてしまった。
賊は村の中に押し寄せて、民家に火を放ち、略奪行為を始めたのだった。
「そうだ!奪え奪えーーー!女はなるべく殺さず、縛ってここに連れてこーーーい!!」
柵のところでお頭はバイクに乗り、背もたれでくつろぎながら葉巻をくわえていた。そんなお頭の背後から、ゆらりと人影が現れて―――
「―――っ!?(ぞくっ)」
お頭はとっさにバイクから横へ飛び降りた。ドガァンとバイクの席が大破されていた。
「て、てめえ………どういう、ことだ!?」
お頭はお化けを見たような顔で、背後から襲ってきた少年を凝視して尋ねた。
「どうしててめえが、生きてやがんだ!?さっき金棒でぶっ潰したはずだろが!!」
自身の武器で頭部を潰して殺したはずの少年傭兵、ラフィに向かって。
「残念でしたー。僕は死んでませーん。一ついいことを教えてあげるよ。
僕は殺すことは出来るけど、死なせることは無理なのさ!」
「ふ、ふざっけんなーーー!!」
お頭は動揺を隠すつもりで、懐から取り出した拳銃で発砲、ラフィの体に命中した。
「ごふ………っ」
「へっ、何だよちゃんと効いてんじゃねーか!何が死なせるは無理、だ!不死身になったわけじゃあ、る……まい、し………?」
銃弾が体に命中したラフィが吐血するのを見たお頭は不敵な笑みを浮かべるも、すぐさま顔を硬直させてしまう。彼の撃たれた身体から銃弾がぽろっと出てきて、さらにはできたばかりの銃創がみるみるうちに塞がったのだ。
「な、な………何だそりゃあああああ!?」
「言っただろ?殺すことは出来ても死なないって。ああ傷が塞がったのはまた別のスキルでそうなっただけなんだけど」
何てことない調子で話しながら、ラフィは復活を遂げて、お頭に拳を構えた。その拳にはどちらも魔力が纏っていた。
(あれは、「魔力エンチャント」!?本来なら武器や装備服に纏わせる魔力を、素手に纏わせてやがるだと…!?)
「さて……お前は僕を二度も殺してくれた。
だから………」
「て、、てめえはいったい、何者だ――――――」
「僕がお前を殺しても、文句は無いよな」
ズドォン
ラフィの拳が、お頭の分厚い胴体を貫いた――。