「よし、一旦ここで休憩だから外に出てきてくれ」
ドレールさんに声をかけられ、僕とアンナさんは外に出る。そして外にいたゴードさんに僕は話しかけられた。
「竜車の乗り心地はどうだった?」
「速くて静かでした。馬車だともっと揺れるってアンナさんから聞いたので、少しだけ馬車も気になりはしましたけど」
「そうかそうか。まぁ馬車は最初から1日中乗るもんじゃないだろうな」
「ゴードさんは馬車の経験って、当然ありますよね」
「そりゃあ竜車だけに乗ってきたわけじゃないからな」
僕がゴードさんと話している間に、アンナさんはご飯の用意をしてくれる。
「ゴードさんとおれ、ルイとアンナ、どっちも似たようなペアを持って大変だな」
「私はルイ様のためなら何だって出来ますよ」
「あぁ、どうやら似てるどころか全く違うらしいな」
「ドレール! ルイが用を足してくるから行ってくる」
「ゴ、ゴードさん、そんな大きな声で言わなくても」
「(ルイ様が仲良さそうにしてる。私以外の人と仲良くするのは良いこと。それにゴードさんは男性ですし、……)」
アンナさんが独り言モードに入ったが、僕はゴードさんに連れられて少し離れた場所に行くため、ドレールさんにアンナさんを任せる。
「ルイ、アンナは本当にただの使用人なのか?」
「え? 何でですか?」
「初めて会った時変な感覚がしてな。ルイとは全く違う、真逆と言って良いような鋭さがアンナにはあるんだ。まぁルイに対しては全く無いから分からないか」
「確かにゴードさんは僕と話す時とアンナさんと話す時の口調が最初は全く違いましたよね。今は僕にもアンナさんにも同じですけど」
「アンナには警戒する必要があったのと、さっきも言ったが妙な感覚があったからな」
「ってことは僕には警戒する必要なかったんですね」
「そりゃあ裏表のないルイと話すのに警戒することは無いだろう。久しぶりに何も考えず最初から楽しく話せた」
「え、」
ゴードさんには僕のことがそう見えてたらしい。
「それは、分かりやすいってことですか?」
「純粋って言う方が響きは良いか?」
「そう言われると悪くないですね」
「ハハハッ、そういうとこだな。商人なんてやってたら、相手を疑うことが基本だから新鮮だった」
「大変ですね」
「慣れないとそうかもしれないな。よし、ここにしよう。終わったら声をかけてくれ」
僕はゴードさんが周りを警戒してくれている間に出来るだけ早く用を足す。
「終わりました」
「よし、ルイに見張りを頼んでもいいか?」
「分かりました」
「もしモンスターが見えたらすぐに言ってくれ」
「はい」
僕は言われた通り周りを警戒するが、短時間のためモンスターが襲ってくることはなかった。
「よし、帰ろうか」
「ゴードさんって冒険者だったんですか?」
「なんでそう思うんだ?」
「最初に会った時冒険者の話をしましたし、今も慣れているような気がして」
「商人でもこれくらいはするんだが、俺はルイの言った通り昔少しだけ冒険者はしてた」
「ちなみにランクって」
「Dだ」
聞いたは良いものの、それがどれくらい凄いのか分からない。
「冒険者ギルドの職員さんが、昔はDランクになるには試験を受けないといけなかったって言ってました」
「丁度その試験を受かって、俺は商人の道に進んだんだ」
「え、折角受かったのに……いや、何でもないです」
「顔を見なくても分かる。俺が仲間を失ったとか、怪我をしたとか、そういう想像をして聞くのをやめたんだろう」
僕はそんなに分かりやすいのだろうか。
「……はぃ」
「まぁほぼ当たりだな。右腕を怪我してからあんまり力が入れられなくなってな。パーティーメンバーにも悪いし、迷惑をかける前に早めに抜けたんだ」
「すみません」
「別に重い話じゃない。パーティーメンバーの誰かが死んで冒険者を辞めるなんてよくある話だ。俺は怪我をしただけで生きてる」
「ちょっと冒険者を続けるのが怖くなってきました」
「それは自分が怪我をすることにか?」
「……違います」
僕の考えていることが全て見透かされているように感じる。アンナさんみたいにゴードさんが心を読む能力を持っていても僕は驚かない。
「1つだけアドバイスしていいか?」
「? はい」
「ルイは何も気にせず自然体が1番だ」
「……? 分かりました」
「無理に変わろうとしなくて良いってことだ」
「あんまり自分ではそんな事考えてるつもりはないですけど」
「アンナと付き合っているのか?」
「……」
「ルイが何をしたか知らないが、アンナはルイ以外どうでも良さそうに見える。もうルイに心底惚れてるなあれは。ま、だからルイがそのままでいれば上手くいくだろう」
冒険者のアドバイスかと思ったら、アンナさんとの関係についてだった。
「お、ゴードさん達帰ってきた。おれも食べた後行くんでついてきてくださいね」
「飯の前にそんな話をするな」
「今用を足してきた人が言わないでくださいよ」
「ルイ様、こちらへどうぞ」
「アンナさんもドレールさんもありがとうございます」
「向こうはお礼言ってくれてますよ」
「俺達が礼を言い合ったら気持ち悪いだろう」
「それは確かに」
ドレールさん達も仲が良さそうだ。
「ルイ様、お弁当の量が多いので、ゴード様とドレール様にも食べてもらうことにしましたが、よろしかったですか?」
「はい、僕もそのつもりだったんで」
「これは美味そうだ」
「高かっただろうな」
ゴードさんもドレールさんもお弁当を見て嬉しそうなのは良かった。
「こちらのお弁当はルイ様が無料で手に入れられました」
「いや、そうですけどそうじゃないです」
「ルイは何をしたんだ?」
「面白いな、夕方までの推理ゲームにするぞ。勝ったら今日の夜は後に寝る」
「その勝負乗った!」
「あの、そんなに面白いことでもないですから」
アンナさんは誤解させるような言い方をするし、ゴードさん達はゲームにするし、今この場で実際に起こった内容を話すことが出来なくなってしまった。
「ではいただきましょう」
「う、美味い」
「丁寧な味付けだな」
「あ、この魚は朝食の」
「ゴードさんの言う通り全てのものが丁寧です。ルイ様は人をやる気にさせる天才ですね」
「いや、だから僕はただ料理を食べただけですって」
「おい、それ以上ルイは言うなよ」
「これまでの発言である程度絞れたな」
ゴードさん達は推理ゲーム脳になってるし、アンナさんは手軽に食べられそうなサンドイッチなどを別の容器に移している。
「全て食べ切れないでしょうし、後でこちらは竜車の中で食べましょう」
「おれ達の分は」
「ありません」
「まぁこれを食べれるだけでもありがてぇか」
「俺達は後で昼用に買った飯を食べないといけないからな」
「この後に食べるのはなぁ」
「じゃあ全部俺が食べるからお前は飯抜きだ」
「ゴードさんだけじゃ食べ切れないだろ」
皆は話しながら食べている中、僕はただただ美味しいお弁当を黙々と食べていた。
「ルイ様、食べさせあいっこしませんか?」
「ゴホッ、っっ、ア、アンナさん!?」
「ひゅー、お熱いねぇ」
「さっき聞いたらルイはアンナと付き合ってないと言ってたが、本当か?」
「いや、ゴードさん、僕は付き合ってないとは言ってないですよ!」
「アンナ、これでどうだ?」
「サンドイッチを1つ差し上げます」
「え、ゴードさんそれはズルいって」
「まぁあとで半分分けてやる」
何やらアンナさんとゴードさんの間で取引がなされていた。
「それって何のサンドイッチですか? 何かサンドイッチをあげる話し合いってありました?」
「ルイ、お前は変わらなくて良い」
「ルイ様に食べさせてもらうのは後にして、今は私が食べさせてあげますね」
「ルイ、お前頑張れよ」
「え? え?」
ゴードさんにはまた同じ事を言われたし、アンナさんはお弁当を食べさせてくるし、ドレールさんには励まされ、もう何が何だか分からない。
「あぁ食った食った」
「美味かった。ルイ、アンナ、感謝する」
「お礼はルイ様にどうぞ。私は何もしていないので」
「いや、僕も何もしてないですから」
僕達は昼ごはんを食べ終わり、また竜車へ戻るのだが、アンナさんのトイレ問題が出てきた。
「どうする? 俺達のどっちかがついて行くか、ルイについてきてもらうか」
「……ルイ様、お願いします」
「は、はい」
「まぁこれから一緒にやってくならそれが良いだろう。ドレール、俺達も行くぞ」
ゴードさん達も逆側へ少し離れ、僕達は完全に2人だけになる。
「ルイ様、見ないでくださいね」
「は、はい。周りを警戒しておきます」
「お願いします」
「……」
「……」
このまま静かにしているのは不味いと思い、僕はモンスターに気づかれない程度に自分の声で聴覚を消す。
「ぁぁぁぁぁぁ……」
「ルイ様?」
「ぁぁぁぁぁぁ……」
「ふふっ、終わりました」
「ぁぁぁ、あ、終わりましたか」
「ありがとうございます」
「いえ、本当は静かにして警戒するのが1番なんでしょうけど、モンスターも出てこなさそうだったので」
今回はこれで乗り切ったが、これからアンナさんと旅をする時のトイレ問題は、今後考えていかないといけないなと思った。
「私、もっと自分は割り切ることができる人間だと思ってました」
「僕から見たアンナさんは結構そう見えることがありますけど」
「トイレ1つで心が乱れるなんて」
「誰でも近くに人が居る状況でするのは嫌ですよ」
「でも私はルイ様以外なら緊張はしません」
「え、じゃあゴードさんに来てもらうほうが良かったですか?」
「いえ、ルイ様とはこれからずっと一緒に行動するので、今のうちに慣れておかないといけませんから」
これは僕にも言えることなのは自分でも分かっている。
「僕もアンナさんが近くにいる状況でするのは少し抵抗があります」
「でも、これからも2人で行動するなら克服しないといけませんね」
確かに2人でこれからもやっていくならそうだ。
「帰ってきたか。竜車に乗ったら出発するぞ」
「分かりました」
こうして僕達はお弁当を食べ、また竜車に揺られ学園都市を目指すのだった。