俺は秋月に会う予定を取り付けた。いろいろと世話にもなったし、感謝を言わないとな。
そしてその予定が訪れた。秋月が待っているカフェテラスに来店すると、彼女が沈んだ顔でこちらを見てきた。
「なにやってたの」
席に座り、俺は尖りを帯びた彼女の声音を一身に受けた。
「すまない」
「すまないじゃないわよ。一番希美ちゃんの傍にいてあげなくてはならなかったのに、それから逃げたあなたは非難を受けるべきよ」
俺は項垂れた。「分かっている。俺は、あいつから逃げたんだ。その責任はしっかりと取るつもりだ」
「ならなぜ顔をうつむく? 自信が無いことが明らかでしょ。あなたにはね、言わなくちゃいけないと思っていたのよ」
「なにをだよ」
「あなた、自分に自信が無いから、プロに頼ったんでしょ。ゲームのシナリオから音楽まで。誰も言わなかったから私が言いますけどね、ゲームの賞というのは、アマチュアだったらすべて自分の力で行うべきなのよ」
「……」
「あなたに足りないのは、自分を信じる力。いい? これは私の提案だけど、もう一度ゲームを作りなさい。キャラの立ち絵からシナリオまですべて自分で作るのよ。そうして、今度は希美ちゃんを泣かせてみなさい」
「そんなこと……俺にできるのか」
そしたら、ようやっと笑みを見せてくれた秋月。
「泣きゲーを作るんでしょ。私も小説家だからわかるわ。感動って、人を動かす力になるの。希美ちゃんのがんは末期だけど、でもだからってそのまま死んでいいわけがない」
「そうだよな」
「私も長いこと彼女の友人やっているけど、辛いとき、苦しいときに彼氏が頑張ってくれたら嬉しいはずよ」
その言葉で、俺はどこか吹っ切れたような気がした。
以前、俺の家に初めて来たとき、食事がいらないと言ったのは食道がんの影響だったのだろう。いま思えばすべてつながる。
「で、どれだけのペースでゲームが完成しそうなの?」
それに俺はにやりと笑って答えた。
「一週間時間くれよ。最高のノベルゲームを作ってみせるよ」