あれは、江崎高校に入学して半年後の事……、
とある場所で、俺は初めて彼女に出会った。
◆◆◆
「あれ……誰か、いる?」
そう声が聞こえたので俺、高遠流人はふり返るとそこには夜闇に包まれた一人の少女が立っていた。
「……………。」
俺は立ち上がり、何も言わずに去る事にする。
別にここは自分だけの場所ではないし、誰かが来てまで居座る理由もないから。
そう思って帰路に着こうとしたのだが……
「ま、待って!!」
見た目より少し幼い声に止められ、訝しげにそちらを見る。
少女は怯えたようにビクリ、と肩を震わせた。
「あ、あの…ごめんなさい。止めてしまったのは申し訳ないと思ってるんですけど、そんなに睨まないで欲しいと言いますか……。」
「はあ……………、」
そう言われて溜息を吐く。
普段ならば別に気にすることはないが、目つきが悪いせいでほぼ確定で睨んでると思われるのもこういう時に限って言えば考えものだ。
「別に、睨んでない。目つきが悪くてよく言われるんだ。あと、先に言うけどそれで謝るのも無しだ。もう慣れてるし。」
「え、あ……はい。じゃあ、どうしてこんなとこに?」
「それは俺も言える事だけどな。女の子がこんな時間に来る場所じゃないだろ?」
人の事を言えた義理か、とそういう目線で見ると図星だったのか「そうだよね……。」と困ったように笑っている。
「……昔、子供の頃に来ていて、今でもたまにここの景色を見に来る、それだけだ。」
「そうなんだね……。ねえ、もし良かったら少しだけ一緒に見ない?」
「何で俺が………」
「………駄目?」
溜息を吐く。普段なら無視して断るのもアリだろうが、ここに来た後の気持ちでそれをやるのは嫌だった。
「分かった。」
「そう、良かった!」
渋々了承する俺に少女が笑い、彼女は先程俺が座っていた場所に腰を下ろした。
「私もね、たまにここに来るんだよ。」
「見たことはないな。そんな頻繁に来るわけじゃないし。」
実際、今日も何となく来ただけだ。
それも半年ぶりくらいに。
「まあ、たまたまタイミングが合っただけだろ?早々被らないだろうから安心してくれ。」
特に笑うでもなく、淡々と告げる。
ここだけの付き合いなんだ。わざわざ愛想を振りまく理由も無い。
「君は……あんまり人と関わりたくないタイプ?」
「そうだな。それに………そういうアンタも、俺の事を『君』呼びなんだ。お互い様だろ?」
「………そうだね。でもね、不思議なんだけど……」
今まで景色を見ていた少女が、こちらを向いた。
その顔は、どこか親愛を感じる様な笑顔を浮かべている。
「私達はもしかしたら、似た者同士なのかもしれないね?」
「…………そうかもな。」
その言葉を否定することはせず、俺達は互いに自己紹介する事なく別れた。