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第17話 理解

夜の急な戦闘が終わり、リッカは亀のようなスピードで寮への帰り道を歩いていた。


その間、彼女の脳内をダイアとエメの言葉がぐるぐる回っていた。



「私は、偽善者にしか、なれないなのかな。」



リッカはダイアたちの顔を分からない。

だが、どのような表情でリッカに対して訴えていたのかは想像できる。



それがより一層彼女を苦しめていた。




気が付けば、夜が明けてきていた。


太陽が顔を出し、寮に帰るリッカを迎え入れていたが、今の彼女には鬱陶しく眩しいただの光でしかなかった。



辛い現実を受け止めつつ、家の扉を開けるとそこには帰って来たばかりであろうアイラの姿が。


アイラはリッカに振り向き、



「お帰り!リッカ!いきなり災難だったね、夜の襲撃があるなんて。」

「アイラもお帰り、うん、初めてだったから驚いちゃった。」


リッカの頬は引きつり、目は笑っていない作り笑いでアイラと会話する。


ただ、長く一緒に過ごしているアイラにはリッカの違和感を感じ取れた。


「どうしたの?何かあった?」

「え?何もないよ、夜中だったから少し疲れちゃって。」

「そう、ならいいけど。じゃあ、2人共少し休もうか、夜働いたから今日はお休みにして平気だし!」

「うん、そうしよう。眠くなっちゃったから、先に寝るね。お休み。」

「……うん、お休み。」


リッカは崩れ落ちそうな足取りでベッドに向かう。


その姿を見て、アイラも心配しないわけがなかった。


(リッカ、さっきの戦いの事で何か隠してるよね。でも、今は話したくないんだよね、あたしは待ってるから、いつでも頼って。1人で我慢しすぎるのも、あなたの注意するべきところなんだから。)



アイラはリッカの姿を見送り、眠りについた。


リッカも制服のままベッドに横になり、目を閉じる。



(理解したいのに、ネームレスの力になりたいのに、私にできることが少なすぎる。なんで、私はこんなにも無力なの、悔しい。)



その日の枕は、多くの涙で濡れていた。





場所は変わり、ネームレスの家。


「くそっ!」


ダイアの怒りが爆発しており、ドラム缶を激しく蹴り飛ばす。


「ダイア君落ち着いて!何をそんなに怒る必要があるの?」

「逆に、なんでミレイはそんなに冷静なんだよ!あいつは、シキカンは俺らを人として扱っていない、ただの駒としか見ていない!だからこれまで、何人もの仲間が死んでったんだろ!」

「だからって、見送り人アンダーテイカーも同じとは限らないよ!少なからず、あたし達の命を守ろうとしてくれてる。」

「それが偽善だって言ってるんだ。どうせあいつも、早く偉くなって楽な暮らしをするために繕っているだけだ!そんな奴の指揮を、受け入れるなんてミレイ達がどうかしてる!」

「ダイア君は本当に、そう思っているの?」



ミレイの目は、ダイアを見て離さない。



ダイアは、ミレイの初めて見るような真剣かつ迫力ある姿に惹き込まれる。


「どういうことだよ。」

「知ってると思うけど、1

「だからなんだって言うんだよ!俺たちは、この国の地獄で誰よりも苦しんで生きてるーー。」

「その1番難しい仕事を、見送り人アンダーテイカーは手伝ってくれているの。今まで夜の襲撃に指揮官は出てこなかった、けど見送り人アンダーテイカーは当たり前のように出動してくれた。そんな人を、あたしは責められないよ。」

「だけど、今までのやつらは!」

「過去じゃない、1番大切なのは今なんだよ。あたし達は、今を生きるために戦っているんだから。今の見送り人アンダーテイカーを、もう少し信頼してみてもいいんじゃないかな。」


ミレイは自分の手で、震えるダイアの手を覆う。


「な、なにを!?」


驚きと同時に、ダイアの顔が赤くなる。


「あたしは、生きるために戦う人を信じたい、だからダイア君も見送り人アンダーテイカーを信じる私に賭けてくれないかな?」

「……考えておく。」


ダイアはそっと手を放し、その場を離れた。



(ダイア君、信じてるからね。)


ダイアの背中を、ミレイはずっと見つめていた。




別場所では、シュウとエメが会っていた。


「何、シュウちゃんがうちのところにわざわざ来るなんて、お説教?」

「いいや、そんなこと言うつもりはない。1つだけ、気になることがある。」

「うちに質問なんて珍しいね。何?」

「エメは、見送り人アンダーテイカーが嫌いか?」


エメの眉間に途端にしわが寄る。


「もちろん嫌いだよ、シキカンなんて好きになれるわけがない!あいつらは、うちらの事なんて何も考えてない!」

「どうして、そう思えるんだ?」

「どうして?シュウちゃんが一番わかるでしょ!うちらの中で、誰よりも多くの死を見てきてる、その死を忘れないためにドッグタグを持ってるんでしょ!なら、シキカンを恨まない方がおかしいよ!」

「俺は過去のことを聞いているんじゃない、見送り人アンダーテイカーのことを聞いているんだ。過去の指揮官は関係ない。」

「なんで?何でそんなに割り切れるの!シュウちゃんにとって、死んでいった仲間たちは大切じゃなかったの!」


エメの言葉が熱を帯び、シュウに突き刺さる。



だが、シュウの顔色は何一つ変わらなかった。


「エメ、俺たちは先に逝ったみんなの屍の上で生きている。そして、あいつらに顔向けするには、殺されてでも生き抜くことだと俺は思う。だから、今という瞬間を、今から先の未来を見て生きないといけないんだ。好き嫌いで、判断を誤ってはいけない、それだけだ。」


シュウはエメの前から遠ざかっていく。



「……くっ、うちはそんなに大人になれないよ、まだ生きてるんだよ、うちの心の中では、先に死んでしまった仲間が。……いや、それを1番背負っているのは、シュウちゃんなんだよね。辛いよ、この国で生きるの、うちは。」


ネームレスも、各々思うところがある姿が見えた。


そして次の日、シュウのビットが鳴り響いた。

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