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第27話 ゲーム完成

「うーん、完成したあ」

 十月三日。俺は徹夜続きで完成させたPCゲームを早速デモプレイをしてみる。


 青峰ホタルは、言った。

「私が死んでも、代わりはいるもの」

 そんな言葉に高田レイジは首を振った。

「そんなわけないだろ。お前の命はお前だけのものだ」

 自殺を図ろうとしたホタルを必死に止めるレイジ。

 この物語は、ホタルが自分の力で歩けるようになる、生きる目的を探す話し。


 三時間後。俺は落涙してしまった。

 秋月の感動的なストーリーに。

 大竹の魅力的な絵に。

 抒情的な水穂の音楽に。

 どれほど衝撃を受けただろう。


「ありがとう、みんな」


 このレベルだったら、Nextで受賞するかるかもしれない。いや、絶対にそうだ。

 胸を張って、このゲームを誇れる。史上最高のゲームだと。

 俺は、息をついて立ち上がり、水道からコップに水をくむ。それを一気にあおり、水分補給をする。

 ふう……。

 すると、むくっと起き上がった、リビングで眠っていた眞衣は瞼をこすりながら「どうしたの?」と訊ねてくる。

「いや、ゲームに感動したんだよ」


 いま、俺と眞衣は1LDKのアパートで暮らしている。眞衣は俺に遠慮してかリビングで生活しており、一方俺は六畳ほどの個室で居住している。


「そういえば、明日映画に行くんだって?」

「ああ。楽しみにしておけよ」

「子供じゃないんだから、うきうきしないよ」

「うきうきという言葉を使う時点で子供だよ」

 むうっ、と反応する眞衣。

「私、子供じゃないもん。確認してみる?」

 そう上目遣いに見てくる眞衣。いやいや、そんな大人ですよアピールしなくても、冗談だから。

 俺はそんな眞衣の言葉を無視して、コップを流し台に置いた。

 そして、ゲーミングチェアに座ってPCのゲームのデータと企画PDFを挿入したものをKeyに送った。

 結果は、来年に分かる。すごく楽しみだ。


 ◇


 翌日。

 俺は眞衣と一緒にタクシーに乗っていた。

 渋谷にあるTOHOシネマズに向かっているのだ。

 眞衣は、どこか緊張しているのか窓の外をずっと眺望している。


「怖いのか?」

「ううん、怖くなんかない」

 俺は眞衣の頭を撫でてやる。眞衣の頭なんか久しぶりに撫でたな。やわらかい毛髪は、とても温かった。

「この手、あったかい」


 眞衣も同じことを思っていたようだ。

 映画館に着くとまず前売り券を購入した。人が休日とあって多い。休みの日に来たことが眞衣のことを考えると失敗だったかもしれない。

 眞衣はずっと怯えている。

 俺は眞衣の肩を抱いて、歩き始める。


「お兄ちゃん、ありがとう」

「いいんだ」

 するとくすっと妹は笑った。

「なんかこうしていると恋人みたいだね」

「そうか?」


 幻想だろ。そう思ったが、眞衣みたいな美人と恋人だと人々に思ってもらえることが純粋に嬉しかった。

 そんな俺はシスコンなのかもしれない。

 映画館のホールに入り、前売り券をスタッフに見せて、館内に座る。

 するとコマーシャルが上映中だった。アニメや邦画劇場の映像が大音量で流れる。

 そして映画泥棒の注意喚起が放送されたあとで、本編の上映が始まった。


「約束、だよ」


 その、物語の中核を担うセリフに俺はぞわっと鳥肌が立った。

 いよいよ始まるんだ、Nextの伝説的な物語が。


 上映終了後。涙をすする音が場内に響いた。俺も涙目だ。

「お兄ちゃん、すごく面白かったよ」

「ああ。それとな、眞衣。ゲームが昨日完成したって言っただろ」

 眞衣は頷く。「それがなに?」

「遊んでくれないか?」

 わかった、と眞衣は言ってくれた。


 ◇


 眞衣は、険しい表情でゲームをプレイしていた。

 だがしかし、そんな強張った顔は見る見るうちに崩れていった。泣き始めて、「どうしてこの子はこんなに不憫なの」と漏らした。

 ホタルというヒロインに感情移入している。シナリオに感銘を受けている。

 俺はにやにやが止まらなかった。


「お兄ちゃん。すごいよ。このセリフも、キャラの立ち絵も、全部お兄ちゃんがプログラミング設定したんでしょ」

「ああ、そうだよ」


 ゲームプログラミングは、ゲームの下支えなのだ。シナリオライターも、音楽クリエイターもだからこそゲームプログラマーには頭が上がらないのだ。


「なんか、すごい元気出てきた」

「なあ、眞衣……このゲームはお前に向けて作ったんだ。そのゲームの最後の、ホタルのセリフ覚えてるか?」

「『たとえ死にたくなっても、あなたが支えてくれるから頑張れる。一日一歩でも前進しながら前を向く。それをあなたが教えてくれた』」

 俺はにこりと笑った。


「それが、お前に伝えたかったメッセージだ。たとえ空気が読めなくても、クラスに馴染めなくてもいいじゃないか。眞衣にはいまの人生を謳歌してほしいんだ」

「……ッ」

 眞衣が目を見開いた。そして泣き笑いの表情を浮かべた。


「ありがとう。お兄ちゃん……」


 こうして、眞衣をゲームで泣かせることが出来た。目標は達成した。



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