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第11話

学園の裏門近く、日陰に覆われた一角。

そこには様々な種族の生徒達が、まるで闇市のように集っていた。

巨躯を誇るオーガの男子が壁に寄り掛かり、翼の生えたハーピーの女子が空中でぶらぶらと揺れている。

角の生えた悪魔の少年はジュースを飲みながら、蛇の尾を持つラミアの少女と内緒話に興じていた。

人間の不良グループは、エルフの男子と一緒にトランプで賭け事を楽しんでいる。

授業の鐘は既に鳴り響いたというのに、彼らはここで悠々と「自由時間」を楽しんでいた。

皆一様に制服は着崩し、まるでそれが不良の誇りであるかのように、派手に校則違反を主張している。


「おい、聞いたか?」


ドラゴニュートの少年が声を上げた。

彼の額から生える鋭い角と、背中の翼は竜の血を引く証。

一見すれば人間と変わらぬ姿だが、縦に裂けた瞳孔と、時折吐息と共に漏れる炎は、彼が人とは異なる存在である事を主張していた。

彼らはドラゴンとは異なる種族だ。竜の血を引く亜人として、独自の文化と誇りを持っている。


「あぁ、抗争中にヤベェ奴が現れて、全員氷漬けにしたって話だろ?」


トランプを手にした人間の不良が答える。


「そう。なんでも、その男が言うにはよ」

「『俺の縄張りで勝手な事してんじゃねぇ』ってさ。どこの番長だよ、って話だよな」


その言葉を聞き、ラミアの少女が身を乗り出す。

彼女の下半身は巨大な蛇そのものだが、不思議と違和感を感じさせない美しさがあった。


「アタシが聞いた話じゃ、火柱を巻き起こしたって。地獄の業火みたいな炎でね」

「違ぇよ」


ハーピーの女子が、翼をバサバサと羽ばたかせながら反論する。


「あたしゃ雷が降ってきたって聞いたね。空から紫電が降り注いできて、みんなバッタバタって」

「一体何者なんだ?そいつ」


オーガの男子が、分厚い腕を組みながら唸る。

その声には、明らかな警戒心が滲んでいた。


「わからねぇ。だが……」


ドラゴニュートはジュースの空瓶を地面に投げ捨て、意味ありげに続けた。


「どうやらこの学園を牛耳ってる奴らしいぜ」


その言葉に、集まっていた不良達の表情が一瞬で険しくなる。


「へぇ〜、じゃああのゼノンやティアマトより強いってこと?」


ラミアの少女が、蛇の尾を揺らしながら口を挟む。


「強いんじゃねぇの?だって学園の裏の支配者なんだろ?」


ドラゴニュートは笑みを浮かべて、仲間たちの反応を楽しむように続けた。


「そっかぁ、支配者だもんな……」


日陰で繰り広げられる噂話は、次第に大きな輪となっていく。

授業の鐘が鳴り響いてから既に30分。彼らは今、堂々とサボリ中なのだ。

まぁ、これは仕方のないことなのかもしれない。


何故なら──彼らは「不良」なのだから。


それは種族の垣根を超えた、彼らなりの誇りである。

不良に種族も性別も関係ない。

不良は不良という一個の概念なのだ……。


「そういやティーファ、お前昨日の抗争に居合わせたんだろ?何か見てねぇのか?」


突然の問いかけに、ティーファと呼ばれた少女は身体を震わせ、手に持っていたお菓子を落としかけた。

だが落下する前に、彼女の指先から放たれた蜘蛛の糸がそれを捕らえ、器用に手元へと引き戻す。

ティーファはアラクネ──上半身は人間に近いが、下半身は大きな蜘蛛という姿を持つ種族である。

八本の脚で地面を掻く音が、彼女の動揺を物語っていた。


「わ、私は……!何も見てないよ!そう、私はなーんにも見てない!」


震える手でお菓子を持ちながら、ティーファは必死に否定の言葉を並べ立てる。

明らかに何かを隠そうとする態度に、不良達は呆れた溜め息をつく。

ティーファは嘘をつくのが絶望的に下手なことで有名だった。蜘蛛の糸を操る腕前は天才的なのに、嘘だけは一級品の「へた」なのである。


「あ、あのさ!裏の支配者なんているわけないでしょ?常識的に考えてよ……みんな何言ってんのさ、はははは……」


八本の足をバタバタと不自然に動かしながら、指から糸を無意味に放出しながら、彼女は誤魔化すように乾いた笑い声を上げる。


(こいつ、絶対何か知ってやがる……)


不良達の視線が、一斉にティーファに集中する。

その視線の重みに、彼女の冷や汗は更に増していく。

皆で一斉に彼女を問い詰めようとした、まさにその時──。


──ドォン!!と。


不意に響き渡った轟音と共に、背後の壁が粉々に砕け散った。


「──え?」


不良達が驚愕の表情で振り返ると、そこにはまるでボロ雑巾のように変わり果てた壁が。


「よぉ……昼間からサボってやがるとは、なかなか元気なガキ共だなぁ?この英雄様が特別に『挨拶』してやらぁ……」


その声の主は、赤い髪と赤い瞳を持つ青年だった。

両手からはバチバチと紫電が漏れ出し、魔導外套は不吉な輝きを放っている。

今にもこの場にいる全員を消し炭にしてやろうとでも言うような、殺気立った笑みを浮かべていた。

その姿を目にした瞬間、不良達の体が凍り付く。


全員が本能的に察した──この男に逆らえば、間違いなく殺される、と。


「それでよぉ……」


アルヴェは意地の悪い笑みを浮かべながら、ゆっくりと不良達に歩み寄る。


「てめぇらの中で、ティーファってガキはどいつだ?」


殺気の籠もった声に、不良達は即座に反応した。

まるで息を合わせたかのように、全員が蜘蛛の下半身を持つアラクネの少女を指差す。


「ちょ、ちょっと!アンタたち私を売るつもり!?そんな──ギャーっ!!」


ティーファの抗議の声は途中で悲鳴に変わった。

アルヴェの放った紫電が、彼女の全身を貫いたのだ。

プスプスと煙を上げながら地面に倒れ込むアラクネの少女。

アルヴェは、蜘蛛の脚が生えた特異な骨格を難なく抱え上げ、肩に担ぎ上げた。そして、残された不良達へとゆっくりと振り返る。


「ぎゃははは!テメェら、仲間を売るなんて最高じゃねぇか!これは特別な『ご褒美』をあげねぇと……なぁ!?遠慮なく受け取れや!」

「!?」


アルヴェがパチンと指を鳴らす。その瞬間、不良達の持ち物が次々と爆発を始めた。

トランプは紙吹雪となって散り、お菓子は粉々に砕け、ジュースは霧となって蒸発していく。


「えっ……!?」

「な、なにを……うぎゃあ!?」


それだけではない。不良達の身体にも異変が起こる。

オーガの巨体が頭上から突如降り注いだ岩が直撃し、地面に崩れ落ち、ハーピーはどこからともなく降ってきた雷に直撃し、翼を痙攣させながら墜落。

ドラゴニュートは爆発の余波を受け縦目を見開いたまま倒れ込み、氷の礫を胴体にばらまかれたラミアの尾は力なくくねっと地面に転がった。


「う……うぎぎ……」


誰一人としてまともな反応を示せないまま、不良達は次々と意識を失っていく。

その薄れゆく意識の中で、皆が同じ事を悟っていた。


──こいつこそが、裏の支配者だ。


「さぁ~て……このゴミは回収しておくぜぇ。邪魔したな、テメェらは落ちこぼれ生活を存分に堪能しててくれや」


倒れ込んだ不良達を尻目に、アルヴェは蜘蛛の少女を担いだまま、悠々と立ち去っていった。




♢   ♢   ♢




「あ~、こんな天気のいい日に授業なんざ、だっりぃ……」


人間の不良、バルドは大欠伸を漏らしながら廊下をふらついていた。

思い切り上に跳ねた金髪のリーゼントは、まるで漫画から飛び出してきたかのような典型的な不良そのもの。

むしろあまりにもベタすぎて、「こんな完璧な不良がいるのか」と言われるほどだ。


「サボるのも飽きちまったなぁ」


制服のボタンを全開にし、腰まで垂らしたシャツ。首からぶら下げた金のネックレス。

なんともオーソドックスな不良である……。

そんな時だった。

廊下の向こうから、チャラい笑い声が響き、廊下の奥から異種族の姿が現れた。


「んでよぉ、そいつの首根っこ掴んでブン投げてやったんだよ!」


オークの不良がデカい声で武勇伝を語る。その巨躯からは、人を殴り慣れた野蛮な空気が漂っていた。

人間とは一線を画す筋肉質な身体と、緑色の皮膚。そして下あごから突き出た大きな牙──。


「マジかよ!?テメェ相変わらずケンカ早ぇな!ひゃはは!」


赤い角を生やしたデーモンが下品な笑い声を上げる。

赤黒い皮膚と、全身に刻まれた魔法の入れ墨。特徴的な尾は、獲物を見つけた蛇のようにゆらゆらと揺れていた。

エルフの不良に至っては、尖った耳に無数のピアスを付け、高貴な種族の面影など微塵もない。


(あー、めんどくせぇ……)


バルドは内心で舌打ちする。廊下のど真ん中、この状況で正面からぶつかれば、絶対に揉め事になる。

不良の掟として、道を譲るなどありえない。かといって、相手は三人。それも異種族ときた。


「はぁ……」


バルドは小さく息を吐くと、さり気なく壁際へと避けた。

本来なら不良の名折れ、廊下の主導権を譲るなど許されざる行為である。


(まぁ、今日は暑いしよ。それに今から喧嘩は面倒くせぇし。それになんか腹減ってきたし。あぁ、そうそう。明日テストもあるしな。うん、今日は大人しくしとくか)


次々と情けない言い訳を並べ立てる内心とは裏腹に、バルドの背筋からは冷や汗が流れていた。

一方、異種族の不良達は彼の存在すら気付いていない。

オークは相変わらず武勇伝を語り、デーモンは下品な笑い声を上げ、エルフは煙たそうな表情を浮かべている。

彼らは堂々と廊下の真ん中を歩き、バルドの脇をすれ違っていった。

その瞬間、バルドの心の中でほっとした安堵の声が漏れる。


(よかった……。って、あれ?なんで俺、ホッとしてんだ?)


己の弱さに気付いた瞬間、バルドは思わず顔を歪めた。

なんとも情けない不良である。まぁでも、多勢に無勢という言葉もあるし?

俺は悪くねぇ。


「まぁ確かによ、多勢に無勢ってのは避けるに越したことねぇよな!うんうん、俺は正しい判断したんだ!」


バルドは実に情けない自己弁護を繰り返していた。

不良のプライドも何もあったものじゃないが、命あっての物種である。

そんな彼の耳に、突如として不穏な声が響いた。


「あぁ?なんだぁ、テメェは……?」


オークが低い声で唸る。

三人の不良の前に、一人の男が立ちはだかっていた。


「おいおい、道を開けろよ。このクソ野郎」


デーモンが尾を揺らしながら威嚇する。


(マジかよ……一人であいつらに喧嘩売るとか正気か?)


バルドは呆れた目で状況を眺める。

いくら不良でも、廊下の主導権くらい譲ってやればいいのに──。

そう思った瞬間、バルドの背筋が凍り付いた。

赤い髪と赤い瞳を持つその男は、魔導外套をはためかせながら、獲物を見つけた猛獣のような笑みを浮かべていたのだ。


「なぁ~んでぇ、この英雄様が道を譲らなきゃなんねぇんだ?まったく、今時のガキは礼儀ってもんを知らねぇのかぁ?」


男──アルヴェは千鳥足で、しかし妙に危険な雰囲気を漂わせながら言い放つ。

魔導外套の紋様を不吉な輝きで満たし、彼は相変わらず酔っ払いの調子で喋り続ける。


「へ?なんだコイツ。酔っ払いか?」


エルフの不良が眉をひそめる。


「お?それとも変な草でも吸ってんのか?ひゃはは!」


デーモンが下品な笑い声を上げた。


「めんどくせぇ……。こんなクソ野郎、ぶっ殺して先に進もうぜ」


オークが巨大な腕を振り上げる。その一撃は、人一人の頭を簡単に潰せるほどの威力を秘めていた。

しかし──


「──おっと」


アルヴェは親指と人差し指だけで、オークの巨大な拳を受け止めた。

ハエを追い払うような、実に軽やかな仕草である。


「……え?」


三人の不良も、壁際で見ていたバルドも、目を見開いて固まる。


「そんな立派な図体してんのに、テメェのパンチはこの程度かぁ?なんだぁ、見た目通りのクソ雑魚じゃねぇか」


アルヴェは酔っ払いながら、にやにやと意地の悪い笑みを浮かべる。

そして──。


「──くたばれ」


彼の指先が、オークの額を軽くはじいた。

その瞬間である。


「ぐぁーーーーっ!?」


一瞬の閃光と共に、オークの巨体が廊下を突っ切って飛んでいく。

そうして廊下の壁を次々と貫通していく巨体。

一枚目の壁が粉々になる音が廊下に響く。

二枚目の壁が粉砕される振動が校舎全体に伝わる。

そして三枚目の壁に、ついにオークの体が深々とめり込んだ。


「……あ?……え?な、なに……?」


コンクリートの破片が雨のように降り注ぎ、粉塵が廊下一面に立ち込める。

壁にはオーク型の穴が三つも空き、その向こうの教室からは悲鳴が響き渡っていた。


「さーて」


アルヴェは酔った目で、残りの二人を見つめる。

その目は、獲物を追い詰めた猛獣のように危険な輝きを放っていた。


「お次は、どっちにしようかなぁ?」


残された二人の不良は、顔を真っ青にして後ずさる。

しかし、エルフの不良は意地なのか、プライドなのか、歯を食いしばって踏ん張った。


「テ、テメェ……このクソ野郎、ぶっ殺してやる!」


その端正な顔を怒りで歪ませながら、エルフは渾身の蹴りを放つ。


「おっ、いいねぇ!俺ゃ、威勢のいいガキは好きだぜぇ!」


アルヴェの嘲笑が響き渡る。

そして──。


「えっ!?」


エルフの蹴りが放たれた次の瞬間、アルヴェの姿が消えていた。

いや、消えたわけではない。

なんと彼は、エルフが放った足の上に、優雅に腰掛けているではないか。


「な、なんだこいつ……!」


デーモンの生徒が絶句する。

エルフは自分の足の上に座る男を、信じられない目で見上げていた。

一方アルヴェは、退屈そうな表情で大欠伸をする始末。


「ふわぁ~……その威勢と同じくらいの強さが伴ってりゃ良かったんだけどなぁ。生憎、この英雄様は雑魚は大っ嫌いでね。はい、お前も死んどけ」


アルヴェが二本の指をビッと不良に指した瞬間。


「ぎゃあぁぁっ!?」


エルフの不良の悲鳴が響き渡る。

アルヴェの指先から放たれた眩い光線が、彼の身体を直撃したのだ。

ピンボールの球のように、エルフの体は廊下を一直線に吹き飛ばされていく。

その姿は実に『優雅』で、壁を何度も突き破り……そして最後は──。


『うわ!?またなんか吹っ飛んできた!?』

『じゅ、授業中だぞ!?』


先ほどオークがめり込んだ教室の壁の真横に、エルフの体が見事にめり込んだ。

今や壁には、アート作品のように二つの人型が並んでいる。


「さて……」


アルヴェはゆっくりと最後の一人──デーモンに向き直った。


──デーモン族とは、赤い角……赤黒い肌に蝙蝠の翼、そして尾を持つ魔族である。

種族の慣習として魔法の入れ墨を赤子の頃に入れるという、かつての大戦では世界を震撼させた好戦的で残虐な種族……。

などと教科書には書いてあるが──。


「ひ、ひぃっ……」


デーモンの不良は、アルヴェと遥か遠くで壁にめり込んだ仲間たちを、首を回すように交互に見つめる。

パニックに陥った脳が、必死に状況を理解しようとしているかのように。


「あ、あの!お、俺が悪かった!許してください!これからは絶対に良い子にします!道も譲るし、不良なんてやめて、授業も真面目に受けます!だから許して!お願いします!」


かつて世界を恐怖に陥れたデーモン族の若者は、今や涙目になって土下座の形を取っていた。

その尾は、怯えた犬のようにブルブルと震えている。


「お、おい……」


壁際で見ていたバルドは、思わず目を逸らした。

さすがにこれは、見ていられないほどの惨状である


「……」


アルヴェは、土下座するデーモンの不良を冷ややかな目で見下ろしていた。

その瞳には、今までで最も冷たい感情が宿っている。

まるでゴミを見るような……いや、ゴミ以下の存在を見るような、そんな視線だった。


「──勘違いしてるみてぇだが」


アルヴェの掌に魔力が渦巻き始める。

その威圧的な魔力に、廊下の窓ガラスがカタカタと震え出した。


「俺はな……テメェが良い子になろうが、クソガキのままだろうが、どうでもいいんだよ。ただ単に、気に食わねぇ奴は消し炭にする。それだけの話だぁ……」


その瞬間、デーモンの不良の顔から血の気が引いた。

彼の尾は、まるで死を悟ったかのように力なく地面に垂れ下がっていた。


「俺を教師様だと思って懇願してるのかもしれんが……まぁ確かに、これから担任にはなるんだけどよ。でも、そんなことはどうでもいいんだよなぁ」


アルヴェは掌をデーモンに向けて突き出した。

その瞬間、空間そのものが歪み始め、重力が狂ったかのような異様な感覚が辺りを包み込む。


(や、やべぇ……こいつの目……!)


デーモンの不良は、本能的な恐怖に全身を震わせていた。

あの血のように赤い瞳には、躊躇も迷いもない。ただ純粋な殺意だけが宿っている。

今まで何百もの命を奪ってきた殺人鬼の目。そんな狂気の瞳が、今まさに彼を捉えていた。


「今、この場で重要なのはよぉ……」


アルヴェの掌から、不吉な魔力が溢れ出し始める。


「この俺様が……仲間を見捨てて、一人だけ生き延びようとするクソみてぇなゴミクズが……大っ嫌いってことだぁ!!」


アルヴェの掌から解き放たれた魔力が、デーモンの不良を直撃する。


「うぎゃぁぁぁっ!?」


彼の体が弾丸のように吹き飛ばされ、廊下を突っ切っていく。

壁に当たっては跳ね返り、天井で弾かれては加速していく。

そして──。

先程の二人の横に、見事な『着地』を決めた。


「あっ……がはっ……」


遥か遠くの壁には、まるでモダンアートのように三体の人型が並んでいる。

オーク、エルフ、そしてデーモン。

種族の垣根を超えて、実に仲睦まじく並んだその光景に、アルヴェは満足げな笑みを浮かべるのだった。


「やっぱり三つ並ぶと、絶妙なバランスだよなぁ。もしかして俺ってば、芸術家の才能あるかもしれねぇ……」


アルヴェは自分の『作品』を眺めながら、実に晴れやかな表情で呟く。

明らかに正気の沙汰とは思えない発言を、天気の話でもするかのような気楽さで。

そんな狂った男を、至近距離で見ていた者が一人。


「……」


──人間の不良、バルドである。

先ほどまで異種族の不良に道を譲るという情けない真似をしていた彼は、今や全身から冷や汗を滴らせながら、この惨劇の一部始終を目撃していた。


『ヤバい』


バルドの脳裏には、その一言しか浮かばなかった。

不良だとか、強いだとか、そんな生易しいレベルの話じゃない。

この男は只々、『ヤバい』のだ。


「あ~あ。不良なら最後まで強がってほしいもんだよな~。なんつーか、情けねぇよなぁ~。かっー、最近の若い奴はこれだから……」


アルヴェは遠くの壁に飾られた三連アートを眺めながら、のんびりと独り言を呟く。

幸いなことに──いや、不幸中の幸いというべきか。この狂った男はまだバルドの存在に気付いていないようだった。


(よ……よし、そーっと……そーっと……)


バルドはできる限り物音を立てないように、その場から立ち去ろうとする。


だが──。


「──なぁ、テメェもそう思わねぇか?2-Aのバルドくんよぉ……?」


凍りつくような声が、廊下に響き渡った。


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