GW……奏が恋人――恋人(仮)らしい――を連れてきた、その日の夜……
僕らの意思など関係あるかといいたげに、昔の記録…、アルバムを六条さん達は楽しげに眺めていた。
奏も純も逃げようとするけれど、見られている僕だって恥ずかしいので、可哀想だけど捕まえてその場に留めていた。
そんな時、御陵さんがふと口を開いた。
「これは中学校くらいの奏?なんか、おじい様を泣かせてるみたいだけど。」
女性陣達はそれを見て、少しだけ面白い物を見たとばかりに肩を揺らし、奏は恥ずかしいのか、ふん、とそっぽを向く。
「それはねぇ。僕が高校入って最初の夏休みの時だね。だから、奏は中学3年生か。爺さんが奏にお見合いしてみないかって言ってた時の写真だよ。」
「兄さん!」
奏が叫ぶが、僕はまあまあ、と手を出して宥める。
膝に柊さんを乗せてる父さん達も当時のことを思い出したらしく、おかしそうに笑ってる。
実際、アレは面白かった。
「聞きたいかい?」
そう聞くと、興味があるらしく皆でうん、と頷くので、その時の事を語ることをした。
「田舎の爺さんの家に遊びに行ってた時なんだよ。爺さん相手だと、奏は皆が見てる時よりも緩々でねぇ。ちょっとだけ悪ガキになる。」
「………言わなくていいよ、そういうのは。」
奏が不満げに睨んでくるのを笑いながら、当時の事を思い出す。
楽しげにイタズラばかりする弟の事を……、
◆◆◆
「王手。」
爺さんの家の縁側………、奏は爺さんと2人で将棋を指しており、本日何度目かの王手をかけた。
それを見て、爺さんは引き攣った笑みを奏に向ける。
「な、なあ、奏?ちょっと待ってくれないか?」
「そう言うけどな、爺ちゃん。かれこれ12回くらいは待ったぞ。」
「あと一回、ホントにあと一回だ!それさえあれば何とかなる!!」
「しょうがないな……」とジト目で奏が爺さん……
まあ、惨敗だったんだけどね、結局。
「よーし!コレで爺ちゃんの秘蔵の饅頭一箱手に入れたぞぉ!!」
「お、俺が……楽しみに取ってた高級饅頭が……。」
泣き崩れる爺さん放っといて、奏は箱を掲げてスキップしてたな……。
◆◆◆
「それがこの写真だね。」
そう言って、僕は泣き崩れる爺さんの真横に立って、満面の笑みを浮かべる奏の写真を指さした。
奏は顔を真っ赤にして、またそっぽを向いちゃったけどね。
「……ね、ねえ、奏?」
「……やらないからな。」
「……どうしても?」
「絶対にやらない。」
よほど見たかったのか、御陵さんは残念そうに肩を落とした。
「まあ、掻っ払ったとは言え、独り占めしないで皆に分けてたし、爺さんには多めに割り振ってたんだよね、奏は。それで、さっきの写真はその後の出来事でね……。」
◆◆◆
えらく真面目な顔をした爺さんと、何か面倒くさい事になりそうだな……、という雰囲気を隠さずに表に出しまくってる奏は縁側に並んで腰掛けていた。
「なあ、奏。お前…好きな子とかいないのか?」
「いない。」
考える事もせずノータイムで爺さんの希望を叩き切った姿を見て、僕達は和室で笑いを堪えた。婆さんも面白かったのだろう。
くすくすと笑っている。
しかし、爺さんは諦めてないらしい。口の端をひくつかせながらも尚、攻めるようだ。
「でも、なんかいるだろ?こういう子がいいとか。」
「じゃあ、俺より強い女の子だな。」
「そんなもん、探す方が難しいわ!!」
僕はまだ我慢できてたけど、限界だったらしい。父さんと純が吹き出して笑っていて、母さんと婆さんは何とか堪えていた。
「んー……、別に強いって、ただ力とか限定じゃないぞ。何でもいいから俺より強かったり、俺が逃げられないくらいに捕まえられる女の子とかなら、考えてもいい。」
「そ、そうか……、それならまだ何とか…。」
返答を聞いて気付いた。
僕は諸事情から見合いを蹴り続けてるので、奏ならどうにか出来ないか、と爺さんは考えてるのだろう。
そして、そんな奏も気付いてるからそんな答えを出したらしい。
ただ、惚ける気満々らしく、一瞬だけイタズラを思いついた悪ガキの様な顔をしていたのは見逃さなかったけど。
気付いたら、父さん達も落ち着いたのか、しかし面白い事になりそうなので全員何も言わずに面白そうに状況を見守っていた。
「なあ、奏。中学生だから知ってると思うんだが……」
「………うん?」
「お見合いって知ってるか?」
「……………。」
少し考えるフリをした奏が、一瞬こちらを見て、にやりと笑った。
アレは何かロクな事を言わない顔だ、と分かり、僕も含めてみんな身構えたよ。
「知ってるぞ、爺ちゃん!!」
元気よく無邪気に奏が答えた。
何かを察したらしい父さんが声を殺して笑い出した。
「おう、どんなのか知ってるか、奏!!」
「ああ!」
元気いっぱいに返事して、一言。
「お互い望まない、好きでもない相手と顔を見合わせて、面白くもない話をしたあと、己の運命を呪いながらそんな相手と添い遂げなければならない悪魔の儀式だな!!」
全員限界だった。
明らかにわざと無邪気に、元気いっぱいで爺さんの希望をまたしても打ち砕くのだから、父さんや純だけでなく、僕も母さんも、婆さんまでも大笑いしていた。
「待て!このクソガキが!!!」
「あはははなははははははは!!!」
こちらもこちらで我慢の限界だったのだろう。
楽しそうに笑う奏を全力で、爺さんは体力が尽きるまで追いかけ回した。
◆◆◆
「あの時の奏……、本当に楽しそうに逃げ回るから、面白くて止められなかったのよね……。」
「く、く…そうだな。奏は言うに事欠いてあんな事言うし、親父の反応も面白くて笑うしかなったんだよな……!」
「お祖父ちゃんの家に行くと、いつも悪戯してるからね……!」
父さん達もやはり当時の事を思い出すと、今でもおかしいらしい。
奏は完全にそっぽを向いてしまったし、普段の奏とのギャップがあるせいだろう。ゆーちゃん達も笑っていた。
写真には、奏に負けて悔しそうに泣く爺さんの肩に腕を回して楽しそうにピースする奏が写っていた。
僕もそれを懐かしいなと眺めて、思い出したことを口にする。
「けれど、アレだね。あの時、奏が言ってた事は、想像の何倍も膨れ上がって現実になったね。」
「………何がだよ。」
機嫌が悪そうにこちらをジト目で見てくる弟に苦笑しながら、続きを口にする。
「いや…、自分より何でもいいから強くて、逃げられないくらい捕まえてくる女の子ってのは、本当にそうなったよね、って。」
意地悪く僕が笑いながら言うと、今度こそ奏は身体ごとあっちを向いてしまい、それが面白くて、みんなで笑ってしまうのだった。