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第33話 赤ちゃん

「これが、君が自分の力で作ったゲームなの?」

「ああ。出来損ないのノベルPCゲームだけどな」


 病室のベッドデスクに、俺はPCを置いた。

 お義父さんとお義母さんは医者のもとへ行っている。


「主人公は、斜に構えているような俺様タイプ。そんな主人公がある孤島へ訪れたところから物語が始まる、か」


 我ながらすごくテンプレだと思う。それでも、シナリオを書いたことのない俺には、テンプレートを踏襲することしか出来なかった。先人の作り上げた、「泣かせるゲームのシナリオの基本形」


「じゃあ、入院中にじっくり遊ばせてもらうね」

「おう」


 そしたら布団で隠していた、赤ん坊が腹の中に入っている、膨らんだおなかを見せてきた。「触ってみる?」

 緊張しながらも触ってみると、ポコッ、と蹴ってきた。

 ああ、ちゃんと俺たちの子供が生きているんだな。そう実感すると、どうしてか泣いてしまいそうになる。


「あと二か月で十月十日になるの。その頃には君はパパになるんだよ」


 俺は笑った。「そりゃあ、楽しみだ」


「どんなパパになりたい?」

「そうだなあ」

 その瞬間、父親の姿がフラッシュバックした。俺は苦虫をかみつぶしたような顔になってしまう。

「どうしたの?」

「いや、ちょっとな」

 俺の父親にも、出来ちゃった婚を話さないとな。少し、憂鬱だ。


 病室から出て、自販機でコーラを購入した。

 それを飲みながら父親に連絡を掛けた。

「……なんだ。いま仕事中なんだが」

「父さんに話があるんだ」

「……いまじゃああれだ。あとで家に来い」

「分かったよ」


 通話を切って一息つく。父親の声にいまでも緊張する。

 俺は頬を触った。殴られたりしないだろうか。不安だ。


「竹達くん」


 声を掛けられた。その方向を見るとお義母さんが立っていた。俺はすぐに立ち上がって、頭を下げた。


「娘の様子はどうだった?」

「最初は顔色が悪かったんですけど、なんとか調子を取り戻してくれました」

「そう、そりゃあよかった」


 お義母さんが自販機でコンポタを購入する。それを取り出し口からとると、缶を振ってコーンを中でかき回した。それを開けて、猫舌なのかゆっくり飲みだした。


「あの子、まだ十八なのよ」

「……はい」

「神様っていないのね、いたとしたらどれだけ無慈悲なのかしら」


 暗い顔でそう言ったお義母さん。鼻をすすって、少し涙目になっている。


「あの子を看取ってあげて。それがあの子の願いだと思うから」

「そうですよね」


 いまの俺にそこまでの価値があるのだろうか、と不安にもなる。けれど、彼女の恋人としてやれるだけのことはやってあげたい。希美を看取ることが役目なら、忠実にやりたい。それが男として、父親としての義務だろう。


「あなた、シングルファザーになるのはとても大変よ。大学か専門学校には?」

「専門学校に、プログラミングを勉強したくて」

「それは、もう諦めないといけないわね」


 俺は小首を傾げた。「諦めなくちゃいけないんですか?」

 すると鋭くお義母さんが睨みつけてきた。コンポタを呷ってから、


「そりゃあそうでしょ。高卒でも、働ける場所ならいくらでもあるわよ」

 そうだよな、と俺は思った。子供のことを第一に考えるのが親の務めだ。


「俺、ゲームクリエイターになるのが夢だったんですよ。でも、諦めないといけない。そりゃあその通りですよね」

 お義母さんが俺の肩を抱いてきた。


「責任は取ろうとしているのは、評価できるわ。ありがとう」

「いえいえ」


 コンポタの缶をゴミ箱に投げ入れ、お義母さんは立ちあがった。


「じゃあ、頑張って」


 そして去っていった。俺はコーラを飲んだ。もう炭酸は抜けていた。



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