「はい、粗茶ですが」
そう言ってブレンドティをテーブルに置く大竹。その言葉に俺は苦笑する。
「粗茶って、意味違うだろ」
俺は別に目上の人間ではない。
「ってか、ごめんな。居候しちゃって」
俺は粛々とそう述べた。しかし大竹はそれを聞いても笑ってくれた。大丈夫だから、と。
「で、ゲーム制作は順調なの?」
「ああ。一応、PCは持ってきているし、もう五分の一ほど完成している」
「来年までに間に合いそうだね」
ずずっと麺が啜られる音がした。眞衣がカップヌードルを食べているのだ。
それに笑いかける大竹。「おいしい? トムヤムクンヌードル」
「酸っぱくておいしい」
「なんか、前は婚約がどうたらこうたら言っていたから、変人なのかなって思っていたけど、こうしてみると普通の人間ね。いや、すごく可愛い人間かも」
「よかったな。可愛いだってよ」
すると眞衣は上気した顔で、「あ、ありがとうございます……」と言った。
「で、部屋を探すの? ずっとここにいてくれてもいいのに」
「いや、そういうわけにもいかないよ。俺はともかく眞衣の居心地が悪いだろうからさ」
「……そう」
どこか含みがあった大竹の言葉。その真意を探ろうと思ったとき、彼女は立ちあがりパーカーを羽織った。どこかへ行くのだろうか。
「今からコンビニに行くけど、付いてくる?」
「ああ、そうだな。……どうだ? 眞衣も来るか?」
俺は眞衣を誘ったのだが、妹は首を横に振った。
「外には……あまり出たくない」
妹のそんな嘆きに、淡白に答える大竹。
「じゃあお留守番していてね。さあ俊くん行きましょうか」
俺たちは外に出ると、夏の終わりのじめっとした湿度の高い空気が肌に触れてきた。
「眞衣ちゃんをずっと外に出さないつもり?」
夜の街灯に照らされた大竹の横顔は、冷徹のようだった。まるで、いや、本気で俺のことを非難しているのだろう。
「すぐに社会復帰させようとか考えなくてもいいから、リハビリがてら旅行にでも行って来たら」
そう言って見目麗しい笑みを零した大竹。その表情に可愛いと思う。
「たしかにそうだな。考えてみるよ」
眞衣との旅行はどこがいいだろうか。もう九月だし、海水浴という時期でもないしな。花火大会は大竹と一緒に行くし……。
「でも、どこがいいんだろう」
「映画でも行って来たら? Next原作のアニメが劇場公開されるそうよ」
「そりゃあ、いいな」
歩いて二十分ほどでコンビニに着いた。店内に入ると、大竹は夕食を食べてはいなかったので総菜パンとプロテインドリンクを手に取った。
でも、それだけで足りるだろうか。
「ダイエット中か?」
「そうなの。見えないところが太ってね」
「そうは見えないけどなあ。見えないところか……」
ぜひとも、生身を触って確かめたいものだ。
とか、思っていると大竹が半目で、
「いま、エッチなこと考えていたでしょ」
「いや、触って確認したいなあ、って」
「バーカ」
そう言って真っ赤な顔で見上げてくる大竹。その表情はどこか官能的で、俺のオスの部分を刺激した。
俺は恥ずかしくなって目線を逸らした。そして頬をぽりぽりと掻きながら、「駄目かな」とか言ってみる。すると彼女は手を差し伸べてきた。俺は、ん? と思いながらその手を取ってみると腕を引っ張られた。頭が控えめな胸へと吸い込まれ、むにゅとした感触を感じる。
「君のこと、思いっきり抱きしめてみたかったんだ」
「そんな恥ずかしいこと、コンビニのなかでやるなよ」
「いいじゃない。誰も見てないんだし」
そう彼女は言ったが、こちらに気を使っているレジの店員がいる。
「どう? キスまでする?」
「遠慮させてもらう」
俺は彼女から離れて、それから濃厚桃ジュースを手に取って、レジへと並びに行った。