シエルの一方的な提案により、ルキアさんと一勝負することとなった。
報酬の内容は、クロイ・シリルが勝利した場合、ルキアさんの〈復讐心〉について教えてもらう。
ルキア・マエロンが勝利した場合、僕の正体を〈勇者〉だということを明かす。
僕の場合、正体を明かしてもいいと思っているが、シエルによると『ルキア君の本性を知りたいから、君の正体を明かすというのを、餌にしただけのことさ』らしい。シエルらしい案ではあるが、急な展開で少々、理解しがたいものではあった。
「ここが俺の屋敷だ」
ルキアさんが住んでいる屋敷へと案内された僕とシエルは、屋敷の中へ入ると、天井には大きなシャンデリアと長い階段が目に入った。そのまま庭のある裏口へと案内された。
「ルキアさんって、騎士なんだよな?」
「あぁ」
「地位は……?」
「言っていなかったか。〈騎士団団長〉だ」
(騎士団団長!? なら、尚更納得だ)
「クロイ~勝てる?」
シエルは、僕の腕をツンツンと触りながら、そう言ってきた。
「剣を交えないと分からないが、僕は負けない」
「そう来なくっちゃ!」
広々とした庭に着いた僕たちは、ルキアさんと向き合い、腰に差している剣を抜いた。すると、ルキアさんの大剣は鍔までしかなく、その先は水で出来ていた。
「俺は、水の使い手だ。言葉の通り、水を自在自由扱える」
「へぇ~。それで? クロイはどうして、いつもの剣を使わないのかな?」
僕は、エクスカリバーではなく、通常の剣を鞘から引き抜いた。シエルは何となく感づいているだろうと思いながらも、シエルに答えた。
「この剣を使ったら、正体がバレるだろう? 敢えてだ」
「ふぅーん。まぁ、良いけど。魔法ありの勝負で良いね? お二人さん」
「勿論だ」
「じゃあ、始め!!」
シエルの合図で、僕とルキアさんは互いの剣を交えた。水で出来た大剣だが、鋼の様に力強く、素早いルキアさんとの相性もいい。
「〈イグニス〉!!」
剣先に魔力を込め、炎を纏わせ、ルキアさんに向かって炎の斬撃を与えたが、彼の剣により、炎が消されてしまった。
(当たり前か)
「アクア・エッジ」
水の大剣が大きくなり、ルキアさんの素早い足取りで、背後を取られた僕は、すぐさま剣でカードした。
「ッツ!!」
「クロイ殿、始まったばかりだぞ。もっと、本気を出してもらって構わん」
「……本当にそれでいいのか?」
僕は、彼のオリーブ色の瞳を睨みつけた。
「構わんと言っている、だろうがッ!」
「分かった。なら、そうする」
ルキアさんに何とか隙を作り、空間移動をし、彼の背後に回り、腰に差していたエクスカリバーを引き抜いた。
「空間移動だと!?」
「───数多を駆け抜ける竜の息吹よ。今こそ呼び覚ませ。〈エクスカリバーン〉!!」
エクスカリバーを引き抜いたことにより、僕の魔力はエクスカリバーに全て回り、光の風による斬撃が、ルキアさんを襲った。ルキアさんは、大剣でカードしようとしたが、斬撃の方が早く、ルキアさんを斬ろうとした。
「まずい!! ルキアさん!! 避けろっ!!」
僕は、すぐさまルキアさんに叫ぶと、斬撃は止まらず、ギリギリ避けれそうにないルキアさんが、目に飛び込んだ。
(本気、出しすぎた……)
もう、ダメかと思った所に、シエルが間に入り、デコピンで斬撃を跳ね返し、ルキアさんの庭にある、一本の木を切り倒したのであった。