「ラフィ君でも受けられそうな魔物の駆除仕事、ですかー。ラフィ君ってこれまで魔物の駆除をこなしたことは………」
「あ、はい。一度も、ありません……。下級の魔物の駆除すら一人でこなしたことは、まだ一度も……………」
魔物について簡単に説明すると、人に甚大な危害を及ぼす害獣のこと。以上。
魔物の強さと危険度の指標を「脅威度」といい、そのランク付けは――
(低)下級→並級→上級→特級→災害級(高)
となっている。例えば並級の魔物一体につき、E~Ⅾ級の傭兵二・三人でかかるのが対処の目安とされている。
ちなみに、一番低いとされている下級の魔物は、E級の傭兵一人でも事足りると言われている……。
「うーん、低級の魔物の出現頻度は、ラフィ君の出身の町のようなところよりも、こういう都会街の近郊の方が高いのよねー。
ちょっと待ってね、まずはこの街の近辺で下級魔物の駆除依頼が出てるか、チェックします!」
「分かりました。お手間を取らせてしまって申し訳ないです」
「いいのいいの!ラフィ君だってそろそろ魔物を一人で狩れるようになりたい年頃だものね。私もラフィ君が傭兵として立派に成長して欲しいし、これくらいのサポートはお安い御用だよ!」
そう言ってキャロルさんは優しい微笑みを浮かべ、手元の電子タブレットを操作していく。彼女はこの協会の受付嬢の中ではとても優秀かつ物腰柔らかで、みんなから慕われている。誰に対しても丁寧に接する彼女だが、僕と話す時だけは砕けた口調で対応してくる。
だからといってキャロルさんが僕のことだけ軽視して下に見ているというわけではなく、むしろ何というか、友好的に接してくれてる感じがする。まあ、僕の自惚れかもしれないけど。
とにかくみんなからF級と蔑まれている中、唯一友好的に接してくれているキャロルさんは、心の救いとなっている。尊敬も出来るし、協会の幹部や会長よりも頭が上がらないくらいだ。
「んー……ダメかぁ。ごめんねラフィ君。色々条件をつけたり削除したりして検索してみたけど、ラフィ君に務まりそうな魔物駆除の仕事は見つからなかったわ」
「そうですか……。まあ仕方ないですね。最近は下級の魔物の出現がめっきり減っているみたいですし」
「力になってあげられなくてごめんね。じゃあ、今日も魔物関連以外のお仕事を見繕ってくね?」
「は、はい。よろしくお願いします……」
結局今日も街中での雑用仕事になりそうだ……そうぼんやり考え事をしていると、後ろから威圧的な声がかかってきた。
「さっきから列が全然進まないから何事かと思って来てみれば、F級傭兵のラフィくんじゃねーかよ!」
振り向かずとも誰なのか分かる。その声で誰が絡んできたのかが分かってしまう。とはいえこのまま窓口の方に顔を向けていると無視したとかで因縁つけられるので(キャロルさんも困った顔で後ろの人物を見ているし)、仕方なく振り返って、その男に挨拶をする。
「………どうも、サーキス先輩。お待たせさせてるようで申し訳ないです」
「ホントだぜ、ったくよ!お前が受けられる仕事なんざ、どうせいつもの街中での雑用くらいだろ?何を時間かけることがあるんだよ?」
無駄に派手な装飾を付けている服、背中に重厚な大筒を装備した茶髪の男傭兵…サーキス・マーキスは、苛立ちをにじませながら僕に嫌味を投げかけてきた。
「F級傭兵のお前がB級傭兵であるこの俺を待たせるたぁ、随分偉くなったなぁ?仕事選びそんなに時間をかけるってことは、さぞ期待出来る仕事が見つかったんだろーなぁ?魔物の討伐仕事とか?」
「残念ながら、僕に務まるような魔物関連のお仕事は、見つかりませんでした」
「ははっ、そうかそうか!無理もないな!未だに下級の魔物を一人で駆除出来ないような貧弱…協会最弱底辺の傭兵……そうだ“F級”だ!F級のお前に、魔物を狩る仕事なんざ、無理があるもんなー!」
大きな声でそう言って、サーキスはけらけらと笑うのだった。順番待ちの傭兵たちも他の列で並んでいる傭兵たちもキャロルさん以外の職員まで笑った。
僕はただ俯くだけで、何も言い返せなかった。サーキスの言ったことは嫌味でも全部事実なのだから。僕が非力でさえなければ、こんな悔しい思いしなくて済むのになぁ。
「サーキスさん、ごめんなさい。私がラフィ君のお仕探しに時間をかけ過ぎたせいで、随分お待たせしてしまったようで……。すぐに済ませるので、もうしばらくのご辛抱をお願いします」
「ああ、キャロルさんは謝らなくていいよ。こいつが自分のわがままに付き合わせたのが悪いんだし。
ところでキャロルさん、今日俺たちのパーティが受ける予定の魔物討伐なんだけどさ。今日になってメンバーの一人が体調崩して、欠員が出たんだよね」
事情を説明する中、サーキスは僕の次に並んでいた傭兵たちに硬貨を配って、順番を譲ってもらっていた。それにより皆のヘイトがサーキスに向けられることは無くなった。
「あ、はい……サーキスさんのパーティは本日、ミグ村の離れある森林地帯にて魔物の討伐を受けられると聞いていますね……」
流れで横入りしてきたサーキスの相手をすることになってしまい、キャロルはラフィに目配せで「ごめんね」と詫びつつサーキスに対応する。
「あの森林地帯の深部には、上級の魔物が多数生息していたと、数か月前に偵察なさったA級のパーティによる報告が上がっています。なので、欠員が生じたB級パーティでの深部への探索は危険かと思います。
どうしますか?任務は破棄するという形に……」
「いやいやキャロルさん!俺たちのことを心配してくれるのは嬉しいんだけどさ、見くびられちゃ困るぜ!あんたも知ってると思うが、俺は何を隠そう、もうじきA級への昇格試験を控えた身なんだ。言わばB級ナンバー1ってわけ。てか実質A級傭兵と言っても良いくらいだ!」
「それは、いくらなんでも………」
「それに上級の魔物の対処における戦力の目安は、A級の傭兵一人でこと足りるんだろ?A級昇格を前にした俺がいれば、このパーティだけでも十分だ!第一今回の任務は上級を討伐することじゃないんだし」
「そうではあるんですけど………」
「それに、パーティの欠員を補充してくれる奴がたった今、見つかったところだ!
そうだよな、ラフィ!」
突然肩に手を置かれて話を振られた僕は、驚愕の眼差しでサーキスを見返すのだった。
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(キャラクター紹介)
サーキス・マーキス
男 25才 茶髪 身長185㎝ 無駄に派手な服と装飾、メイン武器である大筒を背負っている。
アクティブスキル:身体強化(攻撃力・防御力・敏捷性が向上)、砲術(砲撃の命中精度、威力が向上)、魔術(火)
パッシブスキル:???
*アスタール王国の傭兵協会に所属しているB級の傭兵。近いうちにA級昇格試験を受ける予定。本人はA級になったつもりでいる。大筒をつかった砲撃を売りとしていて、その評価は王国中で知られている程。しかし人物面に関しては、ラフィのような階級が低い傭兵あるいは平民を見下し、嫌がらせのちょっかいをかけることが協会では知られており、評価は悪い方。