四年に一回、ルモンド王が、グローリア帝国の街中を歩き回り、気に入った女性を強制的に娶る行為のせいで、ルキアさんの姉が、ルモンド王に気に入られ、強制的に娶り、飽きられたルキアさんの姉は、肉体と精神を壊され、そのまま息を引き取った。
最初は、不治の病で亡くなったと報告されたルキアさんだったが、騎士団に入り、ルモンド王の悪事を全て知ってしまい、姉を殺したのもルモンド王だという事も知り、ルキアさんはルモンド王に復讐するため、騎士団団長まで地位を上げ、ルモンド王のお気に入りになった。
彼の過去を聞いた僕は、その日の夜。眠れずに、横のベッドで眠っているシエルを置いて、裏庭に足を運んだ。顔を上げるとそこには、綺麗な月が顔を出し、月の光だけでも周りがよく見える。星は転々と光っていて、ついつい近くにあるのではないかと思い、手を伸ばしてしまう。
(この手が、誰かを救えるのだろうか)
心の奥底で、不安に駆られていると首元に冷たい感触を感じ、変な声が出てしまった。
「ヒャッ!?」
「……男だろう?」
右手で感触があった首を抑え、振り向くと、胸元の空いた寝間着姿のルキアさんが目に飛び込んだ。
「お、男だが?」
「面白いな、クロイ殿は。ところで、何故。こんな場所にいるんだ?」
「眠れない。だから、ここに来た」
僕は、ルキアさんから竹の筒に入った水を貰い、口を付けた。するとルキアさんは、僕の隣に腰を下ろした。
「不愛想だと嫌われるぞ?」
「別にいい。もう、気にしていないので」
「気にしていないというのは……」
「僕は、幼い頃に〈勇者の血〉が目覚め、〈噓だらけの日常〉を送ってきた。僕を尊敬し、愛してくれる村人たちや恋人の言葉が〈嘘〉だという事を、この目で見てきたんだ。まぁ、不愛想だというのは元からだが、ここまで酷くなるものだと思いもしなかった。王様から、魔王討伐を命じられ、半強制的に追い出された。それで、旅をしていたところにシエルと出逢って、初めてシエルの言葉が〈嘘偽りのない〉言葉だというのを認識し、魔王が本当にこの世界を脅かしているのかと、薄々疑問を抱いていたのが明らかになり、シエルと旅をすることになったんだ」
ルキアさんに、自分が〈勇者〉という事と、過去を明かした。自分が〈勇者〉だという事を明かすのは、あまり良くないと思ったが、口が。言葉が……止まらなかった。
「だから、あの剣を扱うことが出来たんだな」
「あぁ。ルキアさんに『本気を出せ』と言われたときは、少し渋りましたが、怪しまれると思って。だから、本気を出したまでだ」
「……でも、まだ本気あるだろう? あれが本気だったら、シエル殿でも止めることはできないはず。何パーセント出したんだ?」
(何パーセント、か)
「三十程」
僕は本当のことを答えると、ルキアさんは顔を右手で抑え、呼吸を整え始めた。
「すぅ~。本気で?」
「本気と書いて、マジでだ」
「そうか……あれだけでも、死んでたな」
「申し訳ない」
ルキアさんに頭を下げると、その頭に手を乗せてきた。
「いい経験した。謝る必要はない。俺もまだまだという事だ。それに……」
「それに?」
手が退いた頭を上げると、ルキアさんがこちらを見つめながら、何かを考えていた。
「ルキアさん?」
「……なぁ、クロイ殿。もう一つ教えておきたいことがあるんだが、人によっては嫌悪感を抱く話だ。これを話すのは、姉とお前だけになる。もし、嫌悪感を抱いたら、殴ってくれ。頼む」
彼はそう言うと、頭を下げた。
「一応分かった。聞く」
「あぁ」
僕は、ルキアさんの秘密をもう一つ聞くことになった。彼は、本当にこの秘密を話したがらないみたいだったが、自分で言いだしたことで、静かに彼が話し出すまで、待つことになった。
───そして、彼は僕に自分が〈同性愛者〉だということを話し始めた。