こいつは今、何て言ったんだ……?
サーキスたちは皆、自身の耳を疑った。しかしラフィの続く言葉を聞いて、聞き違いでないことをはっきりさせられた。
「こ、殺しても死なないって………む、無茶苦茶過ぎんだろ………………」
グレイクがぽつりと漏らした言葉に、誰もが同意した。そして仲間の一人が発狂じみた声を上げると、武器を手にラフィに突っ込んで行った。もう一人もそれ続き、彼を挟み撃ちにかかった。
ズバッ ザシュ 「「ご、、、はぁ………っ」」
二人とも、身体を縦に裂かれた。魔力を纏わせたサーキスの短剣で、ラフィに斬殺されたのだ。
「は?え……おい、うそだろ……っ」
サーキスから狼狽に満ちた声が上がる。
「ああ。この二人今明らかに殺しにきてたから、今度はしっかり反撃して、殺してやった。
え、何その顔。僕なんかおかしなことした?」
何てことない感じでそう告げたラフィから、サーキスたちはかつてない狂気を感じたのだった。
「う、、、わぁあああああああっ」
ついにはグレイクまで発狂し、得意としている魔術を乱暴に撃ち放った。何発かラフィに命中して、大きな傷を負わせたものの、ラフィは死んでなかった。
それどころか、傷がたちまち修復し、より強い存在感を放つようになった。
「な、何だよそれぇ……!ふざけんなぁああああ――――――」
ザン!グレイクの頭部が首から離れ、地面にぼとりと落ちた。グレイクと短剣を振るったラフィとは距離があった。ラフィは短剣から斬撃を帯びた魔力を飛ばして、グレイクの首を離れたところから断ち切ったのだ。
「今のも、殺されてもおかしくない攻撃だったから、同じくらいの殺傷攻撃させてもらったから」
ラフィは淡々とそう告げるのだった。
「どう、してだ………どうして、こうなった―――っ」
仲間が全員殺され、自身も満身創痍となったサーキスは、呆然と呟いた。
どうして自分がこんな目に遭わなくちゃならないんだ。自分は何も悪くない……何度もそう繰り返す。
「いやいや何も悪くないって、そんなわけないでしょ。僕を魔獣の撒き餌にしただけでは足らず、必死こいて逃げ延びた僕を口封じに殺しにきたじゃん。
これだけやらかしておいて、何も悪くない?お前こそいつまで寝言か妄言吹いてんだ?」
怒りを乗せた声でそう返すラフィに、サーキスは底無しの恐怖を覚えた。ついこの前までのこいつは、アクティブスキルもロクに体得してなくて、一人だと下級の魔物も苦戦するくらい貧弱の雑魚だったはず。
誰からも鼻で笑われ、非力な幼児を見る目を向けられていたはず…。キャロルという例外を除けば、みんなが奴をF級傭兵と蔑んでいたではないか。実際、その評判通りの弱さだったではないか!
「こ、こんな現実が、、あって、あってたまるか―――」
あばら骨折ダメージで血反吐を吐きながらもサーキスは大筒を構えて、砲弾に火の魔術を充填させていく。が―――
ズバン! 「な―――あああっ!?」
「さすがにもう使わせないよ」
魔力を纏った短剣の一振りで、大筒が砲口から縦に真っ二つに斬られてしまった。サーキスの武器はもう尽きた。
「ふう、新しい力のテストってことで、ちょっと遊び過ぎちゃったな。自分のスキルの強さも戦闘スタイルも大体把握したし、そろそろ終わらせようか。なあ、サーキス・マーキス先輩?」
そう言ってラフィは笑顔でサーキスに歩み寄る。
「ひ……っいやだ。やめろ、来るな―――ぁ!!」
拒絶の叫びを上げながら、サーキスは両の掌から火の弾を乱雑に撃ち放った。ラフィは両腕をクロスしてガードしながら突っ込んでいって、サーキスに加減無しのタックルをくらわせた。
大きな柵に激突するとサーキスは全身だらんとさせて倒れ込み、動かなくなった。意識はあるが、もう戦う力が残っていない。
「今の攻撃も、本気で殺す気で撃ってきてたよね。その前の砲撃も。最初の短剣も、致命傷をグサリ…だったね」
「あ……ああ゛!?待ってくれ!分かった!俺の負けだ!俺が悪がった!!」
「いやだからさ、負けとか悪かったとか、今はそういう話をしてるんじゃないんだって。殺すか殺されるかの話でしょ、これって」
「い、いや………ごめんなざい!今までF級とか言っで、見下して馬鹿にじて――ずいまぜんでしだぁ!!」
「うん。それも前からずっと、凄く嫌な思いしてきてたけどさぁ、それも今とは関係無いよね?
なあいちいち言わないと分からないの?僕を殺すまでのことをしたんだから、そっちも殺されるまでのことをしても文句はないよねって、こ と」
ここまで数度重傷を負い瀕死に陥ったことで、
「だ、だから待てって!大体お前、殺されたって言ったが、死んでねーじゃんかよ!?だ、だったらそれで、良いんじゃあ………」
「は?勝手に決めないでくれる?僕はただ、やられた分だけやり返すって言ってんの。殺されてもおかしくない傷をつけられたんだから、それと同じだけの仕返しをする。な?おかしくないでしょ」
「お、おかしいだろおおおおお!!だってお前、死んでねーじゃんかよおおおお……がはごほっ」
「うん。死んでないね。不死身になってるみたいだから」
「お、お前はそうでも、俺は違う……!殺すような傷を負えば、俺は………きっと死ぬぞ!?」
「そうだね。死ぬかもね。で、それが何?
僕は殺されても死なない。ただし、お前らは殺されればちゃんと死ぬ。それだけの話じゃん」
「あ………ああ………………」
話しが通じない―――サーキスの脳裏にそう浮かんだ。目の前にいる少年は、頭をどこかヤってしまっている。ネジが外れてしまっている。
いったいどうしてこうなってしまったのか。原因は………一つしか考えられない。
数時間前に撤退した、村の離れの森の深部。そこで遭遇した特級の魔獣。自分たちがラフィを置いて逃げて行ったあと、あそこで「何か」が起きたのだ……。
「――で、こうなったわけ、か…………は、ははは――ちくしょうがぁ!!」
「そういうわけだから、改めて僕の首を刺した分、償ってもらうよ―――」
魔力を纏い固く握りしめた拳を引っ提げながら、サーキスの前に立つ。
「や、やめろ!?俺を殺せば、協会の幹部が黙ってねーぞ!特にヤーナの奴がな!この任務だってあいつが持ってきた話だったんだ!俺はアイツとコネがある!俺が死んでお前が帰ったら、あいつは間違いなくお前を疑い、始末しに来るぞ!
だ、だから俺を殺すのは止めろ!やめやがれ!
おい………聞いてんのかよおおおおおおおあああああああああ」
ドパァン
弓のように後ろへ引き絞った右腕を、やかましく喚き立て続けるサーキスの顔面にぶち当てた。ラフィの右拳が、サーキスの頭部を粉々に粉砕した―――
「ふーーーーーっう」
戦闘を終えた途端、ラフィは地面に座り込んで、疲労に喘いだ。B級の傭兵パーティを一人で相手にしたのだ、今の自分の実力ではここまでの戦闘はそう楽ではない。
今回は相手が皆自分のこと侮ってくれてたから、楽に勝てたのだ。手に入れたスキルはどれも強力だが、自分自身まで途轍もなく強くなったわけじゃない。
それを肝に銘じつつ、ラフィはあの深い森の中、サーキスたちに置き去りにされた時のことを思い出していた―――
***
シンとした深い森の中。耳に入ってくるのは僕自身から出続けている激痛に呻く声と、僕の両足を切り飛ばした恐ろしい魔獣の唸り声だけだった。
「――僕を生贄にして逃げたパーティも、僕を今から殺そうとしてる魔獣のお前も!
みんな……みんなみんな、呪ってやるからな!!!」
最期のつもりで吐き出した怨嗟の言葉。一瞬だけ魔獣が動きを止めた気がしたが、すぐさま僕の頭に何か得体の知れないものを当ててきた。
「あ………あああああああ!?何だこれはぁああああ……っ」
燃え上がるような痛みが頭を襲い、絶叫する中、僕の耳ははっきり聞き取っていた。
『哀レナ者ダ。生贄ニサレルトハ』
今のは………魔獣が、そう言ったのか?