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第72話 『一隅を照らす』 私たちは偉大なことはできません。偉大な愛で小さなことをするだけです。②

そして、激動の月日は流れ何年か経ち、

僕が生肉でも食べられるようになっていた頃。

ある日、一人仲間が死んだ。

狩の時、牙獣に谷底に振り落とされたのだ。


そいつは僕と彼女とそいつ、

一緒によく行動していた三人の内の一人だった。

僕はそいつとはよく揉めて喧嘩もしたが、

いざ、いなくなると本当に寂しくなった。


ここにはお墓なんて存在しない。

僕と彼女は、ボスから頼まれ、底の深い洞窟にそいつの亡骸を捨てに行った。

そしてその時、つくづく痛感していた。


僕と彼女には亡骸捨て係みたいな役割が与えられている。

実を言うと、僕は食後の動物の骨や死人の骨を捨てに行く作業を何度もする中で泣きたくなることが多い。

僕達が一番多く運んでいるのは、実は動物の亡骸では無くて、

幼い子供やそのお母さんの亡骸だったのだから。

この時代の出生率の低さは異常で、

無事に産まれた奇跡の子供に対しては、みんなで多いなる炎の神様に感謝するしきたりが出来る程だ。

そして、あいつが死んだように、無事に生まれてからの寿命もとても短い。

事故やら病気やら、僕達の毎日は常に死と隣り合わせなんだから……。






「あれがいい!」

僕は、彼女に肉のお礼がしたいとずっと考えていて、

やっといいアイデアが浮かんだところだった。


「お~い、イヴ~!」

勘違いされないように説明しておくけど、

イヴって言うのは僕がアダムとイヴのイヴにちなんで勝手に彼女の事をそう呼んでいるだけなんだ。

僕は、広大なサバンナが大部分を占める定住地区に

僅にある本当に小さなジャングルにイヴを呼んできた。


イヴは僕の誘いに嫌な顔をせずに、ついてきてくれたんだ。


「あれ?イヴの背中に乗ってるのって子猫だよね?

イヴのペット?」

僕は身振り手振りでイヴと子猫を指差しながら訊いてみた。


「うふふ」

イヴは微笑みながら微かに顔を上下にふってくれた。

そうみたいだった。

イヴは、現代人が肯定の時に顔を縦に、否定の時に顔を左右にふるコミュニケーションを、僕の癖の真似という形で学習してくれたらしい。


「可愛いじゃん!」

子猫を大袈裟な表情でほめる僕。


するとイヴが、自分自身とペットの子猫を指差しながら

『どっち?』って僕に身振り手振りで尋ねてきた。


「こっち」

僕はイヴをからかうつもりでペットの子猫のほうを指先た。


すると

『ウ~!』

イヴの悔しそうなリアクションw


僕は、そんなイヴの表情をみて、

笑いが止まらなかった。


そして、途中からはイヴまで一緒に笑いだした。


その後、僕はイヴにじゃんけんを教えた。



「どうして~?、僕の負けか~」

いつの間にかイヴよりも僕のほうかじゃんけんにのめり込んでいた。


「ウー!ウー!」

彼女は満面の笑みで、とても満足そうだ。

彼女のじゃんけんが恐ろしく強かったからそうなるのも無理はない。


「じゃあさ、次はあっち向いてホイを教えるね」


「ウー!ウー!」

イヴの目は輝いていて、まるで憧れの芸能人のサインを貰うファンのようだった。



「痛っ! 違う!」


「わかったわかった。だからちょっと~止め~!」


「アハハ!ハハハ!」

イヴは、そんな僕の表情をみてめちゃくちゃ喜んでいた。

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