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09.〈グローリア帝国〉

 三日後。


 グローリア帝国に辿り着くことが出来た僕とシエルは、早速門番に捕まり、ボディチェックと神を信じているのかと尋ねられた後、嘘発見器代わりの水晶玉に、手をかざしたシエルと僕だったが……。


「よし! 通っても良いぞ!!」


 水晶玉は黄色く光ったことにより、無事グローリア帝国の中へと入ることに成功した。


「あーあ。めんどくさいね!!」


「シエル、これは決まりだ」


「あたしに説教でもする気かい?」


「そうじゃない。ルールは従うものだと言っているだけだ」


 当たり前のことをシエルに言うと、シエルは深いため息つきながら、僕の右手を握った。


「ルールがあったとしても、それに従う理由なんてあるのかい? どうせ、従ったとしても、濡れ衣を着せられて処罰されるだけのことさ」


「濡れ衣を着せられる前に、証拠を見せればいいじゃないか?」


「相手側が賄賂を貢げば、こっちの意見なんて聞こうともしない。人間は本当に愚かなものだよ」


(子供らしい言動ではないな……。一体、何があったんだ?)


「あたしの過去を漁ろうとしない方が、身の安全だとも。でもまぁ、そのうち分かるよ。


「シエル……」


「さーて! どこを見て回ろうか! 今日はまったりゆっくりして、明日から魔王の情報を集めないかい? 意外と長旅だったし、君も、ユーベルでの出来事の疲れが残っているだろう? 肉体的にも、精神的にもね」


 シエルの言う通り、ユーベルでの出来事は、苦痛でしかなかった。あんなことがあれば、誰だって精神的に来る。


(ここは、シエルの言う通りにするか)


「シエルの意見を尊重する。今日はゆっくりしよう」


 僕がそう言うと、シエルは子供らしく目を輝かせた。


「本当かい!? なら、宿をとってから、美味しいものを食べに行こう!! 勿論、君のおごりで!!」


「それが目的だったのか……。まぁ、良いか」


 まんまとシエルの策略にハマった僕は、先に宿を探すことにした。


 街の中は、人が多く、あの貴族らを入れたエレドリヌと、ユーベルの人口を合わせても、グローリア帝国の方が、圧倒的に人口数が多い。


(シエルと、はぐれないようにしないとな)


 はぐれないようにシエルの手を強く握り、街の中を歩いていると、近くにあった年季の入った宿屋を見つけた。


「ここでも良いか?」


「クロイが良いのであれば、あたしはどこでも良いさ」


 シエルの許可も下りたところで、僕たちはその宿屋に足を踏み入れた。中は、静かな曲が流れていて、受付にはおじいさんが立ってた。


「いらっしゃいませ。お客さんかね? 儂は、店主のバーナと申しますとも。ですが、お気になさらず」


 宿屋の店主・バーナさんが、優しそうな笑みで僕たちを迎え入れてくれた。


「僕は……と言います」


「ゆっくりしていってくださいな」


「感謝します」


 僕は、今夜の分の料金を払い、二階に案内された。意外と部屋の中は、綺麗でベットもふかふかだった。


「ねぇ、クロイ。何故、君はとファミリーネームを名乗ったんだい? クロイって、普通に名乗ったらよかったんじゃないかな?」


「クロイだと、勇者・クロイだとバレる可能性が高い。敢えて、ファミリーネームを名乗っただけのことだ。それが問題でもあるのか?」


 事実をシエルに伝えると、またもや深いため息をつかれた。


「本当に君は、用心深いね~。〈勇者〉としてバレるのが、そんなにも嫌なのかい?」


「嫌というわけではないが……」


(あの日のことを、思い出してしまうからな)


「……トラウマか。それなら、いっそうのこと〈勇者〉なんてやめてしまえばいいんじゃないかな? そうすれば、君はとして、新たな道を歩める。それに、あたしからすれば、そっちの方がだ」


「〈勇者〉を辞める……か。考えたことなかったな」


 どれだけ、自分が〈勇者〉としての役目を背負ってきたのか。一度も、〈勇者〉を辞めるという考えは浮かび上がってこなかった。


(血が。〈勇者〉の血が流れていることは変わらない)


「たとえ、血が流れていても、ルートを変えれば、君が望んだ未来や、これから歩もうとする未来が見えてくる。クロイ・シリルとしてのルートが、そこにあると思うんだよ。そのルートを一から始めて、君の見合った未来が待ち望んでいるだろう。まぁ、あたしは君がどんなルートに行ったとしても、傍に居続けるけどね。最悪、あたしが君を殺すルートも目に見えている。それはそれとして、今の君は【クロイ・シリルとして、新たな道を進む】か【このまま、〈勇者〉として突き進む】のか」


「シ、エル?」


シエルは、突然僕に飛び乗ってきた。僕の首に腕を回し、耳元でさらに囁く。


「それとも、あたしと共に来るかい? 今ここで、あたしの正体を教えてから、選択肢を与えてもいいね。



───ねぇ、クロイ。君は、どのルートを選ぶ?」


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