ギルドの事後処理が終わったのは、もう日が落ちたあとだった。悪魔の憑依が解けたファーレンは教会で治療を受けることになり、俺たちは事情聴取に応じなければならなかった。
初めは面倒なことになったと思ったが、アルクスの記憶をたどって受け答えはできたし、何よりシャルパンの権威と信頼のお陰でどうにか乗り切れた。古竜様々だな。
「助かったよ、シャルパン」
夜の畦道を歩きながら、俺はシャルパンに感謝する。生前も今も、こいつには助けられてばかりだ。
「どうも。ただ、私が助けたのはアルクスなどではなく、ユークどのですから」
「分かっているよ」
ドラゴンは誇り高いので、自分より格上と認めた相手にしか心を許さない。生前の俺は力を示し実力を認めさせたわけだが、アルクスはそうではない。仕方のないことだ。
「だが、結局あの悪魔の詳しい正体については分からずじまいだな」
「ベリアル」
シャルパンは唐突に呟いた。その表情は真剣そのものだ。
「悪魔の名前か?」
「はい。教会成立以前のことを知る悪魔など、ベリアル以外に考えられません。ましてや、ドラゴンが種族として神に反逆していたのは2000年前の話。そんな時代を知るのはあの者だけです」
聖使徒ルーライが教会を建てたのが1000年前。そんな昔のことを知るとなると、もはや特定できてしまうというわけか。
「竜の里に行きましょう。あそこになら、古い文献も残っているはずです。何より、修行の場として最適かと」
それはありがたい提案だ。
「助かる。是非そうしたい」
「じゃあ! 今度こそ振り落とされないでくださいよ?」
「え? まさかお前に乗っていくのか? この身体じゃまだ……」
アルクスの貧弱かつ疲労した身体では、無理というものだ。
「【四聖憲最強】がこのくらいのことでビビらないでください? 行きますよ!」
「待ってくれ、眠ってから! せめて回復してからにしてくれないか?」
俺はそんな泣き言を言いつつも、ドラゴン化したシャルパンに必死にしがみつき、山脈の向こうの里を目指した。