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第7話:レイとの縁

◆ ◆ ◆


「えっと……レイ・バショウさんでしたっけ。死相が出てるわよっ! あんた、地獄に落ちるわよっ!」

「ええっ! そんなぁ! 困りますぅ! 僕には可愛い妻と生まれたばかりの娘がいるんですぅ! なんとかしてくださいっ!」


 テーブルを挟んで孔明の正面に座っているのはレイ・バショウというこの街の木っ端役人であった。小物臭さをあふれ出しているなで肩の線の細い男だ。


 レイ・バショウの顔をがっしりと両手で掴んで、孔明はマジマジと穴が開きそうなほどに、彼の顔を見つめた。


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名前:レイ・バショウ

統率:32

武力:30

政治:78

知力:73

義理:75

野望:21

無双ゲージ:0本

列伝:ゴモラの街の木っ端役人。妻と一人娘がいる。以下略

備考:ビーム難、高台難、極め付きにイノシシに轢かれる難

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(ふむ……これまた厄介な人相のヒトですね)


 レイ・バショウの顔には目のクマがくっきりと出ていた。げっそりと痩せこけた頬、無精ひげが彼の哀愁に拍車をかけている。


「よろしい。開運の相を刻んであげましょう。手術費用は100万ゴリアテです!」

「ひゃ、100万!? 金貨10枚ですよ! そんな大金、いきなり出せません!」

「こちら、孔明占いサロンでは分割ローンを組むことが出来ます。利息は1カ月で33.4%! 2回払いなら分割手数料も利息もかかりません!」

「うっ……なんて魅力的なローンなんだっ! 払います!」

「では、こちらの契約書にサインを……」


 結局のところ、レイは分割10回プラス冬のボーナス払いを選んだ。人相を変える手術を受けるということで契約書にサインをしてくれた。


 その契約書を懐に仕舞う。そうした後、レイの後ろにいたルナが彼の身体を革ベルトで椅子に縛り付けた。


 それだけではない。首が動かないようにとレイの首をコルセットで固定した。


「準備が出来ました、孔明先生」

「ありがとうございます、助手のルナくん」


 ルナが3歩、後退した。それに合わせて、孔明が椅子に座ったまま上半身を前へと傾ける。じっくりとレイの顔を見つめた。


 レイはごくりっ! と息を飲んでいる。彼の緊張感がこちらに伝わってきた。そんな彼ににっこりとほほ笑む。緊張感を取るためだ。しかしながら、彼は額から汗を流している。


「ヨーコくん、汗」

「わかったのじゃ」


 マスコットキャラ化したヨーコが温かなおしぼりでレイの顔にタラリと流れる汗をちょんちょんと拭いとる。


「ヨーコくん、メス」

「わかったのじゃ」


 次にヨーコは銀皿に乗っているメスを孔明に手渡した。しかしながら、そのメスには刃がついていない。


「孔明ビームサーベル・メスサイズ」


 メスの刃の代わりとして小さなビームサーベルがメスの先端に現れた。刃先でちょいちょいとレイの顔に傷をつけていく。不思議なことに皮膚と肉を切断したのに血は出なかった。


 ビームサーベルがレイの傷を傷つけると同時に高熱によって止血してくれた。人相変えの手術はとんとん拍子で進む。


 孔明がメスを銀皿の上に置いて「ふぅ~~~」とゆっくり息を吐く。そして、患者のレイを安心させるようににっこりと彼にほほ笑む。


「手術はおおむね成功です」

「ありがとうございます!」

「ですが……」

「ですが!? なんでしょうか!」

「一時的に難を遠ざけているだけの可能性が捨てきれません。よろしければ、もっとつっこんだことをお聞きしてよろしいでしょうか?」

「わ、わかりました……実は」


 レイは協力的であった。彼の話によれば、彼はこの街の役人であった。だが、下から数えたほうが早いほどの木っ端役人だ。この部分は孔明も予想済みである。


 肝心の死相が出ていた原因を探るべく、孔明は仕事内容について聞いてみた。最初は口ごもっていたレイであったが、こちらが真摯な眼差しで彼の瞳をまっすぐと見た。


 レイはついに観念したのか、ぽつりぽつりと上から命令を受けた仕事内容を暴露してくれた。


「なるほど……耕地を荒らすイノシシに似た魔獣を退治してこいと……」

「はい……僕は武力30程度しかないただの事務係なんです。でも、お金の不自然な流れを掴んで、それを上司に報告したら……」


 役所勤めの者が出くわすトラブルの中ではよくある話であった。レイは正直者で、さらには正義感溢れる人物なのだろう。


 レイの顔をもう一度、まじまじと見た。彼の顔を見ていると、かつての愛弟子の顔が思い浮かんでくる。


(ふむ。こう見ると、あのクソ弟子の馬謖を思い出しますね。高台の難が出てたのは、こういうことですか)


――馬謖。泣いて馬謖を斬るで有名な人物だ。孔明が口酸っぱく高台に陣を敷くなと命令したのに、その命令を無視して、蜀軍大敗の要因を作った男だ。


 レイを見れば見るほど、あの時の怒りがふつふつと蘇ってくる。しかしながら、レイは馬謖その人ではない。彼に八つ当たりするのは間違いだ。


 首を左右に振って、ビームでレイを丸焦げにしてやりたいという邪念を振り払う。彼は立派なお客様だ。


 手術代100万ゴリアテを手数料込みの利息33.4%で分割10回払いプラス冬のボーナス払いをしてくれるおいしいお客様だ。


「わかりました。現地に案内してください。貴方に変わって、この孔明が魔獣を退治してあげましょう」

「本当ですか!? 追加料金を取られたりはしませんか!?」

「安心してください。お金よりも縁を結んでほしいのです」

「縁……? よくはわかりませんが……」

「その話は魔獣を退治してからにしましょう。さっそく、現地に案内してもらえませんか?」


 善は急げとばかりに孔明はレイに道案内をさせた。魔獣が出没するという耕地はゴモラの街から出て、東に広がっていた。


 ゴモラの街の西には一級河川があり、そこから耕地へ水を引いていた。その一級河川のおかげで、ボルドーは湊町としてだけでなく、良質な作物が取れることで有名だと、レイから道すがら聞かされた。


「ここです。本当に魔獣退治を任せても良いのですか?」

「ええ。私はこう見えて、戦闘もこなせる軍師です」

「そんなに高名な方なのですか!? 名前を存じ上げず、申し訳ございません!」

「頭を上げてください。ここの世界ではまだ無名ですので……これから、軍師に成り上がる予定です」

「は、はあ……って、コーメイ様! あいつがやってきました! ひぃぃ!」


 孔明が立っている場所からズシン……ズシン……と山そのものが動いているような地響きが鳴った。


 孔明は「んっ?」と思いながら、後ろを振り向いた。山そのものが動いている。それが魔獣を見たときの第一印象だった。


「うわぁ……大きいなぁ」

「うむ……成体でも、なかなかここまでデカくはならないのじゃがな」

「コーメイ様! 助けてくださーーーい!」

「ちょっと! レイくん、しがみつかないでくださいっ! 私が逃げられないじゃないですかっ!」

「そんなっ! 退治してくれるって言ってくれたじゃないですかっ!」


 孔明はとりあえず、相手のステータスがわかる伊達メガネをかけた。メガネのレンズには魔獣の情報が網羅されていた。孔明の前に現れた魔獣……。


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名前:ベヒーモス

脅威:SSS

特徴:とっても大きいイノシシ

備考:めちゃくちゃ狂暴

   下処理は面倒だが、お肉はデリシャス。

   宮廷に住む美食家もほっぺたが落ちるほど。

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