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「う~~~ん。よく寝ました。って、ここどこですか!?」
孔明は目を覚ます。だが、今まで見たこともない光景を目にしていた。空を飛んでいるのは空想上の動物、いわば魔物と呼ばれる存在だった。
足の先は鳥のような鈎爪、腕は鷹の羽そのもの、その鷹のような羽を大きく広げ、ばっさばっさとうるさく羽ばたかせている。
地上では緑色の肌をした豚顔の魔物が棍棒を振り回しながら婦女子を追い掛け回している。
「へぇぇぇ~~~。これがいわゆる異世界ファンタジーってやつですかぁ! おら、わくわくしてきたぞ!」
孔明は立ち上がると、さっそく懐から白羽扇を取り出した。白羽扇の先端を豚顔の魔物に向けた。
「孔明ビーーーム!」
「ぶひぃぃぃ!」
白羽扇の先から極太のビームが発射された。それが横殴りに豚顔の魔物を焼き払う。こんがり豚顔の魔物の丸焼きが完成した。
その魔物に追われていた婦女子はこちらにペコペコと頭を何度も下げてきた。孔明はにっこりと微笑み返す。
「さてと……孔明ビームは問題なく使えることは確認しました。あとはどれくらい連射できるかも確認しておきますか」
孔明は空を優雅に飛んでいる両腕が羽の魔物に目を向けた。孔明はわざとらしく白羽扇で左目を覆い隠す。「ふふっ……」と意味ありげに呟いた後、白羽扇を横へとずらす。
「目からスプラッシュ孔明ビーーーム!」
「びぎぃぃぃ!」
孔明の左目から星が飛び出すと同時に細かいビームがいくつも飛び出していく。それらが空気の壁を貫通した。その度に「ボンッボンッボンッ!」と軽快な音が鳴る。
ついにはビーム群が両腕が羽の魔物に当たる。奴は空中で火だるまになりながら、地面へと落下していった。
「ふふっ……あーははっ! この雑魚がっ! って、待ってください。これでは仲達くんみたいな悪役です。ここは私らしく、ふふっ……計算通りです」
知的な笑みを浮かべながら、孔明は地面に落下した羽の魔物へと近づく。
こんがりとまる焼けになった魔物からは、香ばしい匂いが漂ってきた。思わず、ごくりと唾をのみ込んでしまった。
「これ、食べれるんでしょうか? 匂いからしたら美味しそうなんですけど……」
孔明は戸惑っていた。昔、蜀の西に位置する西秦国から持ち込まれた
その図鑑のページの1つに、これと似た魔物が載っていたような気がした。
膝を折り、つんつんと白羽扇の先で丸焼きの魔物をつついてみた。匂いは美味しそうだ。しかし、ヒトの顔をした二本足である、こいつは。
4本足であったならば、遠慮なく試食するのだが、さすがに二本足の肉を食べるのは中華生まれの孔明と言えども戸惑ってしまう。
どうしたものかと逡巡していると、道士服の腹の部分がいきなり膨らんだ。「うわぁ!」と驚いて、その場で後ろへと転げてしまった。
そんな自分に対して、襟元から飛び出してきた小さな人物がコロコロとおかしそうに胸の上で笑っていた。
「まったく……驚かさないでくださいよ、ヨーコくん」
「これは失敬。しっかし、サポートも無しで空を飛ぶハーピーを撃ち落とすとは」
「えっ? サポート?」
「これじゃから、とんちきビーム野郎は困るのじゃ……ちなみに、こいつは食えるぞ」
「えっ……食べれるといっても、二本足ですよ!?」
「腕は羽。そして、足は鳥のそれそのものじゃ」
「なる……ほど?」
ヨーコは食べれると主張するが、それでも孔明は躊躇せざるをえなかった。しかしながら、食用に転化できるとならば、このハーピーなる魔物は孔明にとって有用な存在である。
孔明はヨーコを手に持って、その場で立ち上がる。ヨーコはその手から腕を伝って、孔明の左肩に上って、ちょこんと座る。
ヨーコは今、リンゴふたつ分くらいの身長で、三つ尾の可愛らしい姿であった。
さらには艶やかな着物姿であり、白衣姿の大人の身体であった頃よりも、愛くるしさが1万倍となっている。
そんなヨーコが「よし、いけー!」と空を飛ぶハーピーを指差している。孔明は左目に力を入れる。その途端、自分の視界に赤い十字マークが浮かび上がった。
「うわぁ! 目に何か映り込んでいます!」
「慌てるでない。それは十字レティクルじゃて。それを目標に合わせレーザーを撃つ。本来ならば、そうしなければ空を飛ぶハーピーを撃ち落とすのは困難なのじゃが……」
「まあ、狙いやすくなるのはありがたい話です。いくら無双ゲージ無限大といえども、当たらぬビームに価値はありませんので」
孔明はさっそくとばかりに目に映りこんでいる十字レティクルの中心を空飛ぶハーピーに合わせた。
確かに目測をつけやすい。これならば、相手の急所を的確に射貫くことも可能だと思えてしまう。
「目から孔明ビーム!」
今度は範囲を絞って、極細のビームを打ち出してみた。ビームは空気の壁を突き破りながらぐんぐん伸びていき、狙い通り、ハーピーの頭に当たる。
それだけではない。ビームはそのまま貫通して、ハーピーの頭はスイカが破裂するように内側から爆ぜた。
「ほほっーーー。これは便利ですねっ! 狙いやすさが段違いです」
「じゃろお?
「ちなみに他にはどんなサポートをしてくれるんですか?」
「むむっ……そこは褒めるのが先じゃろうがっ。まあ、良い。このメガネをかけてみろ」
ヨーコに言われるがまま、手渡された黒ぶちのメガネをかける。伊達メガネであった。レンズ越しに地上へと落下してきた首無しハーピーを見てみた。
すると、伊達メガネのレンズの内側に項目と数値がずらりと並び始めた。それらを「ふんふん♪」と気分良く読んでみた。
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種族:ハーピー
脅威:C
特徴:鳥人間
備考:肉は食用。羽は矢じりに。
足は煮込みスープの出汁に使える。
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「へーーー。このメガネ、いいですね!」
「じゃろじゃろ!? 褒めてくれていいんじゃぞ!」
「よーしよしよし! えらいぞ、ヨーコくん!」
「ふふっ……照れるのじゃっ!」
孔明は左肩にちょこんと乗っているヨーコを右手で優しく撫でまわす。ヨーコはくすぐったそうにしていた。可愛らしい姿を見せてくれる。
もっと喜ばせてあげようと、白羽扇の先っちょで、こちょこちょとヨーコをくすぐってみた。
「いやん、だめなのじゃー! そこは弱いのじゃーーー!」
「くくっ。私はテクニシャンですよぉぉぉ!」
「あひんっ! やめてくれなのじゃぁぁぁ!」
ヨーコはくすぐったさに耐えきれなくなったのか、たまらず、こちらの左頬に右の拳を叩き込んできた。彼女としてはじゃれているつもりだったのであろう。
だが、こちらは「ぐふぅ!」と言いながら、横倒れに倒れてしまった。
草地で伸びていると「あわわ……」とヨーコが慌てふためいている。彼女を落ち着かせるためにも、倒れた姿勢のまま、サムズアップしてみせた。
「良い右ストレートです。ヨーコくんは世界を取れる……がくっ」
「孔明ーーー! すぐ回復させるのじゃーーー!」