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第12話 竜車の中でお話

「冒険者って普通は何人で活動するものなんですか?」

「4人が多いと思います。6人や8人になる時は基本的に臨時パーティーが多いかと」

「じゃあ僕とアンナさんだけだとこの先危険ですか?」

「そうですね。臨時パーティーを組んで活動することになるかもしれないです」


 僕はアンナさんに竜車の中で冒険者についての話を聞いている。


「2人だと駄目ですかね?」

「駄目ということはありませんが、私にもう少し力がないと危ないとは思います」

「そうですか」

「泣いてルイ様を護ると言った私が、蓋を開けてみれば護るどころかルイ様の足を引っ張ってしまい、誠に申し訳ありません。こんな役立たずな私のことを罵ってください」

「いやいやいや、僕は全くそんなこと思ってないです。2人で冒険者をしたいなと思って色々聞きたかっただけで」


 アンナさんはおそらく精一杯冗談っぽく聞こえるように謝っているのだが、表情を見ると本当に申し訳ないと思っているのは分かる。

 最後の発言も冗談だよね?


「学園都市で私も少し学ぶ方が良いでしょうか」

「何か学べるんですか?」

「ライ様は学園へ通われる予定でしたし、私もライ様について行く筈だったので、少し学園都市のことは調べていたんです」


 アンナさんによると、学園都市には文字通り学園があるため教育の環境が整っているらしい。学園に通うのは貴族や選ばれた平民だけだが、その周りでも似たような授業を受けれたり、いろいろ平民が学ぶことのできる場所があるのだとか。


「私はもしライ様が学園に通われている時に休みの日があれば、治癒魔法について学びに行こうと思っていました」

「あの、僕も何か学んだ方が良いものってありますか?」

「ルイ様には色々な魔法を学んでみて欲しいです。ルイ様ならおそらく全ての魔法を使えますから」

「それは凄いことなんですか?」

「全ての魔法を使える人は居ますが、普通は1つか2つしかメインで使わないです。ルイ様なら全ての魔法を高レベルで使える可能性がありますから」


 まるでもう僕が魔法を使えることは決まっているかのようにアンナさんは話しているが、僕はその前提で話が進むのが怖い。


「あの、仮に僕が魔法を使えたとして、何の魔法を覚えられたら嬉しいとかありますか?」

「どの属性の魔法も覚えられたらとても良いですね」

「そうですか」

「ちなみに学園都市では冒険者ギルドでも戦闘指南を受けられるので、一度は一緒に受けに行きましょうね」

「それは確かに良さそうですね」


 冒険者の人数の話から、魔法や戦闘指南を受けるという話になってしまった。


「あの、話を戻しますけど、アンナさんとしてはあと2人メンバーを増やして、臨時パーティーを組んで活動しようとしてるって感じですよね?」

「はい。良さそうな方が居れば組む方が安全だと思います」

「じゃあ今の目標としては、冒険者ランクを上げることと、学園都市で色々学ぶこと、臨時パーティーを組む相手をみつける、ですね」

「はい。ただ、あまり冒険者として私とルイ様は経験も信用もありませんから、パーティーを組むことは出来ないかもしれないです」


 冒険者ギルドの説明で受けたように、ランクの低さは実力と信用の低さなので、僕達がパーティーを組むとしても、相手は実力も信用もない冒険者と組むことになる。


「なのでしばらくは2人で活動するのが結果的には安全かもしれません」

「分かりました!」

「ルイ様、そんなに私と2人は嬉しかったですか?」

「え、……いや、……あの」

「私は嬉しいです」

「……僕もです」


 少しずつアンナさんが僕のことをからかってくるだろう雰囲気は分かってきたが、だからといって防御する方法はない。


「ルイ様はどうしてそんなに純粋なのでしょう」

「ゴードさんにも言われました」

「心配になるくらい純粋ですけど、私はルイ様がお強い事も知っていますから」

「少し身体能力が高いだけですよ」

「いえ、体もそうですが、ルイ様は心もお強いですよ」

「え、それはないです。すぐ恥ずかしくなったり、度胸がなかったり、緊張したり、僕は小心者だと思います」


 自分で自分の心の弱さは痛い程感じている。


「いえ、ルイ様はそう思われているかもしれませんが、度胸も勇気もルイ様はありますよ。恥ずかしがりなところはそうかもしれませんけど」


 アンナさんの言うことはいつも納得のできることばかりだが、今回はアンナさんが僕のことを好いているからこその視点だと思っておく。


「あ、信じてないですね」

「いや、アンナさんがそう思ってくれてることは信じました」

「おい、そろそろ今日泊まる場所に着くから、着いたら晩飯と寝る準備をするぞ」

「あ、分かりました」


 ゴードさんが御者席の方から声をかけてきたので返事をしたは良いものの、僕は何をすれば良いのだろうか。


「私が用意いたしますのでルイ様は何もしなくて良いです、と言いたいところですが、少し木の枝を集めてもらいたいですね」

「じゃあこの竜車が止まったら僕は木の枝を集めてきますね」

「乾いたものをお願いいたします」

「了解です」

「よーし、着いたぞ」


 着いたという声を聞き、早速僕は木の枝を集めに行く。


「もっとモンスターに襲われたりするかと思ったけど、意外と大丈夫だったなぁ」


 木の枝を集めながら僕は1人今日の旅を思い返していた。


「今日はまだ話すことがあったけど、明日は暇になりそう」


 おそらくまだまだアンナさんと話すことは山ほどあるが、竜車の中でずっと座っているとだんだん何をするにも億劫になってきて、会話すらもしなくなる気はしている。


「アンナさん集めてきました」

「ありがとうございます。この後はゴード様に聞いてくれますか?」

「分かりました」


 ということで運びドラゴに餌を与えているゴードさんのところへ行く。


「あの、何かやることってありますか?」

「そうだな。じゃあ川に水を汲みに行って貰っても良いか?」

「了解です。どこに川はありますか?」

「おーいドレール、ルイと水を汲んできてくれ」

「はぁぁぁ、了解。ルイは水汲み良いのか?」

「良いっていうのはどういうことですか?」

「おっっっもいんだよ」


 ドレールさんは顔を歪ませて、本当にキツそうな表情をしている。


「ゴードさんが水を汲めっていうことは、今日は体を拭けるってことだ。大体街を出た初日はそのまま寝ることが多いんだが、まぁルイとアンナを思ってのことだろうな」

「そうなんですね。それなら僕は水汲み頑張ります」

「お、やる気だなぁ。ま、腰を痛めないようにしてくれよ。水とルイを担いで戻るのはおれには無理だからな」


 道から離れ、どんどん森の中へ入っていくドレールさんに僕はついて行く。


「一応ここからはモンスターに注意だ。どっちが警戒してどっちが水を汲む?」

「僕が水を汲んで運びます」

「あそこの川から汲むぞ。出来るだけ早くこの森は抜けるからな」

「はい」


 僕は2つ重ねて持ってきたバケツを外し、川の水を両方に満杯まで入れ、片手に1つずつバケツを持つ。


「もしモンスターが襲ってきたら水を捨てて逃げるからな」

「分かりました」


 今考えると冒険者の僕が周りの警戒をするべきだったと思い直す。

 なぜ商人に周りを警戒させて、冒険者が武器を持たずバケツを持っているんだと過去の自分へツッコみたい。


「ふぅ、お疲れ。これで今日は体が拭けるし、明日の朝顔を洗うことも出来るかもな」

「さっきは冒険者の僕が警戒するべきでした。ごめんなさい」

「あ? いや、おれからすると水を持ってくれる方がありがたかったぞ。そんなにモンスターが襲ってくるわけでもないしな」

「でも、冒険者なのに商人のドレールさんにモンスターの警戒をさせるのは、ちょっと冒険者の判断としては考えが甘かったです」

「まぁおれはそれで良いって思ってるから良いんじゃねぇか? また次にその反省は活かしてくれ」


 ドレールさんは本当に水を持つのが嫌そうだったので今の言葉は本心だろうが、僕はせめて水を運ぶ前にこの考えに思い至るべきだった。


「ご飯の用意は出来ましたのですぐに食べましょう」

「あ、行きますね」


 アンナさんの声がかかり、皆焚き火のすぐ近くまで集まってくる。


「美味そうだが俺達は自分達の持ってきた飯を食うぞ」

「ルイが羨ましいぜ」

「アンナさんが居なかったら本当に何も出来ないですから」

「料理は私が用意いたしますが、その他のことはお世話できるのも今だけですよ。」


 僕はアンナさんの作ってくれたご飯を食べるが、アンナさんが料理好きということもありとても美味しい。これまで食べてきたものと比べたら質素ではあるが、外で食べられるものと考えれば十分だろう。

 まぁ野宿について知識がないため、全部根拠はないのだが。


「もしまた野宿をする時は、絶対にルイはアンナから離れるなよ」

「え、はい。でも何でですか?」

「ルイが俺とドレールを信用してるのは分かるが、商人だろうが冒険者だろうが他の奴は信じるな」

「いえ、ゴード様。それは私が判断できるのでご心配なく」

「お、そうだったのか、余計なお世話だったな。てことはアンナには何か能力があるんだろう」

「……」

「別に能力の詮索はしないが、もう少しルイは嘘をつけるようになれ。アンナが隠してもルイでバレるぞ」

「……はぃ」


 こうしてゴードさんからありがたいアドバイスをもらった僕は、食事中ポーカーフェイスの指導を商人の2人から受けるのだった。




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