リッカがネームレスの指揮官に着任してから、約1か月が経過しようとしていた。
その間に発生した戦いは、7回。
1週間に1度を超える間隔で戦場に駆り出されている。
ただ、リッカはすでに偉業と呼ばれるほどのことを成し遂げていた。
ネームレスの指揮官に就任してから、誰1人欠けずに1か月を迎えようとしているのだ。
過去の幾人もの指揮官は、2回も出撃すれば死者を生み出し、結果今の人数にまで減らしてきていた。
シュウ達もリッカの強さについては、改めて実感していた。
ネームレスの4人は、大広間で休息をとっていた。
「今の
「俺も同じだ、今回の
シュウは読書をしながら、休憩していた。
「
「そういえば、シュウ君は戦闘が終わるたびに、
パタンッ。
シュウは読んでいた本を閉じ、大広間から外に向かい始める。
「大したことは話していない、
「本当にここに来ようとしているの?うちらが何でここに送られているか知らないのかな?」
「知ってたら、自分から来たいなんて言い出すわけないだろ。シュウが頑張って誤魔化してくれてるからいいけど、ここに来られたら、
シュウは周囲を警戒しに、外に出ていった。
場所は変わり、ロア王国の城にリッカの姿はあった。
この日は、ジン大将に呼ばれていたのだ。
銀色に輝く大きなドアをノックする音が響く。
「入れ。」
「失礼します。ソール見習い、参上しました。」
「お前の功績は、よく聞いている。ネームレスをよく活躍させられているようだな。」
「彼らが強いおかげです、4人で組まれている部隊とは到底思えません。」
リッカの視線は、ジンを捉えて離さない。
「何か言いたげだな、ソール見習い。」
「ジン大将、1つだけ教えて頂けませんか。」
「内容によるが、言ってみろ。」
「ありがとうございます。では簡潔に、ネームレスの人たちは何者なのですか。」
ジンの眉が尖り、リッカを睨むような表情に。
「それを知ってどうする。」
「ネームレスは、私が指揮する部隊です。この先の勝率をあげるために、彼らのことを詳しく知りたいと思うことはおかしいことでしょうか。」
「ふむ、今のお前の任務達成率は100%だろ、これ以上ない成果だ、何をまだ求める。」
「過去のネームレス指揮官の任務達成率も、100%だったと拝見してます。ですが、それは虚実ですよね。」
「その様なこと、どこで知り得た?」
リッカはジンの圧力に負けずに話を続ける。
「否定されないということは、事実と受け取ってよろしいのですね。ネームレスは元から4人であったわけではない、過去の指揮官によって何人も犠牲になっている、なのに部隊に増員は全くない。何故ですか。」
「お前が知る必要はない、目の前の仕事に集中することがお前の仕事だ、余計なことに首を突っ込むなーー。」
「自分の部隊を守りたいと思うことが、余計なことだとおっしゃるのですか!彼らは、ロア王国のどの部隊をも凌ぐ力を持っていると考えています。なのに、彼らに会う事すらできないのはおかしいとしか言いようがありません。」
「……ならば問おう、貴様はどんな真実でも目を背けずに受け入れる覚悟はあるか。」
ジン大将はリッカに近づき、獅子のような形相で確認する。
「はい、私はネームレス部隊の指揮官、リッカ・ソールです、彼らの事であれば全てを受け入れます。」
「……今回の新人、優等生と呼ばれるだけはあるようだな。なら、1つだけシークレットの部分を教えてやろう、あいつらの境遇についてだ。」
「ネームレスの境遇。」
氷で包まれたかのように、部屋の空気が冷たくなる。
「ネームレス、ソール見習いの知っている通り
「それが、彼らの境遇に繋がるのですね。」
「そうだ、奴らは皆、
「っ!?罪を、犯した。それはどのようなものですか。」
「隊員全てを教えることはできない、ソール、知りたい者を1人選べ。」
リッカは考える素振りを見せるが、答えは決まっていた。
「では、
「やはり気になるか、奴のことが。」
「はい、
「いいだろう。」
ジンはリッカから離れ、町が見える窓まで歩く。
そして、その口から放たれた言葉。
「奴の犯した罪、それは……
「殺……人……。」
リッカは驚きのあまり言葉を詰まらせる。
ネームレスの過去は、とても闇が深いものであることが見えてきてしまった。