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第6話「駆け抜ける明日葉・3」


あれから30分後…………。


張間達は約100人ばかりの生徒を巻き込みながら無事(?)、爆弾を背負っている明日葉から逃げおおせた。

そして、明日葉が爆弾もどきを背負っている事は校舎中に知れ渡り、生徒と教師達の動きは2つに分かれた。


1つはあんな物を作るのはゆーちゃんくらいだろうし、本物ではないだろうと察して、結末がどうなるかを楽しみに敢えて素知らぬ振りして避難する者達。


2つ目は、爆弾を作った犯人は見当がついているものの、退屈だからとわざと騒動に巻き込まれる者達。


…………うん。生徒だけならともかく、教師まで混ざってこの対応なのだから本当におかしな学校だと思う。


だが、何事にも例外はある。


これだけの騒動があっても気付かないままの人間が3人いた。

俺の友人であり目つきの悪い怪力男、流人と、美少女姉妹で有名な雨宮姉妹である。

3人は仲良く並んで昇降口へと向かっていた。


周囲の人間は何故、顔面凶器だの痩せゴリラだの言われる流人と、あの雨宮姉妹が仲良く一緒にいるのか不思議がっているが、流人が心を許している辺り、たぶんだがあの2人も似た者同士なのだろう。

外野が軽々しく首を突っ込んではいけないし、俺としてもそのつもりはない。


……さて、話を戻すが、そんな3人のもとに最早ミサイルと化した明日葉が突っ込んでいく。

雨宮妹………、お団子ツインテールの里桜を中心に仲良く手を繋いで帰る途中の3人はキョトンとした顔で明日葉ミサイルを見た。


「………どうした、木吉?」


明日葉の背後から聞こえるタイマーの音に片眉を上げながら流人は不思議そうに問いかけ、明日葉は背中を見せた。


「流人、爆弾!!」


うん、それじゃあ伝わらないぞ、明日葉。

流人を見てみろ。

緊迫した表情で雨宮姉……、小鈴と里桜を庇うように前に出たじゃないか。


「ちょ、馬鹿かお前!いくら成績悪いからって学校ぶっ飛ばそうなんてやつがあるか!!?」

「ひ?!お姉ちゃん、明日葉先輩が爆弾テロに!?」

「落ち着いて、里桜ちゃん!明日葉ちゃんはいつもみた…………、ちょっと血迷ってるだけだよ!」

「ねえ、テロじゃないよ?あと小鈴、今明らかに『いつもみたいに』とか言おうとしたよね?!」


背中の爆弾を見せながら涙目で近付く明日葉からジリジリと後ずさりながら距離を取り………、小鈴が声を張り上げた。


「りゅーくん、今だよ!こっち!!」

「ああ!里桜、わりぃ!!」

「え、ちょっと流人?!!」


小鈴が先導して走り、あまり足が速くない里桜を流人がお姫様抱っこしてそれに付いていく。

あの状態で小鈴と同じ速度で走れるんだから、やっぱりゴリラだな。

やば、流人達には悪いけど大分面白いことになってきたぞ。

俺達は物陰に隠れながら走り去っていく4人を眺める。


「待って!逃げないで一緒に吹き飛ぼう?!大丈夫、流人痩せゴリラだから!!」

「ざけんな!そんなもん………、でやれ!!」


あまりにも失礼な事を言われた流人がそう返しながら、小鈴が走りながら開けた扉を視線で指し示す。

流人が指し示した場所………、そこは校長室だった。

スピードアップして猛ダッシュで逃げていく流人達から、明日葉は校長室の中の人物………、この学校の校長であり、明日葉に匹敵するポンコツ2大巨頭の片割れ、四ノ宮司へとターゲットを変えた。

校長室へと消えた明日葉を見て、俺達は結末を見届けるべく後を追う。

爆弾の設定した時間まで、あと一分だ。


「ちょっと、何!?」と情けない悲鳴が部屋の中から響き渡る。

俺達は入り口から中の様子を見る。

明日葉は校長に背を向け、叫んだ。

爆弾のタイマーまで、あと数秒だ。


「校長、爆弾取って!」

「私は爆弾解体なんてした事ないよ!?」

「じゃあ、代わりに吹っ飛んで!!」

「嫌だ!まだ死にたくないよ!!?」


ようやく爆弾を取ってくれとまともなお願いをしたかと思えば、代わりに爆発しろなどと果てしなくふざけた事を明日葉がお願いした時だった。


爆弾もどきのタイマーが「カチッ!」と校長室に大きく鳴り響き、爆弾からバネ仕掛けのナマケモノがびよよ~んと飛び出した。


「…………は?」


この世の終わりの様な顔をした明日葉と校長の目が同時に点になり、俺達は校長室の中に入る。

美羽が何かを言おうとする前に……、純が楽しげに口を開いた。


「ドッキリ大成功ー!!」


純は後ろで纏めた尻尾のような長い髪を軽く弾ませながら笑い、それを見た明日葉と校長がぽかんとした顔で純を見つめた。

そして、そんな2人を笑うように、バネ仕掛けのナマケモノは上下に揺れていたのだった。

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