自称・不幸の権化、他称・クラスの空気。
あだ名はチー牛。
その由来は、チーズ牛丼をこよなく愛し、常に学校に持ち込み、休み時間ごとに頬張っていることから。ちなみに、容器は決まって、底がベタベタになった使い古しのタッパーである。
皆さんはデザイナーベビーという言葉をご存知だろうか。
遺伝子操作技術を用いて、親の望む特徴を持つ子どもを産む技術である。
地位人は、まさにそのデザイナーベビー計画の産物…だったはずなのだ。
両親は、容姿端麗、文武両道、高い知能指数を持つ完璧な子どもを望んだ。
……しかし、結果はご覧の有様。冴えない容姿、壊滅的な学力、運動神経ゼロ、おまけに重度のオタク。
まさにデザイナーベビー計画の失敗作、欠陥品。
「はぁ……。今日も生きているのが辛い……」
地位人は教室の隅、窓際の席で一人、深い溜息をついた。
彼の視線の先には、グラウンドで華麗にサッカーボールを操る一人の少年がいた。
地位人とはまさに正反対の存在、学校一のイケメン、秀才、スポーツ万能、まさに完璧超人。彼こそが、地位人の両親が望んだ理想の子どもの姿だった。
「くっそ……!なんで俺だけこんな目に……」
地位人は、来都に向けられた女子生徒たちの黄色い声援を耳にしながら、唇を噛み締めた。
来都は、地位人のような人間を心の底から見下していた。事あるごとに、地位人に嫌がらせをしてくるのだ。
「おい、チー牛。またチーズ牛丼か?臭くてたまらないんだが?」
来都は、地位人の机に近づくと、鼻をつまんで嫌悪感を露わにした。
周囲の生徒たちは、クスクスと笑い声を上げる。地位人は、何も言い返せず、俯くことしかできなかった。
「……うるさい、ほっといてくれ……」
地位人は、小さな声で呟いた。しかし、来都はそれを聞き逃さなかった。
「なんだ?聞こえないぞ、チー牛」
来都は、地位人の頭を掴み、乱暴に揺さぶった。
地位人は、恐怖と屈辱に震えながら、必死に耐えていた。
その時だった。教室の外が急に暗くなり、激しい雷鳴が轟いた。窓ガラスがガタガタと音を立てて揺れる。
「なんだ……急に……?」
地位人は、不安げに窓の外を見つめた。すると、次の瞬間、強烈な閃光が教室を包み込んだ。
ビシャーーーーン!!
バリバリバリッ!!
二本の雷が空から放たれて、一本はどこかへ吸い込まれるように落ちていき……。
もう一本は、地位人と来都を直撃したのだ!
二人はあまりの衝撃に意識を失った……。
目を覚ますと、地位人は見慣れない天井を見つめていた。
「……ここは……?」
ゆっくりと体を起こすと、周囲の様子に違和感を覚えた。自分の手足が、いつもより長く、すらっとしているのだ。
「……え……?」
混乱しながら、恐る恐る鏡に目を向けた。そこに映っていたのは…なんと、槍間来都の顔だった。
「嘘だろ……!?」
地位人は、自分の目を疑った。鏡の中の来都は、いつもとは違うおどおどとしたイラつく表情でこちらを見つめている。
「……俺……来都の体になってる……?」
信じられない現実を前に、地位人は呆然とした。
一方、同じ頃、病院のベッドで目を覚ました来都は、自分の体に起きた異変に気付き、絶叫した。
「……な……なんだこれは……!?」
来都の目に映ったのは、鏡の中の牛殿地位人、つまりチー牛の姿だった。
「嫌だ……!こんな体、嫌だぁあ……!」
来都は、叫び声を上げながら、ベッドから転げ落ちた。
看護師たちが駆け寄り、彼を落ち着かせようとしたが、来都はパニック状態のまま、病院内を走り回った。
「嘘だッ!これは悪夢だ……!」
来都は、いつもの低いイケメンボイスではない、変に上擦った声で叫び続けた。
翌日、学校には、いつもと違うチー牛と来都が現れた。
「チー牛、もう退院してきたのかよ~!チーズくせーぞ!」
「俺はチー牛ではない……!」
チー牛の体を持つ来都は、これまで地位人が受けていた仕打ちを身をもって体験することになる。
「来都くん大丈夫~!?」
「顔赤いよ?私が保健室で看病してあげようか?」
一方、来都の体を持つ地位人は、女子生徒たちからの黄色い声援に戸惑いながらも、内心では満更でもない様子だった。
「……これは……!?もしかして……チャンス……?(ニチャア)」
地位人は、イケメンの顔には似つかわしくない気持ちの悪い笑みを浮かべた。
こうして、入れ替わってしまったチー牛とイケメン、二人の奇妙な学園生活が始まったのだった。