いつか見た記憶をもう一度……
幼い頃からの付き合いの彼女は
いつもの様に厄介事を持ち込んで
最初のページは勿論君で
それがいつも俺を悩ませる
◆◆◆
友人、
場所は江崎高校部室棟、一階演劇部。
俺、
幼馴染である
くどい様だが、ここは尋問部屋ではない。れっきとした演劇部の部室である。
どうして俺達は最近、演劇部らしい事が出来ないのだろう。
見ると部員である、
「それで、今度は何をしたんだ明日葉。聞くだけ聞いてやるから言ってみろ。」
「あー、えっとぉ………。脚本のネタ考えるのに裏山行ってぇ……。」
「はぁ。」
まあ、別に理由としては全然有りだ。ここまでは何も無かったのだろう。
しかし、そこは非常識の塊というべき木吉明日葉。その程度では終わってくれない。
はねっ毛が特徴的なミディアムヘアーの少女は視線を逸らしながらどう説明するか悩みながらとんでもない事を口にした。
「てくてく適当に歩いてたら、目の前に尻尾が9本生えた白い子狐が出てきて……」
「………ほぉ。」
一瞬、気が遠のきかけた。
美羽も純も、目が点になってるし。
駄目だ、我が幼馴染なら大体この辺りでとんちきな事を抜かしてくる。
「なんかお金くれたから部室に持ってきたら全部ピーマンにカワッタノ………。」
「…………。」
そう言いながら明日葉が目を向けた部室の机の上には山のように積まれたピーマンがある。
教えてくれ。流人でも圭一でも、この際、今はいない奏でもいい。どうすればこいつはこんなとんちきイベントを拾ってこない人間になるんだ。
しかも、9本ってなんだ9本って。完全に普通の狐じゃないし、神様か何かの類だろうが。
「無理に決まってるじゃねえか。」
「無理だね。」
「無理だろ。」
流人のどうでも良さそうな、圭一の諦めたような、奏の何故そんな事を聞く?と言わんがばかりの3つの台詞が脳内で余裕で再生される。
自分も同じ意見なので、そうだよな…と大きく溜息を吐く。
「取り敢えず……毎回思うが、お前が校長と同じ生き物なのは分かった。誇るといい。」
「毎回思うけど、アレと一緒にしないでよ!?」
「明日葉、それは私も思う。」
「ボクも。」
「美羽ちゃんに純くんまでも?!」
話を聞いていた美羽達が顔を見合わせてケタケタ笑う。
いいぞいいぞ、もっと言ってやれ。
俺は追い討ちを掛けるように、暗い笑みを浮かべる。
「失敬、いくらあのオッサンでも、こんなとんちきイベント拾ってこないから、俺の大事な明日葉の方が上だったよー。今度、校長にちゃーんと謝りに行かないとー。」
「ちょっと待って!アタシあの校長以下に認定されなかった!?あと、絶対にその喋り方からして大事だとか思ってないよね!?」
明日葉が心外だと言わんばかりにぎゃーぎゃー喚いてるが、これは事実だから仕方ない。
文句があるならもう少し落ち着きを持て、落ち着きを。
俺は暗い笑みからスンっ、とした表情に変えて話を続ける。
「いや当たり前だろ。毎度しょうもない事やらかすところまでは一緒だし、毎回怒られるのも一緒だが、あのオッサンとお前の違いは、こんなとんちきイベントは持ってこない。なんだ。何で明日葉はそんな正体不明のお山の主様みたいなのから騙されてそんなものもらってきた。そもそも、知らない人から物を貰っちゃいけませんなんて、幼稚園から習うレベルだろうが。」
「そんな昔のこと忘れました!!」
「…………俺から言えることは、一つだけだ。」
必死に明日葉は叫んだ。
美羽と純はそれを聞いて爆笑しているが、説教に回る身としては、2人のポジションが羨ましくて仕方ない。
怒りを引っ込めて、俺は爽やかな笑顔を浮かべて一言。
「全部食え。調理くらいはしてやるから。」
「ピーマンは好きになっちゃいけないんだよ!!」
「あ?」
「ひぃ!?」
その言葉を聞いて、俺は遂にキレた。
なんだ、ピーマンを好きになってはいけないって。それは単にお前が食いたくないだけだろう。
毎回、お前がピーマンを食わないと愚痴をこぼす優里さんの愚痴に付き合う俺の気持ちを考えた事があるのか。
「お前がしょうもない理由でお狐様からそんな畏れ多い物を勝手に貰ってきたんだろうが!!それが嫌なら、金やるから今すぐ商店街行って油揚げ買ってきてお供えして感謝と謝罪の両方してこい!バカ明日葉が!!!」
「ごめんなさい!行ってきますパパ!!」
「誰がパパだ誰が!さっさと行け!!」
1時間後、無事お供えの油揚げ46枚の献上と大量のピーマンの返品、感謝と謝罪の両方をしてきて額に肉球スタンプを押してもらって帰ってきた満面の笑顔の明日葉を、今度はたまたま持ち合わせが無く、仕方ないと渡した5000円丸々油揚げに変換した事で、美羽と純がひたすら笑い倒す中で更なる説教を始めるのは、また別の話である。