「と、とにかく高台ににげましょう!」
「落ち着きなさい! 馬謖じゃなくて、レイ・バショウくん!」
慌てふためくレイがこちらの道士服の裾を引っ張ってきた。ゲシッと蹴りを入れて、レイを自分の身から無理矢理離す。
伊達メガネを外して、懐に入れる。左肩に乗っているマスコットキャラ化しているヨーコにこくりと頷く。彼女もまた頷き返してきた。
「今のおぬしなら、山サイズに成長してしまったベヒーモスでもなんとかなろう」
「そう信じています。ルナくん、レイくんを連れて、安全な場所に退避してください!」
「わかったよー! 健闘を祈っておくねー!」
ルナはレイをスーパー荷車に乗せた。その後、御者台にある黒いレバーを上下に動かして、炎陣を回す。
ブルォォォン! という音が鳴ると同時にルナとレイは荷車ごと、遠くへと逃げ出した。
残された孔明とヨーコはズッシン……ズッシン……と地響きを立てながらゆっくりと歩くベヒーモスを注視した。
標高300メートルの小高い山といったところだ、ベヒーモスの大きさは。奴から見れば、こちらは豆粒に違いない。
それでも果敢に孔明は目を光らせる。
「まずは小手調べ……目から孔明ビーーーム!」
孔明の目から光り輝くビームが2本飛び出した。それはベヒーモスの首元へとまっすぐに飛んでいく。
「うぐあぁぁぁ?」
ベヒーモスは前足でコリコリとビームが当たった部分を掻いている。そうした後、またしても、ゆっくりと雄大に歩を進め始めた。
奴が1歩進むごとに振動が起き、砂ぼこりが舞う。突風が孔明の方へと吹き荒れながらやってくる。
「くっ!」と唸りながら、砂ぼこりに目がやられないように白羽扇で顔をガードする。
ゆっくりと白羽扇をベヒーモスの方へと向けた。白羽扇の先端に3つの光の玉が出来上がる。
「3WAY孔明ビーーーム!」
白羽扇の先端を起点にして、3方向に孔明ビームを放った。それがベヒーモスの身体に当たると、その部分から白い煙が立ち上る。
「うぐぁ?」
今のビームは少しだけ効いたようだ。ベヒーモスがきょろきょろと辺りを見回している。すると、奴は何かを見つけたのか、こちらの方ではなく、明後日の方へと顔を向けた。
こちらは眉間に皺を寄せながら、ベヒーモスが顔を向けている方向へと視線を移動させた。
「おーーーい!? なんで、高台に向かってるんですかぁ!」
「あちゃぁ……ルナの奴、レイの言うことをまともに聞いたようじゃなぁ……」
ルナはスーパー荷車を高台へと移動させていた。孔明から見れば、悪手も良いところだ。ベヒーモス視点から見れば、高台のほうが目立っているはずだ。
「ぐふぐふっ!」
ベヒーモスがまるで手ごろなおもちゃを見つけたかのように喜びの色をその赤い目に浮かばせている。
「くぅ! レイくんはともかくとして、このままでは褐色ロリのルナくんが危険です!」
「おぬし……そんなに褐色ロリが好きなのかえ?」
「ええ、好きです。大好きです。断言させてもらいます!」
「はぁ……」
孔明は前世において、褐色ロリの黄月英という女性と結婚していた。中華では褐色肌というだけで、ぶさいくだと決めつけられた。
孔明の嫁取りという言葉すらある。有名な話だ。だが、孔明は褐色ロリの黄月英を大層、気に入っていた。
この方以上に自分にふさわしい嫁はこの世に存在しないと豪語していたほどだ。
同じく褐色ロリのルナ・ユエンがピンチに陥っている。孔明は急いで気を溜めた。彼を中心に空気が震え、大地が振動する。
「さあ、こちらに注目するのです! スペシウム孔明ビーーーム!」
両腕を十字に構え、右腕の腕先全体から孔明ビームを放つ。縦長のビームがベヒーモスへと直進し、見事にベヒーモスの横っ面に直撃する。ベヒーモスは驚きの表情となっている。
しかし、こちらの思惑では、この一撃でベヒーモスの頭を破壊するつもりだった。奴の頬の毛が焼けて、茶色い地肌が露出したにすぎない。
それでも、ベヒーモスはこちらに注目してくれた。「ぐるる……」と唸りながら、頭をこちらに向けてきた。
「キサマ。何者だ?
「きゃーーー! イノシシがしゃべったーーー!?」
「落ち着け、孔明! あやつほどのサイズになれば、人語を理解して、さらには人語をしゃべることも可能じゃろうて!」
「そうなんですか? じゃあ、話し合いで解決できます?」
「……」
「なんで、そこで黙るんですかぁ!」
そうこうヨーコとやりとりをしている間にもどんどんベヒーモスの顔がこちらへと近づいてくる。口を大きく開き、ぱっくんちょと丸のみする気満々んだ。
ピンク色にうねる洞窟が間近まで迫ってきていた。口の両側にある汚れた犬歯は見ているだけで、身体が縮こまる。
「くっ! このまま無様に食べられる気はありませ……うひゃぁ!」
ベヒーモスが何を思ったのか、真っ赤な舌でベロンとこちらを舐めてきた。とんでもなく弾力のある舌だった。舌の一舐めだけで、孔明はヨーコともども、空中へと放り投げられた。
空中に放り出された孔明はベヒーモスの方へと目を向けた。奴は獲物が上から降ってくるのを口を大きく開けて、待っている状態だ。
このままでは食べられてしまうのは必定だ。急いで
「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前! 急急如律令! はぁぁ!」
両腕を上下左右にシャカシャカと動かし、印を結ぶ。さらには右手をベヒーモスの方へと突き出した。
次の瞬間、右手から五芒陣が飛び出た。それはサイズを増しながらベヒーモスの大きく開けた口へと当たる。
さらに追加で
額に汗をだらだらと流しながら、それでも爽やかな笑顔を作り出す。
「ふふ……このスーパーハイスペック孔明を追い詰めたことは褒めましょう。でも、これは……計算通りです。極太孔明ビーム・フルバーストぉぉぉ!」
自分の身体の周囲に展開させていた5つの五芒陣から一斉に極太ビームが発射された。追加で口から極太ビームも発射する。
先ほど、ベヒーモスの目の前に展開しておいた大きな五芒星にそのビームが吸い込まれる。その五芒星によって、ビームの威力と太さが倍増した。
「うぐぉぉぉ!? ヒトがこれほどの威力を放ツ!?」
「貴方はヒトを矮小な存在だと侮りました。それが貴方の敗因です」
「うぎゃぁぁぁ!」
極太ビームは次々とベヒーモスが大きく開けた口の中へと吸い込まれるように入っていく。それにつれて、ベヒーモスの体積がさらに膨れ上がった。
ベヒーモスの体内から外に向かって、いくつもの光が漏れ出し始めた。いくら山サイズのベヒーモスと言えども、こちらが放ったビームを吸収できないようでいた。
「ふふっ……爆発するまであと3、2、1……」
「うばらぁ!」
ベヒーモスは体内から外側へと大きく爆発した。孔明は爆散していく奴に背中を向けて、ニッコリとカメラ目線でほほ笑んでみせた。
「おい、孔明。どこを見ている?」
「いえ、こちらを見ておけば、絵になると思いまして」
「こいつ……」