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プロローグ 『一隅を照らす』 私たちは偉大なことはできません。偉大な愛で小さなことをするだけです。①

 僕がここに来てからもう二週間は経っていると思う。

言葉はまだ理解できなかったが、

身振り手振りだけで大体のコミュニケーションは取れるようになってきていた。


僕は慣れとともに、実はこの太古の生活の中に違和感を感じることがある。


僕がネットや本で知っているここの世界は、

人々の容姿から地球であれば約150万年くらい前だと予想できた。

でも、決定的に違うところがある。

それが何なのか?

僕はそれを上手く説明が出来ないが、

時代的にまだ早い何かを、外界からの何者かとの交流がもたらしているように思う……。



『ドサッ』


「え?

今そこに誰かいるの?」


「……」

返事は無い。

しかし次の瞬間、それは僕の前に姿を表した。


全身真っ白い肌に綺麗な長い髪の女の子だった。

この時代の他の女性と同じように胸と下半身は植物の葉で隠していて他は裸だった。

しかし、体全体の皮膚が真っ白な為に、赤い瞳と緑色の葉だけがくっきりと強調され、不自然に感じてしまう。


彼女の体格は類人猿としては異例で、

現代人と見間違っても不思議ではない程にスタイルが良く超がつく程の美少女だった。


しかし、僕のその時の正直な気持ちを言えば、

彼女は幽霊を連想させるような真っ白な肌に、

赤黒く不気味に光る悪魔の様な瞳を持ち、

その姿を本能的に 怖い と思ってしまった。


その女の子は、うつ伏せに倒れ込んだ僕の目のすぐ前に持ってきたそれを置くと、

その場に座り込んだ。


僕の鼻からはいい臭いが入ってきた。

これは、火を通された動物の肉だ!


「これを……僕に?」

僕は驚きのあまり、言葉は通じないはずなのに、つい彼女に言葉で訊ねてしまった。


彼女は僕に、にこにこした笑顔で微笑んで返してくれた。

僕は、嬉しくて嬉しくて涙が止まらなかった。

彼女の優しさが本当に有難かった。

その肉は既に腐っていたけど、僕は彼女に感謝せずにはいられなかった。

彼女は火を使ってボスに叱られるという危険を犯してまで僕の為を思って施してくれたんだ。


僕はその肉を食べ終わり、彼女がその場を立ち去った後も

ありがとう。ありがとう……と、心の中で泣き続けていた。



ここに来てからずっと孤独に感じていた僕にとって、

彼女は特別な存在になった。

僕は彼女の笑顔がみられれば、こんな過酷な世界でも

しっかり生き延びてみせるとかたく誓った。


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