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第6話:占い館で売名行為

「占い? おぬし、それがどう売名行為に繋がるのじゃ?」


 屋台の天板にちょこんと座っているヨーコが胡散臭いものを見る目をこちらに向けてきた。


 しかしながら、こちらは胸を張って、さらには白羽扇を構えた。ますますヨーコの目に映る疑惑の色が強まってきた。


「ごほん……占いは古今東西、老若男女問わず、大人気です。売れっ子の占い師になれば、領主の方からお声をかけてくることになるでしょう」

「そんなに上手く行くのかえ? わらわはその言葉をすんなりと受け入れられぬぞ」

「私のかつての師は人相占いの第一人者でした。それこそ庵の前に順番待ちの列ができるほどです」

「なるほどな。師がそうであるなら弟子のおぬしにも出来ると……」


 ヨーコはしぶしぶではあるが承諾してくれた。今日はハーピー販売で疲れが溜まったので、明日から開業しようという流れになる。


 売上はルナと山分けした。ルナは大層、喜んでくれた。さらにはしばらく一緒にいさせてほしいと願い出てくれた。


 渡りに船だった。ルナは発明家なので、占い館開業の時にも役立ってくれることは確定であった。


 3人はゴモラの街にある宿屋に泊まる。


◆ ◆ ◆


「おはよう! って、眠そうな顔してるね。そんなので大丈夫?」


 宿屋のロビーには朝から元気な褐色ロリのルナ・ユエンが待っていた。今日の彼女は赤髪をツインテールでまとめている。気合が入っている証拠でもあった。


「ふぁ~~~。おはようございます、ルナくん。昨夜は遅くまで占い館開業の相談をヨーコくんとしてましてね」

「なるほどね……で、良い案、思いついた?」

「ばっちりです。ルナくんにはそれに見合った占い舞台をセットしてもらいます」

「図面とかある?」


 ルナは発明家らしく、図面を要求してきた。もちろん、彼女がそう言うであろうと予想していた。彼女に走り書きした図面というよりはイメージ図に近いメモ書きを渡す。


 ルナはうんうんと頷きながら、こちらが渡したメモ書きを読んでくれている。


「だいたい、どういう感じなのかは伝わってきたわ。任せておいて。朝食を食べたら、さっそく作業に移るわね」

「ありがとうございます。いやあ、ルナくんのような素敵なお嬢さんに巡り合えたことに感謝しなければなりませんね」

「感謝って……神様? それとも光帝?」


 ルナの言葉に引っかかるものを感じた。彼女の口ぶりからして、どちらも信じるべき対象ではないと言いたげであった。


(どうやら、この世界の神と光帝をルナくんは嫌っているようですね……)


 わざとらしく口元を白羽扇で覆ってみせた。その仕草を見ていたルナがニヤリと口角を上げた。こちらは涼しげな目でルナを見つめた。


 ルナがはにかみ、こちらに背中を見せて、食堂に向かう。彼女の後ろについていき、食堂で朝食を済ませた。


◆ ◆ ◆


 朝食を取り終えた後、各々、作業に移る。ルナは占い師にふさわしい店舗へ魔改造するための材料を仕入れに行ってくれた。


 自分は店舗を借りるために不動産屋巡りをした。ちょうど大通りに空き店舗があるということで、不動産屋の若大将に案内してもらう。


「商売をするなら、うってつけの場所だと思うんですが、いかがですかね?」


 3階建ての建物の1階部分に孔明たちは案内された。若大将はニコニコ営業スマイルだ。そんな彼を見ずにじっくりと空き店舗の隅々を確認する。


 若大将が言うには前は宝飾店が入っていたが、この不景気で店を畳んだとのことだった。


「なるほど。占い師を開業するのですが、ここは幾ばくか運気の流れが悪いですね。少し、運通りを良くしてもいいですか?」

「もちろん!」

「では……口から孔明ビーム! 目から孔明ビーム! 頭から孔明ビーム!」

「うわぁ! 何をするんですかぁぁぁ!」


 若大将が絶叫したが、彼の方に目をくれず、次々と壁や天井に穴を開けてやった。そうした後、懐から風水盤を取り出す。風水盤は運気を計るのに適したアイテムだ。


「もう2~3か所、穴を開けますかっ!」

「もうやめてぇぇぇ!」


◆ ◆ ◆


 若大将はしくしくと泣いていた。そんな彼に銀貨が詰まった革袋を渡して、お帰りいただいた。ちょうど、その時に店舗を魔改造するための材料を揃えたルナが合流してきた。


「あのひと、泣いてたけど……」

「商談成立したことで、嬉し涙を流したのでしょう」

「……そうは見えなかったけど。まあ、いいや。しっかし、これまたズタボロにしてくれたわね?」

「これで気兼ねなく作業できるでしょ?」

「それもそうだねっ! じゃあ、さっそく空き店舗を占い館に魔改造していくねっ!」


 ルナは茶色の革ジャンの裾を捲り、さらにはちまきを額に巻いて、作業を開始してくれた。


 とんとん、かんかんと小気味良い音を奏でながら、どんどん店舗を改装していってくれる。


 これならば昼過ぎには開業できそうであった。ルナの邪魔にならない場所で、ハーピーの骨を孔明ビームで加工しておく。


「まずはハーピーの骨をビームで加工して怪しげな頭蓋骨に仕立て上げます」

「悪趣味じゃのう。しかし、こういう怪しげなアイテムは占い館には必需品じゃ」

「さらには看板をハーピーの骨で飾りましょう」

「骨まで利用してもらえるとは、ハーピーもうかばれることじゃろう」


 占い館開業までの準備はちゃくちゃくと進む。孔明が予想した通り、昼過ぎには作業のほぼ全てが終わった。


 あとは店舗の正面、上側に看板を取り付けるだけだ。


「……欲張りすぎなんじゃないのかえ?」

「うん……人相占いはともかく、霊感、過去生、水晶玉、イワシって、何の占いがメインかわからなくなってる感じ」

「そうですか。では、ビームで削っておきましょう」


 結局、人相占い以外は二重線を引いて削除することになった。


「さあ、開店です! お客様をお出迎えする準備をお願いします、ふたりとも!」

「客が来るといいのう……」

「不景気ですから……」


◆ ◆ ◆


 ルナは引きつった笑顔で店舗の前に立つ。良く当たる占い師と書かれた手看板を持ってだ。彼女の肩の上にちょこんとマスコットキャラ化したヨーコが乗っている。


 2人は道行く人々に声を掛けた。彼らは少しだけ立ち止まり、すぐさま去っていく。


「そりゃそうですよね……怪しさ満点ですもん」

「うむ……今からでも看板だけでも改修しておくかえ?」


 ルナたちはちらりと後ろの方を見た。


 紫とピンクが織り交ざった怪しげな店舗だ。ネオンがキラキラと光り輝いている。さらに怪しげさをアップさせる骨文字の看板が飾られている。


 この骨文字の看板を取り外して、キャバクラと店名を変えたほうがよっぽどしっくりと来る。


「あの~~~。ここは占い館……ですか?」


 突然、声を掛けられた。ルナは「うひゃい!」と素っ頓狂な声をあげてしまった。恐る恐る、声がした方に顔を向けた。そこにはしょぼくれた男がひとり立っていた。


 着ている服から察するに低位の役人だということがわかる。彼はがっくしと肩を落としている。運気そのものを感じさせなかった……。

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