もちろん、もう手遅れなのは解かっている。僕の身代りになったその
なおもぐちゃぐちゃにされ、内臓をえぐり食べられている。
そして、辺り一面には既に大きな血の海が出来あがっていた。
「イ、イヴ!!」
彼女の身体がサーベルタイガーに食べ続けられる時間に比例して、元の身体は原形をますます保てなくなっていた。
イヴの身体はどんどん人間のそれでは無くなっていく。
僕がイヴと呼んでいた生命という
僕は、昔インターネットでたまたま観た
チベットの鳥葬の儀式を思い出し、
それと重ね合わせた。
人間は普通に生活していたら動物に食べられるなんてまずあり得ない。
僕は今まで、それが常識なんだと勝手に解釈していた。
しかし、たった今僕はその考えを改めた。
人間だって動物のエサになりうる自然界の一部なんだ……と。
「離せ~!」
帰る事を拒み続けていた僕は、
仲間達の手で無理やり、住居地まで連れて帰られた。
まもなく厳しい冬になろうかという時期ということもあり、
新しい定住場所には狩の動物が全く居なかった。
もうあの時から数日は経っただろうか。
肉を我慢していた僕達は、
久しぶりに肉にありつけた。
しかし、食べられる肉は、骨に僅かに残る部分だけだった。
僕はそれでも、肉を食べれることが嬉しかった。
でも、まわりの仲間が肉を食べる姿はみな、
元気が無いように感じ僕はそれが不思議でひっかかっていた。
僕は肉を食べながら、その肉をかすめ取った後の骨付肉の骨の形を無意識に見る。
すると、その骨が人の指の骨に似ている様な気がした。
僕には大きな不安がよぎり、
ボスの寝場所に事情を訊ねに走った。
ボスは不在だったが、僕はその場所である骨をみつけた。
そこには、鋭い牙の後が付いた頭蓋骨が置かれていた。
僕はすぐにひっかかっていた3つの意味が全て理解できた。
動物が一匹も狩れないのに肉が食べられた意味が。
肉を食べる仲間達が誰一人嬉しそうじゃなかった意味が。
鋭い牙の後が残った頭蓋骨が、ボスの寝場所に
イヴは、僕たちの心を揺さぶり、僕や仲間たちの価値観を変えた。
なのに、僕は彼女に何をしてあげられたのだろうか。
僕は彼女と交わした生前の約束を叶えてやることができなかった。
彼女の命を、彼女の尊さを、僕は大切にしてあげられなかった。
悔しさと自責の念に打ちひしがれ、僕は夜空を見上げた。
イヴの澄んだ瞳が、まるで星のように輝いて見えた気がした。
※次話には一部センシティブな表現が含まれています。観覧の際はあらかじめ充分ご注意いただきますようお願い致します。