「犬って・・・・・・具体的に何をすればいいんだ?」
まさか、SMプレイを強要されているのか?
「竹達くんはさ、外で放尿したことはある?」
俺は全身鳥肌が立った。思わず
この女と関わったら人生が詰むっていうことを知らせる警告音が鳴り止まないんだよ。
すると秋月は頬杖を付いて、ほくそ笑んだ。
「冗談だよ。でも、これは付けさしてね。それが協力する条件」
そう言って彼女が取り出したのはリングの付いたネックチョーカーだった。俺は思わず口角がひきつった。そのネックチョーカーが首輪の代わりってか。
俺は大腿の震えを感じていた。この女にいつか殺される未来しか見えない。
今、俺の頭のなかではシューベルトの「魔王」が鳴り響いている。不吉だ。
「わ、わかった・・・・・・・・」
そして秋月が俺に近づき、ネックチョーカを取り付けた。首もとに違和感しかない。その感情を悟ったのか、秋月は笑った。「
「じゃあ、早速
俺は愕然としすぎて顎が落ちそうだった。
◇
「で、どんなゲームを作るの?」
もくもくと焼きそばパンを食べながら秋月はそう喋った。
俺はどうしてか秋月の前で正座をしていた。理由はよくわからない。秋月に強要されたわけでもない。なぜか、そうしているのだ。
「ノベルエロゲーを作ろうと思っている」
「そもそも、どうしてこの時期にゲームなんか作ろうと思ったの?」
少々冷ややかな目でこちらを見てくる。
「妹が引きこもりなんだ。そんな妹が好きなノベルゲームで、人生の面白さを気づいてほしいんだ」
「ワンコ君。シスコンだねぇ」
俺はそれを無視した。すると秋月は大笑いした。なに笑っているんだよ、と俺は腹が立ったが、次の彼女の言葉に唖然としてしまった。
「一週間、時間ちょうだい。最高のプロット完成させてみせるから」
◇
「ただいま」
俺は帰宅し、その足で妹の部屋へと向かった。
固く閉ざされた扉の前に、昼食を平らげた空の食器が乗ったトレイがある。そしてそこに付箋で「ありがとう、お母さん」と書かれていた。料理を作ったのは母だからその感謝だろう。
溜め息を妹に聞こえないように吐いて、トレイを持ってキッチンで食器を洗った。
――食べないよりかはマシか。
妹の
そして中学三年である眞依に、父親はプレッシャーを掛けた。進路はどうするの、だったり中卒じゃあどこも雇ってくれないとか、薬にもならない言葉で説教を垂れて。だから俺は妹を守る方法を考えた。しかし所詮消費系オタクでしかない俺に、守れる力なんてないことが分かった。
俺は憧れていたんだよ。漫画やラノベ、エロゲーの、ヒロインを格好良く守る主人公に。
だからこそ、いま、泣きゲーを作りそれを眞衣に遊んでもらい、影響を与えたいんだ。
この世に不憫なことはたくさんある。
それでも、頑張ればきっと幸せなことはあるはずだから、と。
そんな眞衣は今は十六歳。高校には通っていない。就職もしていない。ずっと、あの狭い自室の空間で自分と闘っている。
俺は、ネックチョーカーを触った。待ってろよ。眞依。