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13.〈ルキアの本心〉

 本気を出した僕は、〈エクスカリバーン〉をルキアさん向けて放ち、避けきれそうにないルキアさんに叫び、届かない手を伸ばそうとすると、彼の目の前にシエルが立ちふさがり、デコピンで〈エクスカリバーン〉の斬撃を弾き飛ばした。


「はぁ……?」


「シ、エル?」


 僕とルキアさんはシエルに驚いていると、シエルはため息を吐いた。


「はぁ~。全く、クロイはもう少し、手加減を覚えたらどうだい? ルキア君は、人を煽ることを辞めよう。じゃないと、あの木みたいに木っ端微塵になってしまう」


「今のは、お前がやったのか?」


 ルキアさんは、戸惑いながらもシエルに問いかけた。するとシエルは、静かに笑った。


「あぁ。そうだとも」


「お前は一体、何者なんだ……」


「〈迷い子〉だよ。クロイに拾われたんだ」


(拾ってはいない)


「拾ったのと同じじゃないか! まぁ、このことは忘れたまえ。それで、この勝負はクロイの勝ちということになっても良いんだね?」


 ルキアさんは少し、悔しそうに下を向いたが、すぐに顔を上げて頷いた。


「勿論だ。俺の負けを認めよう」


「あ、あぁ……」


 混乱しつつも僕は、ルキアさんと握手を交わし、互いの強さを認め合った。


「さてと。じゃあ、ルキア君。君の復讐心について話してもらおうかな?」


「分かった。だが、立ち話もあれだ。中に入って語ろう」


 彼の言葉に甘え、屋敷の中へ戻り、客室に招かれた。


「コーヒーでいいか?」


「頼むよ。クロイもいいよね?」


「あぁ。それにしても、この屋敷広いのにもかかわらず、召使はいないんだな」


「俺一人で管理しているんだ。あまり召使とかは取りたくないものでな。元々は、姉と二人で暮らしていたんだ」


 コーヒーの香ばしい匂いが、部屋中に充満し始めた。コーヒーカップに注がれたコーヒーを、ルキアさんが持ってきて、僕たちが座っているテーブルの上に置いた。


「ありがとうございます」


「熱いから気を付けろ」


「〈モーリス〉のコーヒーだね?」


「〈モーリス〉は、姉とよく出かけた思い出があってな。一年に一度、〈モーリス〉に遊びに行って、このコーヒーを買った。今もな」


───〈モーリス〉。コーヒーが有名な街。この世界で、〈モーリス〉のコーヒーには勝てないと、言われているほどの、味と香りを取り扱っている。


「その、お姉さんは今どこに?」


 僕は、お姉さんの行方が気になり、ルキアさんに尋ねると、苦虫を嚙み潰したよう表情で、僕を見つめた。


「……死んだ。の手によって」


「死んだって?」


「あぁ。ルモンドは、女好きで、金・女・酒が好物なんだ。四年に一回、あいつが街の中を歩き、好みの女を探し、娶るんだ」


(そんなことがあるのか)


「娶った女を、自分の奴隷のように扱い、気に入らなかったり飽きたら、すぐ殺すんだ。。それに、下級国民を死ぬまで働かせ、その妻や子供を自分の欲を吐くための、玩具にしている。そのことを知っているのは、ごく一部の人間だけ」


「君は何故、そのことを知っているんだい?」


「俺は、姉を娶ったあいつに復讐するために、騎士団団長という地位まで上がり、あいつに近づくことに成功したんだ。忠義を誓っている俺を信用しているんだ」


「復讐心だけで、それほどの実力を持つなんて……」


 俺は、少し感心してしまった。


「当たり前のことだ。姉を娶り、飽きたからって他の野郎に回し、肉体も精神も殺し、そのままこの世を去ってしまった。このことを隠し、俺に病でなくなったと知らせてきたときは、事実だろうと思っていたが、蓋を開けてみれば、そこは〈噓だらけ〉の話だったことに気づいたんだ。だから俺は、あいつを殺す。同じ目に遭わせてやるんだって……」


「ルキアさん。本当に、それでいいのか?」


 僕は、ルキアさんの光が宿っていない瞳を見つめ、問いかけた。


「クロイ殿?」


「お姉さんは、復讐なんて望んでいない。やり方も色々あると思うが、そんな物理的に殺すのは良くないかと」


「君さ、案外。腹黒い?」


 シエルは呆れた顔をしながら、僕にそう言ってきた。


「知らない。だが、どうしても復讐したいのであれば、この国のやり方で、復讐した方がいい。掟にもなるし、国民にも知らしめることが出来るかもしれないからな」


「クロイ殿。どうか、俺に力を貸してほしい」


「ルキアさんの復讐心が治まるのであれば。それに、僕のやるべきことも、ここにあるのかもしれないから」


 こうして僕とルキアさんは、互いに手助けをすることを約束した。シエルは、興味深そうに僕たちを見てくる一方で、何も口に出して来ないところ、止める気も無いのだろう。誰かが困っているのであれば、僕はそれを助けたい。




(だから、僕は〈勇者〉としての役目を果たす)




 例えこの方法が、間違っていようとも……。

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