本気を出した僕は、〈エクスカリバーン〉をルキアさん向けて放ち、避けきれそうにないルキアさんに叫び、届かない手を伸ばそうとすると、彼の目の前にシエルが立ちふさがり、デコピンで〈エクスカリバーン〉の斬撃を弾き飛ばした。
「はぁ……?」
「シ、エル?」
僕とルキアさんはシエルに驚いていると、シエルはため息を吐いた。
「はぁ~。全く、クロイはもう少し、手加減を覚えたらどうだい? ルキア君は、人を煽ることを辞めよう。じゃないと、あの木みたいに木っ端微塵になってしまう」
「今のは、お前がやったのか?」
ルキアさんは、戸惑いながらもシエルに問いかけた。するとシエルは、静かに笑った。
「あぁ。そうだとも」
「お前は一体、何者なんだ……」
「〈迷い子〉だよ。クロイに拾われたんだ」
(拾ってはいない)
「拾ったのと同じじゃないか! まぁ、このことは忘れたまえ。それで、この勝負はクロイの勝ちということになっても良いんだね?」
ルキアさんは少し、悔しそうに下を向いたが、すぐに顔を上げて頷いた。
「勿論だ。俺の負けを認めよう」
「あ、あぁ……」
混乱しつつも僕は、ルキアさんと握手を交わし、互いの強さを認め合った。
「さてと。じゃあ、ルキア君。君の復讐心について話してもらおうかな?」
「分かった。だが、立ち話もあれだ。中に入って語ろう」
彼の言葉に甘え、屋敷の中へ戻り、客室に招かれた。
「コーヒーでいいか?」
「頼むよ。クロイもいいよね?」
「あぁ。それにしても、この屋敷広いのにもかかわらず、召使はいないんだな」
「俺一人で管理しているんだ。あまり召使とかは取りたくないものでな。元々は、姉と二人で暮らしていたんだ」
コーヒーの香ばしい匂いが、部屋中に充満し始めた。コーヒーカップに注がれたコーヒーを、ルキアさんが持ってきて、僕たちが座っているテーブルの上に置いた。
「ありがとうございます」
「熱いから気を付けろ」
「〈モーリス〉のコーヒーだね?」
「〈モーリス〉は、姉とよく出かけた思い出があってな。一年に一度、〈モーリス〉に遊びに行って、このコーヒーを買った。今もな」
───〈モーリス〉。コーヒーが有名な街。この世界で、〈モーリス〉のコーヒーには勝てないと、言われているほどの、味と香りを取り扱っている。
「その、お姉さんは今どこに?」
僕は、お姉さんの行方が気になり、ルキアさんに尋ねると、苦虫を嚙み潰したよう表情で、僕を見つめた。
「……死んだ。
「死んだって?」
「あぁ。ルモンドは、女好きで、金・女・酒が好物なんだ。四年に一回、あいつが街の中を歩き、好みの女を探し、娶るんだ」
(そんなことがあるのか)
「娶った女を、自分の奴隷のように扱い、気に入らなかったり飽きたら、すぐ殺すんだ。
「君は何故、そのことを知っているんだい?」
「俺は、姉を娶ったあいつに復讐するために、騎士団団長という地位まで上がり、あいつに近づくことに成功したんだ。忠義を誓っている俺を信用しているんだ」
「復讐心だけで、それほどの実力を持つなんて……」
俺は、少し感心してしまった。
「当たり前のことだ。姉を娶り、飽きたからって他の野郎に回し、肉体も精神も殺し、そのままこの世を去ってしまった。このことを隠し、俺に病でなくなったと知らせてきたときは、事実だろうと思っていたが、蓋を開けてみれば、そこは〈噓だらけ〉の話だったことに気づいたんだ。だから俺は、あいつを殺す。同じ目に遭わせてやるんだって……」
「ルキアさん。本当に、それでいいのか?」
僕は、ルキアさんの光が宿っていない瞳を見つめ、問いかけた。
「クロイ殿?」
「お姉さんは、復讐なんて望んでいない。やり方も色々あると思うが、そんな物理的に殺すのは良くないかと」
「君さ、案外。腹黒い?」
シエルは呆れた顔をしながら、僕にそう言ってきた。
「知らない。だが、どうしても復讐したいのであれば、この国のやり方で、復讐した方がいい。掟にもなるし、国民にも知らしめることが出来るかもしれないからな」
「クロイ殿。どうか、俺に力を貸してほしい」
「ルキアさんの復讐心が治まるのであれば。それに、僕のやるべきことも、ここにあるのかもしれないから」
こうして僕とルキアさんは、互いに手助けをすることを約束した。シエルは、興味深そうに僕たちを見てくる一方で、何も口に出して来ないところ、止める気も無いのだろう。誰かが困っているのであれば、僕はそれを助けたい。
(だから、僕は〈勇者〉としての役目を果たす)
例えこの方法が、間違っていようとも……。