「私がビームを撃てるのはあと数回……」
陣中において諸葛亮孔明は自分の死期が近いことを悟っていた。延命のための祈祷を行ったが、魏延のドアホがその儀式に酔った勢いで飛び込んできた。
「蚊が儀式の場に飛んで行ったので、それを退治しようと儀式中であるが、乱入させてもらったのです!」
「ばっかちーーーん! 嘘をつくならもっと知性に溢れたものにしなさい!」
魏延により延命の儀式それ自体が台無しにされた。プンスコと怒りに震えながらも、第5回目となる北伐を開始する。
孔明は10万もの大群を率いて、五丈原に入った。そこで陣を敷く。それに対して、敵の総大将である司馬懿仲達も五丈原から東にある渭水を越えた先で陣を張った。
両者、渭水を挟んで睨み合った。防衛に徹する司馬懿仲達に対して、諸葛亮孔明は果敢に将兵を前進させた。
しかしながら、敵の総大将である司馬懿仲達は仲達ビームでことごとく、蜀の将兵を破ってしまった。
「ぐぬぬ! 仲達め。ビームを連発しおって! うらやましい!」
陣中の孔明は苦々しく、仲達ビームが戦場でまき散らされているのを、白羽扇を噛みながら見ているしかなかった。
孔明がビームを撃てるのはあと3回。しかし、その内、すでに2回、魏延のせいで放ってしまった。
魏延は延命の儀式を台無しにしたことを反省していたようだ。彼は彼なりにこちらのことを思って、精のつく料理を陣中の食卓に運んできてくれた。
なんでもこの地方の名物である唐辛子なるものをふんだんに使った料理だという話だった。魏延の誠意ある対応にこちらも油断していた。
魏延がバクバクと唐辛子そのものを頭から齧っていた。彼が平然とした顔で「ちょい辛美味~~~い」と言っているのを見て、安心して料理に手を付けた。
あまりもの激辛で空に向かって、ビームを1発吐き出した。それでも口の中から激辛が取れない。2発目の激辛ビームを魏延に向かって吐き出し、彼をこんがりと焼いた……。
そのせいで、孔明がビームを撃てる回数は残り1回となっていた。
残り1回のビームを確実に仲達にぶち込まなければならない。ひりひりとする唇を懸命に動かし、皆に号令をかけた。
「出ます! 私自らが囮になれば、砦に立て籠もる仲達も前に出なければなりませんでしょうからっ!」
「丞相、それは無茶が過ぎます! 貴方は蜀の大黒柱ですぞ! 待てば機会は必ず訪れます!」
孔明の周りにいる将たちが孔明を止めようとした。しかし、孔明は彼らの静止を振り切り、北原を抑える魏将・
孔明の動きに合わせるように仲達も軍を動かした。郭淮は魏軍の中で最も優秀な将であった。彼を失うことは魏軍にとって、大きな痛手である。
「
「俺も出ます! この魏延、今度こそ、手柄をあげてみせます!」
「ダメです。貴方に任せる気はありません。どうせ、私の命令を素直に聞くつもりなんてないんでしょう?」
「バレました?」
「バレてます! いい加減にしてください!」
孔明は魏延を捕縛しておくようにと将に命じる。自分にもし何かあれば、魏延は勝手に暴れまわることは確実だ。今のうちに動けぬようにしておけば、後顧の憂いも無くなる。
一石二鳥の策だ。魏延を簀巻きにした。魏延を蹴飛ばすと、山の斜面から勢いよく、ゴロゴロと転がり落ちていく。
「さて、魏延のドアホは始末完了です」
「丞相……よろしかったのですか?」
「作戦の邪魔になりますからねっ! ついでに私が倒れた時に彼が謀反を起こす可能性があります。今のうちに始末しただけです」
「な、なるほど?」
将たちは孔明と魏延の仲の悪さを知っていた。しかし、ここまですることは無いのではないかと不満の色を顔に映している。
だが、今の孔明は覚悟を決めた目をしていた。孔明は将たちにそれ以上、何も言わせないオーラを発し、無理矢理に異論を封じ込めた。
「仲達を討ちます! 私に続きなさい! これが最後の戦いとなります!」
孔明は車椅子から立ち上がり、手に持つ白羽扇を高々と振り上げた。将と兵たちが孔明の気持ちを汲んで、何も言わずに孔明の後を追った。
(残り1回のビームを確実に当てる。そのためには仲達に肉薄しなければならない!)
孔明自らが先陣に立ち、ばっさばっさと白羽扇で敵兵をなぎ倒す。
孔明が白羽扇を右に振るえば、竜巻が起きた。魏の兵たちはその竜巻に巻き込まれ、遥か彼方へと吹き飛ばされた。
孔明が白羽扇を左に振れば、雷が幾重にも天から降り注ぎ、平原にいる魏の兵たちをことごとく焼いた。延べ1000人は屠ったであろう。
「丞相、貴方こそが一騎当千のつわものでございます!」
諸将たちが一斉に孔明の功績を称えた。魏軍は孔明の奮闘により、士気が大幅に高まっていた。だが、それを「ふははっ!」と一笑に付す敵将が現れた。
孔明が白と緑を基調にした道士服に身を包んでいるのに対して、孔明の前に立った男は青孔雀をイメージした道士服を着ている。
「仲達! ついに現れましたねっ!」
「ああっ! 我が宿敵! 雑兵の手でやられるのは可哀想なので、わし自らが相手をしてやろうぞっ!」
「ぐっ! なんとも不遜な態度ですね! ですが……こちらにとって好機ですっ! 討たせてもらいますよ!」」
「そう簡単にいくと思うなよ? わしはあと3回、ビームを残しているからなっ! お前は残り1回であろう!?」
図星であった。仲達に今の状態を見破られていることを彼の言葉で察した。「ぐぅ!」と唸るしかない。
こちらの戸惑いを察したのか、仲達がこちらへと一気に接近してきた。白羽扇と黒羽扇が交差し、火花が散る。
幾合か羽扇をかち合わせながら、孔明は仲達の隙を伺う。しかし、仲達はその隙をまったく見せようともしない。
距離を取った仲達が黒羽扇をこちらへと悠然に向けてきた。黒羽扇が怪しく黒き輝きを見せた。
「仲達ビーーーム!」
「くぅ! 卑怯ですよ!」
「ならば、お前もビームを放つがいいっ! できれば……だがな!」
孔明はすんでのところで仲達ビームを躱してみせた。こちらが態勢を崩すや否や、仲達がふわっと軽く浮きながら、肉薄してきた。
黒羽扇が的確にこちらの首を切り払おうとしてきた。孔明は白羽扇を縦に構え、黒羽扇の一閃をかろうじて防ぐ。
こちらを追い詰めているというのに仲達の瞳には涼し気な色が浮かんでいた。
「ずいぶん余裕がありますねっ!」
「ふんっ。この戦いのために、こちらは睡眠と食事をたっぷりと取っていたからなっ!」
「なんて、卑怯なんですかっ! こちらは過労死しそうなほどに働いていたというのにっ!」
「知るかっ! 一兵士の鞭打ちの刑まで自分の手でやらねば気が済まぬ、その神経の細かさを呪えっ! わしに言うことじゃないっ!」
「だって、部下に任せていたら、不安で夜も眠れないでしょ!?」
「そういうところがダメなのだよっ、お前はっ!」
それから幾度も孔明は仲達と羽扇と言葉を交えた。火花と砂ぼこりと雷鳴が両者の間で巻き起こる。
総大将同士の一騎打ちは最初こそ一進一退の攻防だった。しかしながら、孔明の一撃は仲達に届きそうにもなかった。仲達の勢いにじりじりと押されていくばかりとなってくる。
ついに崖のふちにまで、孔明は押されてしまった。相対する仲達の顔には笑みが色濃く出ていた。
「さあ、最後の時だっ! わしの羽扇に斬られるか、ビームで焼かれるか、好きな方を選べ!」
「戯言を……!」
黒羽扇をこちらに突き付けてくる仲達に対して、孔明は口を大きく開いた。喉の奥が発光する。
残り1回しか孔明ビームを撃てないが、ここで撃たなければ、仲達を討つどころの騒ぎではない。
「口から孔明ビーーーム!」
「目から仲達ビーーーム!」
ありったけの力を口から孔明ビームに込めた。それに対して、仲達も目からビームを放って応戦してきた。
お互いの譲らぬ意思が戦場に鳴り響いた。白き孔明ビームと黒き仲達ビームがまともにぶつかり合う。
2人を中心として、衝撃波が起きた。五丈原全体に暴風が吹き荒れる。敵と味方合わせて、20万の兵たちが暴風になぎ倒された。
しかし、その場においても、ただ一人の男が立っていた。
「チェックメイトだ、孔明」
「くっころ!」
「くはは……ずいぶん、てこずらせてくれた! さあ、トドメだっ!」
仲達は孔明を右足で踏んづけていた。さらには黒羽扇を高々と振り上げた。その時であった。ピシャーーーン! という音が孔明たちの頭上で鳴り響いた。
音のする方へ顔を向けた仲達が狼狽しきっている。信じられない光景が2人の目に映った。
「なん……だと!? 空間に亀裂が走っていく!」
「ふふ……計算通りです!」
「何が計算通りなのだ!?」
「私の渾身のビームと貴方のビームがぶつかり合うことで、時空に歪みが生じる。これぞ、必勝・共倒れの策です!!」
「嘘だろ!? 孔明、こうなる状況まで策に組み込んでいたのか!?」
「……」
「違うのかよっ!」
仲達は空に出来上がった真っ黒な亀裂に飲み込まれてなるものかと逃げだした。孔明は彼を逃がすかとばかりに彼へと覆いかぶさろうとした。
「いっしょに吸い込まれようよぉ!」
「巻き込もうとするんじゃなーーーい!」
「ぶへぇ!」
仲達は孔明をぶん殴って、その場から退散していく。仲達の右ストレートをまともに喰らった孔明はノックアウトされて、その場で大の字になった。
「ふふ……死せる孔明、生ける仲達を走らす。十分な戦果ですね」
倒れ伏した格好のまま、孔明は空中へと浮き上がる。全てを出し切った孔明は出来上がった真っ黒な亀裂に吸い込まれていく。そうであるというのに彼の表情は穏やかであった。
孔明が残した最後の言葉はやがて、故事となり、後世に語り継がれることになる……。