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序③

 あの後サーキスとそのパーティメンバーに押し切られる形で、僕は彼らの魔物討伐の仕事に、雑用として駆り出されることになった。

 僕がサーキスたちの仕事に加わることを反対したのは、僕にはあまりにも危険が過ぎる仕事だと主張したキャロルさんくらいで、他の人は誰も止めようとしなかった。

 むしろ、傭兵のみんなが「いいぞ行け行け!」「良い機会じゃねーか!」と囃し立ててきた。

 加えて騒ぎを聞きつけた協会の幹部の一人、ヤーナ・カンディル(=僕にF級傭兵という不名誉な称号を与えた元凶)が特例だ何だと言って、僕がB級のパーティであるサーキスたちの仕事に加わることを許可した。

 というか、彼らが受ける討伐任務に加われと命令してきた。従わないと傭兵の資格をはく奪すると脅してきたので、止む無くサーキスのパーティに加わることになってしまった。


 B級が請け負うような仕事を、雑用係とはいえ下級魔物もロクに倒せない底辺の傭兵に務まるとは思えない、実力が足りな過ぎる。僕本人も自覚していることだし、周りのみんなも思っているはずだ。

 みんながああやって僕を任務に参加するよう囃し立てのは、単なる悪ノリとかその程度のものなのだろう。協会のほとんどが僕のこと軽く見てるし、僕がどうなろうと別にどうだっていいと思ってすらいる。

 キャロルさんだけは僕のこと気にかけてくれるし、任務に参加することに反対してくれてもいた。ヤーナ幹部がその地位の権力を振りかざしたせいで、彼女は引き下がるしかなかった。


 別の受付担当の職員がサーキスたちの任務の手続きをあれよあれよと進めて、正式に受けることが決まり、僕も半ば無理やり任務に同行することが決まってしまった。館を出る時、キャロルさんから「止めてあげられなくてごめんなさい」と悔しそうに謝られ、「精霊の加護」が込められたペンダントをお守りとして授かった。

 「絶対無事に帰って、元気な顔を見せに来てね」と温かい言葉ももらったから、これは何が何でも帰ってやるしかないよな。

 そう思い自身を奮い立たせて、僕はサーキスのパーティの雑用係として任務に同行したのだった。


 都会街からミグ村までの移動は、協会から支給された電気で動く車を使った。石炭を燃料とする自動車しか普及していないうちの田舎町と違って、王国の都心部ではこういうハイテクな機械が当たり前のように行き届いている。

 正直、めちゃくちゃ羨ましい。まあ僕も、小さくて薄い板みたいな通信タブレットを支給してもらっている身ではある。支給と言ってもキャロルさんから彼女のお古のをこっそりもらっただけだけど。 

 ちなみにサーキスたちのは最新型のもの使っていて、僕のよりもさくさく動くようだ。


 電気自動車の速度はとても速く、馬車であれば半日以上かかる距離を、2時間足らずで走破してみせた。僕たちは一旦ミグ村に立ち寄り、村民たちから村の離れにある森林について情報を集めた。

 協会で聞いた通り、ここ最近、森に棲息している並級の魔物がこの近くに多く見かけるようになったとのこと。恐らくは上級の魔物が森に住み着いたことで、弱い魔物たちが淘汰され、森を追いやられてしまい、この村まで降りてくる事態にもつながっているんだと。

 以前にA級のパーティがここで討伐任務を遂行し、上級の魔物を殲滅させたと聞いたのだが、時が経ったことでまた湧いて出てきたのだろうか。


 サーキスたちの仕事は以前ここにきたパーティと同じ、増えた森の魔物の駆除・討伐を出来る範囲で行うというもの。特に上級と遭遇したら、それらもなるべく討伐して欲しいとのこと。

 サーキスの実力は自称A級に相当するというものらしいけど、上級の魔物一体につきA級の傭兵一人といったつり合いである以上、やはり上級との戦闘は避けるのが無難と言える。

 というか、僕がそう望んでいる。下級すらまだちゃんと倒したことない僕がいきなり上級と遭遇しても平静でいられる自信なんて、とてもとまではいかなくても、厳しいことに変わりない。


 とは言っても、サーキスもパーティの誰も僕の言葉なんて聞くはずもなく、「お前は黙って俺たちの後を付けてりゃあ良いんだよ!俺らの荷物を背負いながらな」と嘲笑いながらリュックや予備の武器を押しつけられる始末。もう諦めて、サーキスたちの雑用・戦闘サポートに徹するしかなかった。


 村でひと休憩した後サーキスたちは早速森林に移り、仕事をこなし始めた。森の浅いところでは下級の魔物が、少し進んだ先からは並級の魔物が出てきて、少し進むごとに何度も戦闘を挟んだ。


 「おいF級!呼びの武器を寄越しやがれ!ぐずぐずすんな、さっさとしやがれ!」 

 「F級、腕を少し切った!止血しにこい!!おせーよこの愚図が!」

 「チッ、あの受付嬢キャロルに釘を刺されてなけりゃあ、こんな底辺野郎とっくに捨て置いてやったのによぉ!オラ、とっとと付いてきやがれ、F級が!」


 魔物との戦闘中も、森の探索中でも、僕はサーキスたちにこき使われ、怒鳴られまくった。居心地が悪く意思疎通もロクに出来ない人ばかりだが、サーキスらパーティ間の連携は洗練されたものだった。皆、言葉をほとんど介することなく、息の合ったコンビネーションを発揮し、並級の魔物を次々討伐してみせた。

 特にサーキスの戦いっぷりは群を抜いていた。大筒を使った砲術は百発百中、一発必殺。並級の魔物すら赤子扱いだった。


 「うははは、すげぇなマーキス!また砲撃の威力上がったんじゃね?」

 「さすがはA級昇格が約束された、有望な傭兵だ!どこぞのF級とは大違いだな!?」

 「ははは、それほどでもあるけど、あまり俺と誰かさんを比較してやるなよ。カワイソーじゃねーかよ……くくっ」


 道中ずっとこんな感じで仕事をこなすサーキスたちと、それに付いて行くのに精一杯な僕だった。




 時刻はもう日暮れ刻に。ここまででかなりの数の魔物を討伐したサーキスたちだが、上級の魔物とはまだ一度も遭遇していない。僕たちは今、森の深部のすぐそこまで進んでいた。


 「あーあ、歯応えねー仕事だなぁ?今のところ並級の魔物しか遭遇してねーじゃねーか。やっぱ深部まで行かねーといねぇのか、上級はよ」

 「やっぱそうなんじゃね?補給もまだ十分に残ってることだし、このまま深部にも踏み入れようぜ?」

 「そうだなぁ。夜まで補給は持つようだし、予備の武器もまだある。そうだよなF級」 

 「あ、はい………。でも―――」

 「なら問題ねーな。夜になるまで深部の探索をするとしよう。今日の寝泊まりはあの村ですりゃあ良いわけだしな」


 サーキスたちは僕を無視して勝手に深部への探索に踏み込もうとした。彼らは良くても、僕にとっては良くない。僕はサーキスの前に回り込んで、意見する。


 「あの、そろそろ切り上げませんか……?皆さんは余裕でも僕はもうこれ以上は……」

 「何言ってやがんだ!並級の雑魚の討伐数をいくら並べたところで、大した戦果になるわけがねぇ!キャロルちゃんが言うには、出てくるんだよな、この森の深部に、上級の魔物がよぉ!

 ここで上級を狩っとけば、俺のA級昇格も確実になるんだ!俺の輝かしい出世道の邪魔をするんじゃねーよ、F級風情が!!」


 予想はしていたが、やっぱり拒否された。一人で引き返す実力も無い以上、黙ってサーキスたちに付いて行くしかなかった。




 そして深部に入ってしばらくしたところで、僕たちはとんでもない怪物と遭遇したのだった……。


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