目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

第5話:ハーピーで資金稼ぎ

 孔明はルナに運ばれて、王都の隣町であるゴモラの街にやってきた。しかしながら、王都の隣町の割りには街行く人々に活気を感じられない。


 その街中を荷車が爆走していく。人々はなんだなんだ? とばかりにこちらを振り向いてきた。しかし、彼らに挨拶をする暇もなく、孔明たちは荷車で爆走し続けた。


 突然、急ブレーキがかけられた。孔明は荷台に乗せられた首無しハーピーとともに空中へと投げ出される。


 しかしながら、孔明は白羽扇を手に持ち、それを左から右へと振る。それによって、穏やかな風がどこからともなく吹いてくる。その風が孔明と首無しハーピーを包み込んだ。


 ゆっくりと地上へと舞い降りながら「やれやれ……」と口にする。ルナに言いたいことはたくさんあったが、ここまで運んでもらった恩があるため、文句を言ってしまわないように注意する。


「ありがとうございます、ルナくん」

「いいってことよ!」


 ルナは気分が良さそうな感じで「えへへ!」と鼻の下を指で擦っている。彼女に向かって、にっこりとほほ笑み、さらには会釈しておく。


(ルナくんの荷車は二度と利用したくはありませんね……)


◆ ◆ ◆


 孔明たちがたどり着いたのはゴモラの街の大通りであった。屋台がちらほらと出ている。しかしながら、大通りだというのに活気がやや足りない。


 ヨーコを左肩に乗せたまま、先ほど、ヨーコからもらった伊達メガネを懐から取り出し、それをかけた。メガネ姿で街の情報を調べた。


------------------

場所:ボルドーの街。

人口:10万人。

活況:不景気。

特徴:王都近くの湊町。

   一級河川と隣接している。

------------------


「なるほど……この街の大通りなのに人がまばらなのは不景気のせいですか。湊町だというのに、なんとももったいない」


 街中に目を向けながらも、左肩に乗っているヨーコの喉元を指先でくすぐった。ヨーコは気持ちよさそうにコロコロと喉を鳴らしている。


「不景気なのはこの街を任せられている領主の責任じゃ。孔明、お前ならどうする?」

「どうすると言われましても……ね。私は今、何の肩書もない人物なので」

「そうじゃな。んで? どうするつもりじゃ? ここがスタート地点じゃ」

「はい。まずは資金を得て、それから名声を得ます。領主からお声がかかるほどの名声を……ね」


 左肩に乗るヨーコが興味津々といった瞳の色で、こちらを見てくる。そんなヨーコに対して、にっこりとほほ笑む。


 まずはハーピーを売って、資金を得る。そのために屋台を準備しなければならない。


 使える木材がないかと、きょろきょろと辺りを見回した。すると、指をくいくいと動かしているルナと視線が合った。


「屋台が必要なんでしょ? ちょっと待ってな」


 ルナは荷車の荷台部分にあるスイッチをポチっと押すと、ガッチャン! と部品が動き出した。あっという間に荷車は屋台へと姿を変え、滑らかな変形に思わず目を見張った。


 これには驚きの表情になるしかない。そんな自分に対して、ルナがこちらへとサムズアップしてきた。


「ありがとうございます。では、さっそくハーピーを加工してしまいますね」

「ん? そのまま売ればいいんじゃないの?」

「さすがにハーピーの姿のままだと、お客さんがドン引きしますからね。では……孔明ビームサーベル!」


 手に持つ白羽扇の先からビームが伸びていく。ビームは空の先に飛んでいくことはない。サーベルの形状に留まる。出来上がったビームサーベルを縦横無尽に振るう。


 あれよあれよという間に首無しハーピーは捌かれていく。羽毛、鳥足、肉ブロック、これで元がハーピーだったとは思えない。


 肉ブロックのひとつをさらに細かい小ブロックに切り分ける。懐から串を取り出し、小ブロックの串刺しの完成だ。


「少し下がっていてくださいね。目から孔明ビーム!」


 小ブロックの串刺しを長方形の穴空き台の上に置き、それをビームでこんがりと焼いていく。ハーピーの串焼きの完成だ。


 香ばしい匂いが屋台に留まることなく、大通りへと流れていく。街行く人々は立ち止まり、鼻をくんくんと動かした。


「なんだこの良い匂い。胃を刺激されるっ!」

「あの屋台だ! ちくしょう! 肉を焼いてやがる!」


 孔明はニヤリと口角を上げた。準備は万端だ。あとは売りさばくだけである。


「さあさあ! ハーピーの串焼きです! お値段なんと1本50ゴリアテ! 本日限りのお試し価格でーーーす!」

「本日限りっ!」

「お試し価格っ!」

「これは買うしかねえ! 兄ちゃん、俺に10本だ!」


 いつの世でも本日限りとお試し価格は威力抜群だ! 孔明が開いた焼き鳥屋台では、ハーピーの肉が飛ぶように売れていく。


 1時間もしないうちにハーピーの肉は売り切れとなった。残りは羽と鳥足だけだ。孔明はすかさず、次の手を打つ。


 焼き鳥を売りさばいている間にも、ルナとヨーコが協力しあって、布と布の切れ端を縫い合わせて、布袋を作ってくれていた。その中にこれでもかとハーピーの羽を突っ込んでいく。


 さらには孔明ビームでやんわりと温めておく。ふっくらふわふわの羽毛枕の出来上がりだ。


「さあ、不眠で悩まされている方々へ朗報です! ぐっすり眠れる安眠羽毛枕を販売いたします! 1つ5000ゴリアテですが……今回は1つ買ってもらえば、もうひとつ枕がついてきます!」

「なん……だと!?」

「そうです! 1つ買えば、1つの値段で2つ買えるわけです!」

「これは買うしかないっ!」


 またしても屋台の前に人だかりが出来た。羽毛枕も飛ぶように売れていく。こちらは30分もしないうちに完売となった。


 残りは鳥足のみとなった。こちらもルナとヨーコが下ごしらえをしてくれている。ぶつ切りにした鳥足を寸動鍋でぐつぐつと煮込んでくれていた。


 スープをオタマですくって、口につける。なんともコクが深い味が口の中に広がっていく。灰汁取りもばっちりだ。


 懐からフカヒレを取り出し、目から孔明ビームで軽く焦げ目を入れる。屋台に並べられた空のお椀にその焼きフカヒレを次々と置いていく。


 澄んだ色をした茶色のスープをお椀に注いでいく。屋台の前には大勢のお客様たちが「ゴクリっ!」と喉を鳴らして、今か今かと待ってくれている。


 彼らの胃を刺激するために、白羽扇をふんわりと揺らし、彼らの鼻先へとフカヒレスープの香りを運んでみせた。


「いくらだっ!」


 客のひとりがたまらず、こちらに聞いてきた。孔明は口元を白羽扇で隠す。


「もったいぶるな! いくらでも出す!」

「ほほう……それはそれは……フカヒレスープ1杯、1万ゴリアテです!」

「うおおお! 買ったーーー!」


 スープ1杯、1万ゴリアテという漢帝ですらひっくり返りそうな値段設定だというのに、孔明が作ったフカヒレスープは飛ぶように売れた。


 ハーピーを余すことなく売り切った孔明たちは山積みになった銅貨・銀貨を前にして、ゆっくりと自分たち用に残しておいたフカヒレスープを飲んでいた。


「ふふ……計算通りです」

「ほんに恐ろしい男じゃ」

「敵には回したくないですね……」


 孔明はフカヒレスープを飲み終えた後、空のお椀を屋台の上に置き、ゆっくりと立ち上がる。


 白羽扇で口元を隠しているが、笑いが込みあがってくる。ここまで上手く売りさばけるとは思っていなかった。


 これが自信となった。高笑いしながら、未だにゆっくりとフカヒレスープを飲んでいる2人にこう告げた。


「さあ、次は売名行為です! このお金を元手に占い館を開業します!」

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?