さすがは孔明と言える発言だった。王は絶対的権力者のように見えるが、実はそうではない。とんでもないレベルの暴君でもない限り、そこまで自由人ではなかった。
色んな立場の人間のまとめ役なのだ、王とは。そして、軍師ポジが一番、自由に振舞える。
(虎の威を借りる狐とは言いますがね)
軍師とは王の権威をかさにやりたい放題、言いたい放題の立場だ。これほど孔明にとって、動きやすいポジションはないと言える。
宰相も軍師と似たポジションにある。
蜀での孔明は軍師と宰相の両方を兼ねた『丞相』という立場であった。だからこそ、蜀をあれほど、自由に魔改造できた。
「では、次の人生でも私は軍師、または丞相を目指します」
「う、うん。がんばるがよかろう」
「んで? こういうので定番のチート付与に関してですが……」
「おぬし、本当にめざといのう……。
「けち臭い……」
孔明がぼそっと言うや否や、「なんじゃと!?」と強い視線をヨーコから受けた。前言撤回とばかりに孔明は「いや、なんでもありません」とのたまった。ヨーコは「はぁ……」と思い切りため息をついている。
そんな彼女が机の方へと移動し、鉄の箱のすぐ近くにある長細い板にあるいくつものスイッチをカタカタと音を鳴らし始めた。
するとだ、孔明の目の前に半透明の映像が映し出されることになった。そこには事細かに項目が並び、さらにはその項目に数値がセットで表示されていた。
孔明はすぐにそれが何なのかを察した。
「なるほど? これが俗に言うステータスというやつですね? あらら。さすが、人々がうらやむほどの忠臣と言われた私です。義理99の野望1ですよ」
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名前:諸葛亮孔明
統率:90
武力:20
政治:98
知力:100
義理:99
野望:1
無双ゲージ:3本
列伝:蜀の丞相と呼ばれた男。以下略
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孔明はなるほどなるほどと自分のステータスを確認した。ヨーコの言う通りであれば、このうち、何かひとつをMaxにしてくれるという話であった。
それゆえ、孔明は迷わなかった。
「では、義理を0にして、野望を100にしてください」
「はぁ!?」
「ステータスをいじれるということは、減らせることも出来るということでしょ? リターンにはリスクが必要です」
「おぬし……どんだけ、次の人生を謳歌するつもりじゃ?」
「あの愚帝と名高い劉禅殿に死ぬまで尽くしたのです。次の人生では愚王は見限ってしまいたいんです。そのための義理0の野望100です」
「まあ、おぬしがそれでいいなら、止めはせんが……あと、チート付与は何がいいのじゃ?」
ヨーコがやれやれ……といった表情でまたもや長細い板にあるスイッチをカタカタと指で音を鳴らし始めた。
それと同時に色んなチートスキルが孔明の目の前にあるスクリーンに映し出された。
孔明は「ふむふむ……」と言いながら、チートスキルを確認していく。
(吸収法、段ボールで完全ステルス、自分だけが出入りできる精神と時の部屋……。どれもパッとしませんね。そもそも私は完璧超人です。今更、チート付与なんて、いらないんですよね)
孔明は白羽扇を振れば、竜巻を起こし、さらには落雷を起こせる男だ。
そして、女にモテモテでふんどしが乾く暇もないほどの長身の色男だ。
こんな完璧超人すぎる自分に似合うチートスキルなぞ、無いとも言えた。
「ここにあるのはどれもパッとしませんね」
「なんじゃと! それは
「いえ、そういう意味ではありません。私は現時点で武力以外は完璧超人なのです。ここで武力を補うようなものは私の特徴を逆に消してしまうことになりかねません」
「確かにな……言い得て妙じゃ。惜しいのう。この吸収法とか、お勧めだったのじゃが」
「はい、そういうわけで孔明ビームを撃ちたい放題になるチート付与が欲しいです」
「はぁ!? あんなとんちきビームをさらに強化しろと!?」
ヨーコは愕然とした表情になっていた。あちらとしては、予想もしていなかったのであろう。
孔明はしてやったりという顔になっていた。相手の虚をつくことこそが、軍師の役割でもある。
「さあ! 私に孔明ビーム撃ちたい放題のチート付与をお願いします! 具体的に言えば無双ゲージ無限大です!」
「おぬし……本当に面白い奴じゃ。しかし、そんなおぬしが気に入った! スイッチおーーーん!」
「あばばば!」
「かははっ! 1時間ほど我慢せい! ビーム撃ちたい放題のための再調整に入るのじゃからなっ!」
「そういうことは先に言ってくださーーーい! あばばば!」
孔明は緑色の液体に包まれながら、全身を雷で打たれるほどの衝撃を受けた。孔明は自身の発言により、自分自身を魔改造することになった……。
義理0野望100、そして、無双ゲージ無限大で孔明ビーム撃ちたい放題の新生・諸葛亮孔明へと徐々に変わっていく……。