目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第3話  

 途方に暮れる。

 見上げた空を鳥が飛んでいくのが見えた。


「こうしていても、仕方ないか」


 流れる雲を眺めたところで状況が好転するわけでもない。未知の場所に改めて一歩を踏み出してみる。


 改めて静かな場所だと思う。

 あてもなく歩いてみると、大小の草木が風に揺れ、時折遠くで物音が聞こえる以外は何もない。


 建造物のようなものは所々目に付くが、いずれも様々な形で破壊の痕跡が見えて、内外から植物の繁栄によって自然に還りかけている。


「困ったな」


 手掛かりも何もあったものではない。文字のような絵柄の羅列は幾つか見受けられたけれど、当然に読めない。


 どうしたものかと頭を掻く。

 恐らく町だったこの場所の住民はいったいどこに行ってしまったというのだろう。


 ひとまず、柵に囲まれて安全そうな場所を見つけ、草に隠れるように遺された長椅子に腰掛ける。恐らく清潔では無いが、贅沢も言っていられない。


 疲労も抜け、流れる雲を数えるのにも飽きた頃、幾つかの足音が耳に入る。この世界に来て初めて感じる他者の気配。


 座ったままで、近づいてくる気配に意識を向ける。柵の向こうで一度警戒するように足を止めた気配の主たちに目を向けると、揃いの服に身を包み、武器と思しき取っ手のついた筒を持っている。


 気配は4つ。

 彼らは私が見ている事に気がついたようで、武器の先端を地面に向けたまま静かに近づいてくる。


 警戒されているのが見て取れる挙動で近づいた彼らは、一定の距離を置いて私の前に立ち、知らない言葉で話しかけてくる。


 彼らの姿は、私の世界にいる人間によく似ていて、私の世界のものより少し小さく、細身のように感じる。敵対的な関係になってもきっと退けることくらいはできそうだ。


 相手が何事か言葉を発している間に考える。

 今のところ彼らは手にしている武器を私に向けるつもりは無さそうだ。ならば無闇やたらに抵抗するよりはおとなしくしておく方が無難だろう。


 言葉が通じないとはいえ、自分以外の何者かに初めて出会えたのだからひとまずコミュニケーションを試みるのが得策だろうと、私も言葉を発する。


 やはり、私の出した言葉は彼らには通じていないようで、驚いた顔をされる。


 先頭に立つ人間はそのような顔をした後で胸元の収納から掌に収まるほどの大きさをした板を取り出し、指先で何らかの操作を行う。


「この文字が読めますか? 読めたら首を縦に振ってください」


 私の方に向けられた端末の画面には見知らぬ文字と私の世界の文字が並んで記されていた。今度は私が驚く番になる。


 これならどうにか会話を行う事ができそうだ。

 筋の通りに首を振って意思疎通が成立した事を彼らに示す。


「我々はこの世界の防衛団体です。異世界の方にお話を伺いたいのですがご同行願えますか」


 続けて提示された言葉を読む。

 丁寧な言葉選びが心からのものなのか、翻訳の都合なのかはわからないが、これを拒むときっと彼らは私を友好的な存在とは認めなくなるのだろう。


 単なる異世界の存在だとしか思っていなかった相手ではあるが、いざ会話が成立して彼らの指示に応じてみると、どうにも違和感とも不快感ともつかない思いが芽生えてくる。


 その思いに導かれるように私の手は無意識に腹へとのびていた。

 未だ生々しく残る腹を刺された感触が、人間を友好的な相手だと認めたくないと訴えているようだ。


 同時に、あの時に投げかけられた言葉が頭をよぎる。人間だからという理由で私の世界のいざこざなど知らない異世界の人間に不信感を抱くのは、魔王の子というだけで私に刃を突き立てたあの男と同じではないか。


 俯き、撫でた腹を見る。

 幻のような痛みを今は飲み込む。


 相手の事を知るまでは、この気持ちは抱くだけにしよう。彼らが私にとって善良だと思えたならこの気持ちは捨てればいい。


 そうでなかったなら。

 果たして私はどうするべきだろう。


 不安を抱いたまま、私は彼らについていく事にした。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?