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10「喋る魔獣」

 魔獣が喋った………?仰天するあまり、気付けば頭の方を魔獣に向けて、奴の口元に目をやっていた。


 『シカシ気マグレデ使ッテミタコノスキルガ、マサカ失敗スルトハナ………』


 間違いない。この魔獣、人の言葉を喋ってる!そういえば昔、町でいちばんの物知りだったじいさんが、高度な知能を持つ魔獣の中には人間と同じ言語を話すものが存在するって、知ったような口ぶりで話してたっけ。

 あの時は老人の戯言だと決めつけて真に受けなかったけど……ごめんじいさん。あの話本当だったよ。


 『人間、貴様ハ運ガ良イ。良スギルクライダ。我ガパッシブスキル“死神”ハ、対象ニ即死攻撃ヲ放ツ』


 そ、即死攻撃!?そんな滅茶苦茶なスキルを持ってるのかこいつ……っ 間違いなく王国で一度も発見されてない、新種の魔獣だ……。


 「う―――ごほっ!あぁ………」


 くそ、足を失い身体も引き裂かれたから、血がもう全然無いや………。もう何も考えられない。寒い。意識が薄れていく。


 『ム?アアソウカ、スキルガ失敗シタトハイエ死ナナクナッタダケデ、致命傷ヲ治ススキルガナイト、瀕死カラ立チ直ルコトハナイノカ』


 即死とか何とか言ってたけど、失敗したって?でもこの傷じゃあどのみち助からないじゃないか。ぬか喜びもいいところだちくしょう。


 『コノ人間、傷ヲ癒ススキルヲ持ッテオラヌノカ……哀レナ』


 うる、さい………さっきから何なんだこいつ、魔獣が人に同情を向ける、なんて………


 『ダガ案ズルナ人間ヨ。傷ガソノママデ死ヌヨウナ思イハシテモ、実際ニ死ヌコトハ決シテナイ。

 何故ナラ貴様ハ、トナッタノダカラナ』


 ――――――――は?


 「ふ………じみ??」

 『ソウダ。“即死攻撃”ガ失敗ニ終ワッタ場合、対象ヲ不死ノ存在ニ変エテシマウコトガアル。因ニコンナ事ニナッタノハ、貴様ガ初メテダ。ダカラ、貴様ハ実ニ運ガ良イ』


 この魔獣………さっきから言ってることが滅茶苦茶だ!何だよ、即死が失敗したら不死身に変えちゃうって!

 でも、本当に僕は不死身になってしまっんじゃあ?だってさっきから一向に死なないし。いやもの凄い痛みはあるし苦しいんだけど、意識は未だにはっきりしたままだし、これもう生き地獄だよ。辛過ぎる。――って、思考する余裕も戻って来たし。

 これはいよいよ信じるしかなくなってきたな―――僕が不死者になったって。


 『ククッ、後デ自分ノステータスヲ確認シテミルトイイ。貴様ニハ新タナパッシブスキルガ発現シテイルコトダロウ。“不死者イモータル”トナ』


 「不死者」………


 『マア、現状ノ貴様ハ死ナナクナッタダケデ、ソノ致命傷ヲ治ス術ハ無イノダガナ。治癒スキルヲ発現スルカ誰カニ癒シテモラウマデハ、一生ソノママデアロウ』


 な、何だよそれ!ずっとこんな生き地獄を味わい続けるくらいなら、死んだ方がマシじゃないか!


 『ダガ我トシテモソレハツマラナク思ウ。ナノデ特別ニ、我ガ“運”ヲ貴様ニ分ケテヤロウ』


 そう言って魔獣は前足を僕の頭に乗せた。すると黒い瘴気みたいなのが僕の全身を包み込んだ!


 「あ………うわああああああ…!?」


 身体の中に何かが奔流しているような、荒々しい波に揉まれてるような、とにかく体が激しい感覚に包まれている…!

 ていうか運を分けるって何?運は実はステータスの一つで、高いと幸運が起こりやすくなり低いと不運が起こりやすいっていうけど……。

 僕の運のステータスはどちらかと言えば低い。じゃなきゃこんなクソっタレな目に遭ってないはずだから!


 『幸運ヲ引キ寄セテミセヨ。ソウスレバ新タナスキルヲ発現サセラレルヤモシレヌ。ソレコソ、治癒系ノスキルヲナ』


 何だよ………それ。何から何まで滅茶苦茶だ、この魔獣!


 「ぅぐ!?ぐ、あああああああああっ」


 すると再び激痛が襲い、次いで意識が薄くなっていた。


 『サテ。タマニハ人里ノ近クヲウロツイテミルモノダナ。面白ソウナ人間ト会エタコトダシ。デハソロソロ我ハ立チ去ルトシヨウ。ソノ傷、早く治ルト良イナ』


 そう言って魔獣は僕に背を向けて、ここから立ち去る気配を出してきた…!


 「ま………て、っぐう!お前、はいったい………何なん、だ………………」


 『我ガ名ハ【デッドエンド】。昔我ト戦ッタ人間ハ我ヲ“災害級”以上ノ脅威ダトカ言ッテタ気ガスルガ、マアイイ。

 縁ガアレバ我ト貴様ハドコカデマタ会ウコトニナルダロウ。ソレマデニモット強クナッテオクコトダ。

 デハ、サラバダ』


 そう告げると魔獣―――デッドエンドは、森から立ち去って行ったのだった。それからすぐに僕も意識を手放した。



 ―――

 ――――

 ―――――


 次に意識を取り戻したのは、コボルトといった魔物の群れに手足や体を噛みつかれていた時だった。

 悲鳴を上げながらコボルトを振り払い、臨戦態勢に入ろうとした時だった。頭の中にスキルが次々思い浮かんできたのだ。

 アクティブスキルはもちろん、パッシブスキルが新たに三つも発現していたのだ。うち一つは謎の魔獣デッドエンドが言っていた「不死者」だったが。

 この時注目したのが、治癒スキルである「身体修復」を体得していたことだった。お陰で魔獣にやられた致命傷も治すことが出来、一命をとりとめたのだった。まあ、死ぬような傷を負っても死なないんだけど。


 で、その後は新たに発現したパッシブスキル「不撓不屈」「報復精神」のお陰で尋常じゃない力を発揮し、見事コボルトの群れを撃退したのだった。

 この時の感動も尋常じゃなかった。今まで下級の魔物を一匹も倒せなかった僕が初めて一人で魔物を、それも群れを退けることが出来たのだから。

 コボルトは個体差によっては並級のも存在する魔物だったから、いつの間にか僕は並級の魔物とも戦えるようになっていたのだ!


 ただの不死身のままだったらこのような結果は得られてなかったと思う。意識を失う際にあの魔獣が僕に「運」を分け与えたことで、色んなスキルが発現した。それで急激に強くなり、魔物とちゃんと戦えるようになったのだろう。


 「………さて。これ以上強い魔物と遭遇する前に、こんな森とっとと出よう。その後はミグ村に戻ってみようかな。

 ………あいつらも村に戻っているんだろうな」


 真っ暗となりつつある深い森の中を、僕は急いで脱出するのだった――


 ―――

 ――――

 ――――――



***


 「はあ、はあ、はっ………………」


 現在。僕は村の出入り口となる柵の外に立ち、足下にはサーキス・マーキスをはじめとする四人の死体が転がっている。

 彼らは僕を無理やり任務に連れ出してきた、一応は臨時のパーティメンバーであり。

 僕を殺そうとした、「敵」だった。


 「……こ、殺しちゃった。人、を………………」


 足下に転がっている死体を見つめているうちに冷静さを取り戻した僕は、自分がとんでもないことをしでかしたのだと自覚するのだった。









*****

(キャラクター紹介)


デッドエンド

性別・年齢ともに不明 

脅威度:不明(災害級あるいはそれ以上であると推測された記録が、昔にあった)

見た目…龍の面、狼の顎、熊の手(前足)、獅子の胴体と足、鷲の翼、虎の尾

アクティブスキル:???

パッシブスキル:死神 など

*ラフィを不死者に変えた元凶である魔獣。アスタール王国では生態も強さも何もかもが不詳とされている。


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